今夏、自身4度目の大舞台だった東京五輪でまさかの予選落ちをし、悔しさを噛みしめた体操の内村航平(ジョイカル)が、9月23日の全日本シニア選手権に出場。代表に選ばれている世界選手権(10月18〜24日、福岡県北九州市)に向けて再スタートした。

 シニア選手権では東京五輪と同様に種目別鉄棒のみに出た。「股関節、肩、腰、膝。五輪後は関節という関節すべてが痛くなって、しまいには顎。口を開けると外れそうになった」と満身創痍であることを告白していたが、H難度の離れ技「ブレットシュナイダー」や東京五輪で落下した因縁のひねり技も避けることなく組み入れ、最後まで演じ切った。着地では尻もちをついたが、原因は練習不足によるスタミナ切れとシンプル。「世界選手権に向けて手応えがあった。うまくスイッチを入れられた」と笑みを浮かべた。

 世界選手権が行われる北九州市は内村が3歳になるまで過ごした生まれ故郷だ。8月頃は「気持ちに反して体がついてこない状態が続いた」というが、「東京五輪では最後まで演技を通すことができなかったので、チャンスを頂いた世界選手権でしっかりやりたい」と切り替えた。

東京五輪の結果は「人生にはこういうことも必要」

「体操への思いは変わらないから気持ちを切らさないようにしてきた。細い一本の糸だけでも繋げておきたいという思いがあって、今に繋がっている。試合をやってその糸が少しずつ太くなっている気がする」

 現時点で世界選手権は有観客での開催が予定されている。それだけに「結果以上に、見てもらうことで何かを伝えていかなくてはいけない」という思いも強い。

 世界選手権では東京五輪で種目別鉄棒金メダルに輝いた橋本大輝との競演が注目される。演技構成の難度を示すDスコアは内村が6.6、橋本は6.5。内村は「僕と大輝(の実力)は変わらないぐらいだと思う」と話しており、出来栄え勝負の拮抗した戦いを予想している。

「自分の体操人生で一番大きな大会だった東京五輪では結果を残せなかったが、人生にはこういうことも必要なのではないかと今思っている。ここを乗り越えてこそ、次への道が拓ける」

 内村はまたひとつ階段を上がろうとしている。

文=矢内由美子

photograph by KYODO