こんな試合が見たかったのだ。

 10月12日に行なわれたオーストラリアとのアジア最終予選で、日本は2対1の勝利をつかんだ。同日開催の別カードでは、サウジアラビアが中国に競り勝った。オマーンもベトナムを退けている。

 4試合を終えて無傷のサウジアラビアが勝点12でグループ首位に立ち、3勝1敗で勝点9のオーストラリアが2位、2勝2敗のオマーンが3位となっている。日本はオマーンと同勝点だが総得点で劣っており、直接対決で負けてもいるため彼らの後塵を拝している。

 4試合を終えて4位とは、まったく予想できなかった。率直に言って不甲斐ない結果である。

 だが、森保一監督と選手たちは、小糠雨の降りしきる埼玉スタジアムで希望を見出すことができた。

 流れは、変わった。

ぶっつけ本番で見えた「裏付けのある起用」

 勝てば勝点3差に詰めることができるが、負けると勝点9差に開いてしまう6ポイントマッチで、森保監督はシステムと先発を変えてきた。追いかける展開になっても、疲れの見える選手がいてもこだわってきた4-2-3-1ではなく、4-3-3を選んだのである。中盤の「3」は遠藤航がアンカーに入り、田中碧と守田英正がインサイドハーフに指名された。前線には左から南野拓実、大迫勇也、伊東純也が並ぶ。

 サウジ戦のパフォーマンスから判断すれば、柴崎岳、鎌田大地、浅野拓磨が先発から外れるのは論理的である。出場停止の明けた伊東が右サイドに戻り、途中出場のサウジ戦で意欲的な姿勢を見せた守田の起用も納得できる。日本代表では19年12月以来の出場となる田中についても、東京五輪で吉田麻也、冨安健洋、酒井宏樹、遠藤と連携を構築しており、守田とは川崎フロンターレでともにプレーしていた。新天地のデュッセルドルフでも試合に出ている。ぶっつけ本番となるのは間違いないが、裏付けのある起用だった。

絶体絶命の大一番で、オーストラリアに勝ち越した日本代表。この勝利は非常に大きい ©Kiichi Matsumoto/JMPA

スタメン選考も交代も堅実だった森保采配が……

 過去3試合の森保監督は、もっと言えば就任からこれまでの指揮官は、スタメンの選考も交代のカードも堅実なものだった。パターン化されていた、と言ってもいい。選手への信頼の表われとも言えるが、相手にとっては分かりやすい。自分たちが高パフォーマンスを発揮できないと手詰まりになり、選手の立ち位置を変えることもパワープレーを仕掛けることもなく、敗戦を告げるホイッスルを聞いてきた。

 それだけに、恐ろしくプレッシャーのかかるこの大一番で、システムと選手を入れ替えたのは驚きだった。スタメンだけではない。選手交代も、これまでと違うところがあった。

 ひとり目の交代は1対0で迎えた61分で、大迫を下げて古橋亨梧を起用している。疲労の色が濃くても最後まで残してきた背番号15を代え、セルティックで好調の26歳をサイドではなく1トップに置いたのは、攻撃のさらなる活性化と古橋の特徴を生かす意味で理に適うものだった。

 2枚目は78分だった。70分に直接FKを蹴り込まれ、1対1に追いつかれていたなかで、森保監督は南野を下げて浅野を起用した。交代枠が5つあることを考えると、このタイミングでもうひとり代えることもできただろう。85分には守田から柴崎、長友佑都から中山雄太へスイッチすることになるから、たとえば柴崎を浅野とともに送り込み、3度目の交代では中山とオナイウ阿道をピッチに立たせる、といったベンチワークだ。

 ともあれ、森保監督の選手起用は勝利を呼び込んだ。8分の先制点は、スタメンに抜てきした田中が叩き出した。86分の決勝ゴールは、浅野のシュートをきっかけに生まれたものだった。

オーストラリアから先制点を奪ったのは、この試合でスタメンに抜擢された田中碧だった

 ゲームの細部に目を凝らせば、課題はもちろんある。前半のうちに追加点を奪うチャンスはあり、決定機をモノにしていればもう少し余裕を持って勝つこともできただろう。

 ただ、このオーストラリア戦については、勝点3をつかんだことを評価したい。4-2-3-1で押し通してきた森保監督は、この大一番でプランBを発動した。オプションと呼べるものを手にしたのだ。次に4-3-3でプレーするときには、緻密さを増すことができる。そして、グループ内のライバルにプレッシャーをかけることができる。

 さらに言えば、絶対に勝たなければいけない試合に勝利したことで、チームは勝点3奪取にとどまらないものを手にしている。

 一体感である。

「自分も戦いたい」ベンチも超臨戦態勢だった

 オーストラリアに喫した失点を巡って、アブドゥルラフマン・アルジャッシム主審の判定は二転三転した。このカタール人は、16年9月に行なわれたロシアW杯アジア最終予選で、浅野の明らかなゴールを認めなかった。VARというテクノロジーが採用されてもなお、彼は日本を貶めようとしたのだろうか。

 日本のベンチは猛烈に反応した。森保監督やスタッフだけでなく、ウォーミングアップをしていた選手たち、交代した選手たちがPKではないことを主張し、VARでの確認を求めた。

 ここから先はもう、ベンチも超臨戦態勢だった。日本のプレーに拍手し、声をあげて鼓舞し、主審の判定に反応する。座っている者などいない。許されるのならいますぐにもピッチに入りたい、自分も戦いたい、という思いがあふれ出ていた。86分に決勝点が決まると、浅野を中心に歓喜の輪が爆発した。控え選手もピッチへなだれ込んだ。

86分の決勝点直後、浅野に飛びつき嬉しさを爆発させる選手たち ©AFLO

 森保監督は「選手たちが試合に出られる、出られないに関係なく、練習から自分のやるべきことを一生懸命やってくれる。そして、チームのために戦おうという姿勢を見せてくれた」と話したが、ここまで気持ちが前面に出たのは初めてだったと言っていい。ベンチメンバーも含めたチーム全体が、勝つためには何が必要なのかを全身で感じ取ることができただろう。

流れは変わっている。自分たちで変えた。

 オーストラリアを退けたとはいえ、日本が何かを手にしたわけではない。W杯にストレートインできる2位以内を確保するためには、負けられない戦いが今後も続く。

 道のりはなおも険しい。

 だが、流れは変わっている。自分たちで変えた。

 ここから先は、これまでと違う日本が見られるはずだ。

文=戸塚啓

photograph by AFLO