2021年上半期(3月〜8月)、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。甲子園2021部門の第1位は、こちら!(初公開日 2021年8月23日/肩書などはすべて当時)。

 これほどの自信を持ってエース以外の投手を先発に送り出すチームは全国でもそう多くはない。

「球数制限が頭になかったといえば嘘になりますけど、誰かを温存するために竹中(勇登)を先発にしたわけではありません。プロ野球みたいにローテーションを組めるわけではないですから。今日一番状態のいい投手を選んだ結果が竹中だったということです」

 優勝候補の最右翼に挙げられていた大阪桐蔭が近江に4-6で敗れ、2回戦で姿を消した。ドラフト候補と騒がれるエース左腕の松浦慶斗をマウンドに送り出すことがないままの終戦だった。

決勝戦まで1週間5試合「500球の球数制限」

 エースをマウンドに上げない決断には様々な憶測が飛び交った。

 雨天順延が続き、この日(23日)から決勝戦(29日)まで日程が詰まり、「1週間500球の球数制限」の影響が出てくる。決勝戦まで考えると5試合。エースの球数を考えれば、2回戦で登板することは避けたくなるだろう。

 故障防止の観点から考えても、この日先発の竹中が好投すれば、2本の軸ができる。交互に先発することも可能となり、一人の投手への負荷は軽減される。

 しかし敗戦後の記者会見で、大阪桐蔭・西谷浩一監督はそれらの質問に「先を考えたわけではない」と頑なに否定した。あくまで相手打線を考えた上で竹中を先発起用したと明言。その姿勢に「これが大阪桐蔭の戦い方」という強い意志を感じた。

 事実、先発した竹中の状態が悪いわけではなかった。

 3回裏にスクイズで1点を許し、4回裏にソロ本塁打を浴びた。しかし1点ずつの失点はそう深い傷ではない。竹中は点差を意識して投げているようで、近江打線を勢いに乗せないピッチングと言ってよかった。5回裏にも1死満塁から1失点するも、ピンチを最小で乗り切る竹中の持ち味は発揮されていた。

 むしろ誤算だったのは打線の方だった。1、2回に4点を幸先よく先制したものの、追い上げてくる近江を突き放すことができなかった。

 西谷監督はこう悔いた。

「思いの外と言いますか、(近江先発の)山田(陽翔)くんの立ち上がりを攻めることできました。ただ次の1点を取ることができなかった。山田くんが切り替えてきたところに、こちらが対応できなかった」

 大阪桐蔭が先攻だったことも、精神的にプレッシャーになった。

 追いすがってくる近江に対し、「じわりじわりと迫ってくるプレッシャーがあった」という西谷監督の言葉にも現れている。

 7回裏に近江5番新野翔大にタイムリーを許してついに同点(4−4)。大阪桐蔭は4点を先に奪って以降、守りに入ったかのような戦いになった。

「4ー4」8回裏の大きな決断

 そして、同点の場面で迎えた8回裏に西谷監督は大きな決断をする。

 ここでもエースの松浦をマウンドには上げず、2年生の長身右腕・川原嗣貴を起用した。その理由をこう説明する。

「ブルペンで投げていた川原の状態が良く見えました。ブルペンキャッチャーからも、そういう報告を受けていたので」

 その川原は、先頭打者を遊撃手のエラーで出塁を許すものの、8番横田悟、9番岩佐直哉に送りバントをさせなかった。ここまでの回と同様、近江が得点圏に走者を進めようとしてきたところをうまく阻止する。

 ところが、1番井口遥希に回るとボールが浮く。井口、2番西山嵐大に連続四球。後がなくなり、ストレートが甘くなったところを途中出場の3番山口蓮太朗に2点適時二塁打を打たれた。

 そして9回表の攻撃が無得点に終わり、大阪桐蔭は敗れた。

2つの盗塁死…なぜ追加点を取れなかったのか?

 投手起用に目がいきがちだが、西谷監督の采配に問題があったとすれば、攻撃面だろう。4点目以降の追加点が取れなかったことが敗因の一つだ。

 この日、大阪桐蔭には2つの盗塁死がある。

 1つ目は5回表2死の場面で花田旭が、2つ目は8回表1死から代走の石川雄大がアウトになったシーンだ。ここは1死から6番宮下隼輔の打席でエンドランを試みるもファウルフライ。次打者・野間翔一郎の初球に二塁を狙ったところ、近江の捕手・島滝悠真の強肩に捕まった。

 大阪桐蔭ほどの打線であれば、代走を出しただけでも相当なプレッシャーになる。走者を意識させて配球を偏らせて、そのボールを狙う。かつてのチームがやったように盗塁リスクよりも確実な方法を選択しなかったのは反省材料だろう。

 西谷監督はいう。

「前半の4点(リード)のままいくとは思っていませんでしたけど、そこから丁寧な攻撃ができなかった。足を絡めたりしたいと思ったんですけど。逆に近江さんは1点1点追い上げてきてしんどい形の試合になりました。粘り強い野球をやりたかったんですけど、逆にされてしまったことが敗因だと思います」

西谷監督「甲子園で勝つことも大事ですけど…」

 エースをマウンドに上げずに負けたわけだから、西谷監督の采配を批判する声も当然あるだろう。しかし、この日の決断は決して間違いではない。1週間で5試合を戦わなければいけない過密日程の中で、投手の運用は絶対に無理があってはいけない。

 勝敗を目前にすると、甲子園という舞台ではどうしても特定の投手に頼りがちになる。西谷監督がこの日見せた投手の采配には、いい素材を全国から集めながらも、それを甲子園という舞台だけで食いつぶしてしまわないような“配慮”を感じずにはいられない。

 西谷監督はこの日の決断はこれからも変わることはないと語っている。

「例年、複数投手で戦っていこうと考えていますけど、やはり一人でも多い投手を作っていかないといけない。選手を怪我させてしまうのはダメですし。勝つことも大事ですけど、一人一人の選手を守っていくのは当然だと思います。500球の球数制限がある以前からそういう考えを持っていましたけど、今、より一層そういう気持ちになっています」

 大阪桐蔭が2回戦で大会からあっさり姿を消すことはビッグニュースだ。

 一方で、一人の投手に頼らないチームづくりのうえでの敗戦は大阪桐蔭が貫いてきた哲学だ。「王者」「横綱」「優勝候補」「タレント集団」……大会に出ればいつも騒がれるチームは、その面目を保ったまま大会を去る。

文=氏原英明

photograph by Nanae Suzuki