試合終了時に見せた冨安健洋の姿が、いかに激闘であったかを物語っていた。

 1−0のアーセナル勝利でホイッスルが鳴ると、日本代表DFは両手の拳を小さく固めてガッツポーズ。そのまま崩れ落ちるかのように、ピッチに倒れ込んでしまった。おそらく、体を酷使しすぎて疲労困憊だったのだろう。

 立ち上がれない冨安を見つけると、ベン・ホワイトとガブリエウのセンターバック2人が歩み寄り、日本代表DFの手を取って引き上げた。

アルテタ監督も「素晴らしかった」と笑顔

 トミ、よくやった──。

 バックスタンド最上部に位置する記者席にも、そんな声が聞こえてきそうな光景だった。最終ラインを支えた3人はひとつになって抱き合い、完封勝利の健闘を称え合った。

 労をねぎらったのは、ミケル・アルテタ監督も一緒だ。

 テクニカルエリアからピッチ内に入っていくと、冨安を見つけて両頬に触れ、ペシッと頬を軽く叩いたのである。試合後の会見で、ガブリエウと共に冨安について「素晴らしかった。本当に良かったと思う」と笑顔を見せたスペイン人指揮官は、22歳のサムライのパフォーマンスに非常に満足している様子だった。

アルテタ監督、オーバメヤンも冨安のハイパフォーマンスを称えた ©REUTERS/AFLO

バーンリーはイングランド伝統のパワープレー勝負

 9月18日に行われたプレミアリーグ第5節の対戦相手は、英国中部に位置するバーンリー。人口約7万3000人の小さな街を本拠地としている。

 予算規模においてもプレミア最低クラスのクラブだが、6シーズン連続でトップリーグで戦えている。それはひとえにイングランド伝統のダイレクトサッカーが威力を発揮しているからだ。

 ロングボールやクロスボールといった古典的なパワープレーを徹底し、前線から最終ラインまで屈強な選手を並べる。プレミアリーグでも珍しくなった直線的な攻撃で、効率的にゴールを狙うのがこのクラブのスタイルだ。

 必然的に、対戦するDFはロングボールやクロスボールの空中戦に勝利することが最大の任務になる。

肉弾戦でも攻撃面でもほぼパーフェクトだった

 それだけに、イタリアから移籍してきたばかりの冨安が、ロングボール主体のバーンリーを相手に力強い守備を見せられるかどうかが、この試合のポイントだった。

試合前からハイジャンプを見せる冨安 ©Getty Images

 実際、試合前にはメディアから「フィジカルの強いバーンリーが相手だが」と質問され、本人も「僕らにとってタフなゲームになるかもしれない。バーンリーは難しい相手。陣形をコンパクトに保ち、自分たちのプレーをしないと」と気を引き締めていた。

 結論から先に言えば、冨安はほぼパーフェクトなプレーで敵の攻撃を寸断し、効果的な上がりとサイドチェンジで攻撃にアクセントもつけた。試合終盤はバーンリーの勢いに押され攻撃参加の回数が減り、冨安自身にも疲労の色が見えたが、それでも安定感抜群の素晴らしいパフォーマンスを披露した。

 冨安のプレー位置は、4バックシステム(4−3−3)の右サイドバック。加入から2試合連続で右SBにまわったが、一般的に考えられるSBの役割とは大きく異なる。

 アルテタ監督が採用するのは、左右の形が非対称で、攻撃時(3−3−4)と守備時(4−3−3)でも並びが変形する可変システムである。冨安は右サイドから中央に絞ってビルドアップに加わったり、右サイドで守備にまわったりと、状況に応じて広い範囲をカバーした。こうした高度な戦術を加入間もない冨安は素早く消化し、ピッチ上で見事に体現してみせた。

すべての空中戦とデュエルに勝利

 だがこの試合に限って言えば、複雑なシステムに触れるよりも、肉弾戦と空中戦にことごとく勝利した冨安の守備能力に目を向けるべきだろう。

 開始20秒で飛んできたロングボールに競り勝ち、前半39分のピンチの場面でも体幹の滅法強いFWアシュリー・バーンズ(186cm)を相手に、自身の体を投げ出してシュートをブロックした。こうした力強い守備を見せたかと思えば、読みの良さを生かして敵の攻撃を先回りして寸断した。

前半39分のシュートブロックシーン ©Getty Images

 後半途中から投入されたコートジボワール代表の快速FWマクスウェル・コルネのスピードに手を焼く場面もあったが、冨安が突破される場面はほぼ皆無。英紙デーリー・エクスプレスのスタッツによると、冨安はすべての空中戦とデュエルに勝利したという。

 それでいて、ビルドアップ時には適切な場所に動いてパスコースを作り、円滑なボールポゼッションに努めた。

 79回のボールタッチはチーム最多。バーンリーがスペースを打ち消してきたことから、攻撃参加の機会は限定的だったが、前半28分にはタッチライン際を駆け上がる左SBキーラン・ティアニーに40メートルのサイドチェンジで攻撃を活性化した。敵にプレッシャーをかけられても軽やかなステップでいなすなど、攻守両方で大きな存在感を示した。

「We've got Tomiyasu」のチャントが鳴り響く

 そんな冨安を支えたのが、北ロンドンから列車や車で応援に駆けつけた約2000人のサポーターである。ゴール裏に陣取ると、英国で60年代に活躍したデイブ・クラーク・ファイブのヒット曲『グラッド・オール・オーバー』にあわせ、冨安を称えるチャント(応援歌)を歌ったのだ。

 この曲はクリスタルパレスの応援歌としても親しまれ、マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラ監督のチャントでも使われるなど、英サッカー界で人気チューンのひとつ。軽快なメロディーに乗せ、「We've got Tomiyasu(俺らにはトミヤスがついている)」の大声援が敵地ターフ・ムーアにこだました。

冨安の好守にチャントが鳴り響いた ©Getty Images

 チャントが鳴り響いたのは前半だけで少なくとも3回。いずれも冨安が守備で奮闘した直後だった。移籍後2試合目でチャントが作られ、そして実際に歌われたのは、サポーターが冨安に大きな期待と信頼を寄せている何よりの証拠だろう。

「冨安の補強は今季のターニングポイント」

 実際、英紙デーリー・エクスプレスが「冨安の補強はアーセナルにとって今季のターニングポイント」と高く評価したように、冨安の加入からチームは2連勝。いずれもクリーンシートだ。

 67年ぶりとなるリーグ開幕3連敗を喫した際には絶望的な雰囲気に包まれていたが、バーンリー戦の勝利後にはGKアーロン・ラムズデイルとDFティアニーがアーセナルサポーターのスタンドにユニホームを投げ入れるなど、チーム全体が高揚感を取り戻しつつあるのも朗報だ。

かつて麻也も「ヘディングのし過ぎで頭が……」

 日本のアビスパ福岡で頭角を現し、ベルギーとイタリアで研鑽を積んできた冨安にとっても、迷わずロングボールを蹴り込むバーンリーの攻撃スタイルは、これまで経験したことのない異質の世界だったに違いない。

 2012年にサウサンプトンに移籍してきた吉田麻也(現サンプドリア)も、当時ダイレクトプレーを徹底していたアストンビラと加入2試合目で対戦した際、「滅茶苦茶、ロングボールが飛んできた。ヘディングのし過ぎで、かなり頭が痛い」と話していたが、冨安も似たような心境だったのではないだろうか。

エアバトルでも進境著しい冨安。試合ごとに頼もしさを増している ©Getty Images

 倒れ込むほどクタクタになりながら、堅実で力強い守備を見せたサムライは、間違いなく貴重な勝ち点3獲得の立役者だった。

 その冨安に手を差し伸べるガブリエウとホワイトの行動から、頬を叩きながら褒めるアルテタ監督、そしてサポーターたちのチャントまで──。

 ひとつひとつの光景が、冨安の貢献度の高さを教えてくれた。

文=田嶋コウスケ

photograph by Stu Forster/Getty Images