2021年MLBのレギュラー・シーズンが、残り2週間を切った。9月22日現在、ポストシーズン進出を決めたのは、レイズ、ブルワーズ、ジャイアンツ、ドジャースの4球団で、ワイルドカード争いはまだ混沌としている。

 ナ・リーグではパドレスが敗退し、カーディナルスがここへ来ての11連勝で一気に浮上した。ア・リーグのほうは、レッドソックスの巻き返しで、またわからなくなった。ヤンキース、ブルージェイズにも十分にチャンスがある。

 個人タイトル争いも、気が気ではない展開になってきた。私もふくめて大谷翔平のア・リーグ本塁打王獲得を祈るファンは多いだろうが、ポストシーズン進出のかかったチームの投手は、まずストライクを投げてくれない。22日の対アストロズ戦など、1試合4四球(うち敬遠が2打席連続)というありさまで、私は1993年のバリー・ボンズや、99年のケン・グリフィーJr.を思い出してしまった。

 93年のボンズは、46本塁打/29盗塁を記録したが、126個もの四球を与えられた。

 99年のグリフィーは、48本塁打/24盗塁を記録し、91個の四球で歩いている。

 大谷は現在、45本塁打/23盗塁を記録し、81四球を与えられて、10試合を残している。

 年間に45本塁打/23盗塁以上を記録した選手といえば、ホゼ・カンセコやアレックス・ロドリゲスもいた。カンセコは、98年に46本塁打/29盗塁という数字を残している。Aロッドの場合は、2007年に54本塁打/24盗塁という目覚ましい記録があった(98年の42本塁打/46盗塁も凄い)。

偉大な選手たちに比肩する大谷の数字

 打者・大谷は、こういった大選手たちと肩を並べる。加えて彼は、投手として22試合に先発して123回3分の1を投げ、9勝2敗、防御率3.28、被打率.208という数字を記録している。

 とくに.210を切る被打率には注目したい。1995年、グレッグ・マダックスは209回3分の2を投げて、被打率を.197に抑えた。同じ年、ランディ・ジョンソンは214回3分の1を投げて、被打率を.201に抑えた。両者はそれぞれ、各リーグのサイ・ヤング賞に輝いている。大谷の投球がこのレベルをめざしていることは、見逃したくない。

 そんな大谷の本塁打王獲得に黄信号が灯りはじめている。スランプと四球攻めがつづくとともに、ブラディミール・ゲレロJr.とのMVP争いを云々する声も出てきた。

 ただ、こちらに関しては、私は全米野球記者協会の良識を信じたいと思う。

 なるほど、ゲレロは素晴らしい打撃成績を残している。9月22日現在の成績は、打率.323、46本塁打、105打点、OPS1.030。打点を除く3部門でリーグトップの位置にいる(打点トップは、サルバドール・ペレスの115)。もし三冠王を獲得すれば、彼のMVPという線もあるのではないかという声は小さくない。

 だが、そうだろうか。いまここでシーズンが終わっても、MVPは大谷で動かないのではないか、と私は思う。

大谷がMVPにふさわしい理由

 一番明快なのは、大谷のWARが8.1に達しているという事実だ。打者として4.4、投手として3.7。これは両リーグでトップを行く。一方、ゲレロのWARは攻守合わせて6.8。これはカルロス・コレアの6.9よりも低く、マーカス・シーミエンの6.8と同点だ。

 たしかにゲレロの水準は高いが、MLBの歴史を振り返ると、彼のスタッツを上回る打者は過去にごろごろ転がっている。だが、20試合以上に先発登板して8割以上の勝率を上げ、3点台前半の防御率を記録し、なおかつ45本の本塁打と23個の盗塁を記録した選手など、MLB史上どこにもいない。

 歴史を振り返ると、三冠王を獲得しながらMVPに選ばれなかったケースはしばしばあった。全米野球記者協会の投票がはじまった1931年以降で見ると、33年のチャック・クライン(MVPはカール・ハッベル)、34年のルー・ゲーリッグ(MVPはミッキー・カクレーン)、42年のテッド・ウィリアムズ(MVPはジョー・ゴードン)、47年のテッド・ウィリアムズ(MVPはジョー・ディマジオ)がその例に該当する。ウィリアムズは「最後の4割打者」となった41年にも、ディマジオにMVPをさらわれている。シーズン最後の10試合で、大谷翔平の打棒がふたたび噴火することを期待しよう。

文=芝山幹郎

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