ラ・リーガ3シーズン目を迎えた久保建英。ヒザの負傷により離脱を強いられたが、保有元のレアル・マドリー、現所属のマジョルカではどんな評価をされているのか。各クラブの現地番記者に記してもらった(翻訳:工藤拓、全3回/マドリー番前編、マジョルカ番編も)

 突然のビジャレアル退団は、新天地を選ぶ上でも決断を急がせた。ホセ・ボルダラス率いるヘタフェは、久保のような選手が必要とするプレースペースをほとんど与えてくれない。ダイレクトプレーを多用し、選手全員に身体的負担のかかるプレッシングを強いるチームだった。

ヘタフェはリーガの中でもフィジカルバトルが重視されるクラブとして知られている ©Getty Images

 久保は加入当初こそ先発に抜擢されたが、すぐに出番を失っていった。終了間際に出場し、ボールに触れられぬまま試合終了を迎えたこともあった。

 それでも輝きを放つ機会は皆無ではなく、守備面の働きにおいても成長の跡は見られた。ボルダラスからはどのようにパスコースを切り、どのようにサイドバックと連携してスペースを埋めるのかを教え込まれた。最終的にヘタフェでは18試合で805分のプレー時間を重ね、チームの残留を決定付けるゴールを置き土産にシーズンを終えている。

シュート意識が強くなり、精度も高まった

 そして2021年夏、久保は再び選択を迫られた。これ以上の失敗は許されなかった。時に人は過去に戻ることで、失った何かを取り戻せることもある。久保はそう理解し、古巣のマジョルカで再スタートすることを決断した。

 現在マジョルカを率いるルイス・ガルシアはビセンテ・モレノによく似た特徴を持つ監督ながら、より攻撃的なフットボールを志向している。膝を負傷するまでの久保は、彼の指揮下で期待を裏切らぬパフォーマンスを見せていた。チームメートは久保を探し、久保は周囲に頼られる責任感を心地よく感じながらプレーしていた。

 フィニッシュエリアにおけるプレーにも成長が見られるようになった。以前よりシュートを狙う意識が強くなり、精度も高くなった。ベストのタイミングでラストパスを送るチャンスメイクのプレーも増え、サイドバックやインサイドハーフ、ボランチ、ストライカーとの連係もスムーズになっている。

 だがここから先、久保はフットボーラーとしてさらに成熟していかなければならない。

 もはや散発的に輝きを放ち、ポテンシャルの片鱗を見せるだけでは足りない。今の彼は、常に輝き続けることが義務付けられた立場にいる。今後彼が期待通りのスター選手となるためには、与えられた新たな立場をさらに掘り下げていく必要がある。

「偽ウイング」としてのプレーを確立すべき

 そのために取り組むべき課題はたくさんある。プレーポジションについては、右サイドでファルソ・エクストレーモ(偽ウイング)としてのプレーを確立していくべきだろう。今季のアラベス戦やアスレティック・クルブ戦ではトップ下でプレーする機会を得られたものの、いわゆる「10番」のポジションを維持するチームは年々減っているからだ。

 2列目のプレーエリアを自由に動き回ることが許される10番としてプレーすれば、よりゴールに直結するスペースでボールを引き出し、危険を作り出すことができるだろう。またライン間のつなぎ役として、より頻繁に攻撃に関与できる。

モドリッチのような役割を教え込むのは得策ではない

 だがトップ下のポジションがないチームでは、例えば4-3-3のインサイドハーフとして、ルカ・モドリッチのような役割を一から教え込むのは得策ではない。久保にボックス・トゥ・ボックスの移動を繰り返すハードワークを強いることはできない。それは彼が攻撃面でもたらすべき価値を害する行為だからだ。

 そう考えると、彼には右サイドでプレーする以外の選択肢はないように思える。久保にとっても慣れ親しんだポジションなだけに、大きな問題にはならないはずだ。サイドから中央に動きつつ、DFラインとMFラインの間のスペースに顔を出し、危険を作り出す。虚を突いてボランチの背後に現れることもできる。奇しくも中央からサイドにポジションを移すことによって、より中央で決定的なプレーができるようになるわけだ。

 とはいえ、久保の成長にとってはプレーポジション以上に所属チームのフットボールが重要になってくる。久保の特徴を活かすためには、彼とよく似た感覚を持つ選手と共にプレーする必要があるからだ。

 例えばサイドバックは鋭くDFラインの裏を突き、久保のマークを引き剥がせるような選手が最適だ。中盤には2列目からゴール前まで侵入できるMF、前線にはセンターバックとサイドバックの間のスペースに抜け出せるストライカーが欲しい。

 これらの選手は久保のフットボールを最大限に生かし、彼の成長を促してくれるだろう。その上で彼が日本のエースとなるのか、世界中にインパクトをもたらすレベルの選手となるかは本人次第となる。

3戦連続ゴールなど、東京五輪では抜群の働きを見せた久保 ©Asami Enomoto/JMPA

東京五輪のようなプレー環境はまずない

 いずれにせよ、チーム全体が彼のために動いていた東京五輪のようなプレー環境が得られることはまずないと理解しておくべきだろう。レアル・マドリーでプレーすることになれば、言い訳をするわずかな機会も与えてはくれない。

 ここで然るべき意見を述べておきたい。

 レアル・マドリーという舞台に上がれば――久保は先に指摘してきたあらゆる状況に直面する可能性を頭に入れてプレーする必要がある。さらにはメディアやファンから受けるプレッシャーも背負うことになる。彼は将来、そのような環境を生き抜かなければならない。

本当の意味でレアル・マドリーの選手になるためには

 ただ、現時点ではそれ以上レアル・マドリーへの復帰について言及すべきではないだろう。今はマジョルカで素晴らしいシーズンを実現することが第一。その意味で出だしは順調だ。まだ得点に絡むことはできていないが、久保は今季のラ・リーガにおいて攻撃面で最も脅威を感じさせる選手の1人となっている。

 だが本当の意味でレアル・マドリーの選手となるためには、もっとゴールやアシストの数字を増やす必要がある。それはビニシウスについての評価を見れば分かるはずだ。フィニッシュの精度が悪すぎた彼は、それ以外の部分でどれだけチームに貢献しても評価されることがなかった。

2021年9月のマドリーvsマジョルカでのビニシウスと久保 ©Getty Images

 ゆえに久保もベルナベウのピッチに立った際、数字で結果を残すことができなければ、失格の烙印を押される恐れがある。ビジャレアルのチーム内競争で火傷しているような選手であれば、マドリーでは丸焦げになってしまうだろう。

それでも久保には大きな武器がある

 それでも久保には大きな武器がある。他でもない、正真正銘のタレントである。議論の余地なきその才能を見せつけることで、周囲を納得させられるかどうか。それがレアル・マドリーを含む、フットボール界のスーパーエリートの域に達するための鍵となるはずだ。

日本のエース、そして真のワールドクラスになれるか。これからの数年が久保建英にとっての分岐点であることは確かだ ©Takuya Sugiyama/JMPA

 守備戦術やポジショニングの向上、ゴール数の増加も考慮すべき重要な要素ではある。だがそれらの表面的な評価に囚われることで久保が迷路に迷い込み、生まれ持った才能を霞ませてしまうことは避けるべきだ。特別な才能を持った選手には独自のバランス感覚がある。だからこそ他に先んじることができるのだから。

 久保がレアル・マドリーの一員となり、フットボール界のスターとなるためには、持てる才能の全てを発揮し続けなければならない。視野の広さ、局面の打開力、アシスト能力、一歩目で差をつける急激な加速力。それらの才能は彼が持つ財産であり、その才能にこそレアル・マドリーは底なしのポテンシャルを見出し、大きな期待をかけているのだ。

文=ハビエル・シジェス/ディアリオ・アス

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