2021年上半期(3月〜8月)、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。スポーツ総合部門の第3位は、こちら!(初公開日 2021年8月1日/肩書などはすべて当時)。

 東京五輪では、競技とはまた別のところで、スポーツの、いやスポーツにとどまらず社会全体にもかかわるテーマや課題が生まれた。

 その1つに、SNSなどでの誹謗中傷の問題がある。これまでの大会にはなかったほど、ニュースとしても大きく伝えられている。

 7月28日には、卓球の水谷隼が誹謗中傷の被害にあっていることをツイッターで発信した(現在削除済み)。

 この日は、サーフィンの五十嵐カノアがツイッター上で寄せられた誹謗中傷に対して反論したことが報じられ、翌7月29日には個人総合決勝を終えた体操の村上茉愛が、試合後メディアの取材の中で誹謗中傷があったことなどを話した。

©Kiichi Matsumoto/JMPA

 同じ7月29日には体操の橋本大輝がツイッターで誹謗中傷について触れた。これは採点を巡ってのものであったことから、国際体操連盟が、審査は公正であり正確であった旨の声明を出す事態となった。

 これらはおそらくは一部に過ぎず、少なくないアスリートが、誹謗中傷にあたる被害を受けていると考えられる。

ベテラン選手とその家族へ「老害」と中傷が

 今回の五輪に限らず、SNSの利用者が増えるにつれて、これはしばしば問題となってきた。例えば2018年、サッカーワールドカップの開幕前には、代表のベテラン選手に対して「ごみ」、「老害」などの言葉がぶつけられ、同様の中傷が家族などにも向けられたという。

 これを引き起こす要因はそれぞれにある。橋本の場合のように、競技の採点に対する不満から選手本人に誹謗中傷の言葉を送りつけることもある。あるいは単純に、応援する選手が敗れた腹いせとして対戦相手に言葉を投げることもあるだろう。試合以外のさまざまな要素も原因となる。ただ「気に食わない」から、としか考えられないようなことに起因していることもある。

©Asami Enomoto/JMPA

 先のサッカーの場合は、日本国内の人々によるものがほとんどだったと思われるが、今回は国境を超えて声が寄せられている点も目立つ。誹謗中傷は世界的な問題でもあるのだ。

 さらにはSNSだけではなく、ポータルサイトに掲載された記事のコメント欄もクローズアップされた。日本の記事に書き込まれたコメント内容の酷さを、海外でも複数のメディアが伝えている。

SNS隆盛時代の到来前にも誹謗中傷はあった

 東京五輪で焦点があてられた誹謗中傷は、ただ、SNSが流行った今日だけの問題ではない。

 かつて、オリンピックを「楽しむ」という発言から、「楽しむとは何事か」と、テレビ、新聞、雑誌などで壮絶なバッシングを受けた選手がいた。

 代表選考会を「通過点」と語った選手がいた。本番でよい成績を残すことを視野に入れ、その過程として代表選考会を捉えるという発想が、なぜか、生意気、思い上がりだと問題視され連日、紙面などで大きく取り上げられた選手がいた。

 すると起こったのは、関係する団体への抗議の電話である。その内容は、今日の法律では犯罪にあたるような言葉が用いられる、誹謗中傷と呼べるものが少なくなかった。

 その時代にインターネットが発達していて、SNSも隆盛だったら、どんな事態を引き起こしていただろうか――。

“ゼロにはならない”現実をまえに考えること

 これら過去に起きた出来事を考えれば、誹謗中傷を行なう人が社会からいなくなることは、おそらくはないであろう。誹謗中傷することの問題点やその行為の意味などを広め、より少なくしていくように努めることは大事ではある。それでもおそらくは、ゼロにはならない。まして現在は、SNSでメッセージを直接送りつけることが容易な時代である。

 ときに「選手がSNSを使わなければいい」という意見を聞く。だがそれは誹謗中傷への対処として正しいとは言えないだろう。選手たちにも、他のアスリートとのやりとりや情報収集、ファンとの交流、意思や活動の発信と、それぞれにSNSを使用する目的がある。

「気にしないようにすればいい」という声もある。聞き流せる、読み流せるメンタルのある選手もいるかもしれないが、選手も人間であり、多くの場合そうできることではない。何年の何月にどういうメッセージが寄せられたか、明確に記憶している、つまり心に傷を残した選手がいるし、「いくら時間が経っても、思い出してしまいます」と語る選手もいる。「日本から出て行け」「金で成績買うな、いんちき野郎」「くず」「死ね」……容姿までも中傷される。それらは消えることなく、選手の内側に残り続ける。そして現在、国境を越えて、誹謗中傷の言葉が行きかっている。

メディアが背負っている責任

 SNSに詳しい人によれば、届くメッセージを制限したりするなどの方法はあるという。また、メンタル面のケアや法的に訴えようという場合も含めたサポートを整備することも重要だろう。根本的な解決にはならないが、選手のためには役立つはずだ。

 対策を講じたうえで、少しでもこれを減らしていくには、メディアもまた無関係ではない。テレビで、紙の媒体で、ネットの媒体で、ときに中傷を煽る、あるいは増幅してしまう報道がなされることがある。テレビのさまざまな番組で、いっせいに同じトピックを取り上げる。番組は違っても同じ方向で批判的に取り上げれば(しかも的外れなときもある)、視聴者がそこに乗っかっていく流れが生まれる。

 活字メディアも、中傷の火種を生むことはある。SNSでの発言を記事にするケースも増えたが、その取り上げ方によっては、やはり誹謗中傷につながることがある。伝える立場もまた、この問題と無縁ではいられない。

©Takuya Matsunaga/JMPA

文=松原孝臣

photograph by Asami Enomoto/JMPA