2021年上半期(3月〜8月)、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。メジャーリーグ部門の第3位は、こちら!(初公開日 2021年3月27日/肩書などはすべて当時)。

MLB5球団で活躍し、故郷のある東北楽天で日本球界に復帰。引退後はパドレスのフロントとして、選手の育成やチーム編成に携わった斎藤隆さん。現在はNHK BSのMLB中継などで解説を務める斎藤さんに聞いたメジャーリーグのストーブリーグ事情。斎藤さんが当時議論を重ねた日本人野手とは?(全2回の1回目/#2へ)

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「田中はメジャーのFA選手で、5本の指に入る投手だった」

――パドレスのフロント経験もある斎藤さんに、まずは、昨年から今年にかけてのアメリカのストーブリーグ戦線についておうかがいします。

斎藤 コロナ不況が直撃しましたね。その象徴が楽天に復帰した田中(将大)でしょう。今オフのメジャーのFA選手の中では、5本の指に入る投手だった。チームによっては、真っ先に田中獲得に名乗りを上げたところもあったと思うんです。ただ、どこも懐事情が苦しい中で、田中クラスの選手に見合う条件を提示できなかった。結果、あれだけの選手が日本に戻ってくることになったわけです。

――今オフ、渡米を希望した日本人選手は4人いました。巨人の菅野智之、ロッテの澤村拓一、日本ハムの有原航平と西川遥輝です。有原、澤村は契約まで行きましたが、菅野と西川は契約に至りませんでした。ただ、2人は対照的で、菅野は「行かなかった」のに対し、西川は「行けなかった」わけですよね。

斎藤 菅野は行こうと思えば行けたんでしょうね。ただ、条件が見合わなかったんだろうな。だから結果的に、菅野もコロナの影響を受けたということになるのでしょう。でも今はアメリカか日本かという二者択一の時代ではない。アメリカ30球団プラス日本12球団の中で、自分がいちばん納得できるチームを選べばいい。最近は向こうの選手が「日本の球団も視野に入れている」と発言することもあるくらいですから。駆け引きだったとしても、名前が出てくるだけでもすごいことですよ。

――実際、2019年には、アメリカで1巡目指名を受けながらも合意に至らなかったカーター・スチュワートがソフトバンクに入団するなんてこともありましたからね。

斎藤 あれは衝撃的なニュースでしたね。近年、野球界におけるソフトバンクの存在感は、どんどん大きくなっています。本気でMLBに勝つつもりでいる。世界一のチームを、世界一のリーグを作ろうとしています。

「イチローや松井が例外だったんですよ」

――西川に関しては、日本で3割6厘、42盗塁という成績を残したにもかかわらず、どこからも声がかからなかった。相変わらず、日本人野手への評価は厳しいなという印象が残りました。

斎藤 野手に関しては、「なぜ行けなかったのか」という話をするのは酷だと思います。むしろ、イチローや松井(秀喜)が例外だったんですよ。というのも、メジャー規格の日本人野手が現れないのは、日米の組織の違い、土台の違いですから。アメリカのプロ野球団は、実質的に七軍ぐらいまであると考えていい。七軍から上がるのでも何十人の中の競争に勝ち抜かなければならない。それで、やっと六軍ですから。よく「ほんの一握り」という表現を使いますが、メジャーリーガーになれるのは、まさにほんの一握りなんです。日本に三軍ができましたっていうけど、そういうレベルの話ではありません。

――そういった育成システムの違いで、もっとも大きな差が現れるのは、打撃力、走力、守備力のうちどれですか。

斎藤 守備じゃないですか。特に内野守備です。

――打撃ではないんですね。

斎藤 もちろん、打撃もそうですが、内野の守備力は、芝生の上で野球をやることが当たり前だった彼らと、土と人工芝しか知らない日本人選手では、考え方や捕り方に根本的な違いがあります。だから、上手い下手ということではなく、違うんですよ。それが土台の違いという意味なんです。

獲得候補に挙がった“2人の日本人野手”

――野球の哲学の違いもありますよね。アメリカは「点取りゲーム」だけど、日本は「点を取られちゃいけないゲーム」。だから、どうしたって求められる技術も変わってくる。

斎藤 僕も最後の3年間、楽天でプレーをして、パ・リーグのパワー野球を体感しました。実際、セ・リーグ以上にアウトを取るのは難しく感じました。ただ、日本とアメリカの違いというのは、そんなものではないですからね。特にここ数年、アメリカでは「フライボール革命」が起き、多くのチームが1番から9番まで、常にホームランを狙える打者を揃えている。そこに入っていける日本人選手となると……どうです? いますか? 僕がパドレスのフロントにいた頃、その議論をもっとも多く重ねたのは、柳田(悠岐=ソフトバンク)と山田(哲人=ヤクルト)でしたね。でも、彼らは、もうアメリカへは行かないんじゃないかな。行ってたら……とは思いますけどね。

――日本人野手の場合、ホームランは1桁だけど、俊足で、巧打者で、それなりに守れるみたいな選手では、興味を示してくれないんでしょうね。

斎藤 イチローみたいにとんでもなくヒットを量産する打者なら、また話は違うかもしれませんけど。あと、また「スモールベースボール」の時代になって、(トニー・)ラルーサのようにその本質をよく理解している指導者が現れれば、田口(壮)のような選手が重宝がられるかもしれませんね。

大谷翔平の二刀流はどう思っていますか?

――新たにメジャーに挑戦する澤村、有原の2人の活躍はどう予想されますか。斎藤さんはアメリカでリリーバーとして飛躍されましたが、アメリカの野球に合う合わないみたいなものはあるのでしょうか。

斎藤 こればっかりは、やってみないことには、としか言いようがないですね。合う、合わない……。うーん……、それは難しいですね。結果が出たら、何とでも言えるんでしょうけど。

――今オフの日本人選手の動きでいうと、ブルージェイズが1年目の山口(俊)を自由契約にしたのにも驚かされました。結局、山口はジャイアンツとマイナー契約を結びましたが、ブルージェイズと山口は2年契約を結んでいたので、残りの2021年の年俸、約3億3000万はブルージェイズが今後も支払い続けるわけですよね。

斎藤 日本では考えられないでしょうけど、アメリカでは普通ですよ。毎シーズン、メジャー契約できるのは40人しかいないので。メジャー契約とは、日本のプロ野球で言うところの支配下登録です。日本の場合は一軍と二軍が同じ組織なので70人の枠がある。つまり、メジャーの方が、その1枠がずっと貴重なんです。なので、山口の1年分の年俸を払ってでも、その貴重な1枠を買い戻したいということなのでしょう。ミーティングが開かれるたびに、フロントの人たちは、だいたいその40人枠のことばかりを話しています。誰を切るべきか、誰を置いておくべきか、と。アメリカも日本もプレーヤーは財産だと考えている点では共通していますが、アメリカはそこの作業はとてもドライ。僕がアメリカで不思議に感じたのは、ドラフトの指名選手なんですよね。普通、自分のチームの戦力を見て、足りないところを埋めるものじゃないですか。でもアメリカでは、評価の高い選手を、ポジションが被ってもいいから順に獲っていく傾向が強い。だから、どうしても山口のように力があっても、チームバランスを考えたときにあぶれてしまう選手が出てくる。だから、誤解して欲しくないのですが、山口は決してメジャーからダメだという烙印を押されたわけではない。たまたまブルージェイズからは必要ではないと判断されただけ。ただ、リリースのタイミング(2月13日)は、ひどかったですね。あれは失礼です。エージェントは契約選手があんなことされたら強く抗議すべきですよ。

――ありきたりな質問で恐縮ですが、今年も何かと議論が白熱しそうな大谷翔平(エンゼルス)の二刀流に関してはどう思っていらっしゃるのですか。

斎藤 正解、不正解ということではなく、あくまで個人的な見解ですけど、僕は彼はピッチャーだと思っています。僕がピッチャーだったから、そう思うのかもしれませんけど、160キロ投げられる人って、世界でも数えるほどしかいないんですよ。ただ、向こうでの評価は、圧倒的に野手としての方が高いみたいですね。一度、彼にトレーニングはどうしているか聞いたら、ピッチャー用、野手用みたいな分け方はしていないと言っていたんです。それで、このパフォーマンスをいつまで維持できるんだろうとは思いました。僕の感覚だと、ピッチャーってインナーマッスルなどの繊細な筋肉を鍛えていかないと、どんどん衰えていってしまうんですよ。ただ、彼が二刀流のままプロ野球人生を終えた時、まったく新しいトレーニング理論を語っている可能性もある。それはそれで興味がありますね。

(写真=山元茂樹)

文=中村計

photograph by Shigeki Yamamoto