巨人の大竹寛投手(38歳)が、今季限りで現役を引退することが発表されました。優しい人柄で知られ、“寛ちゃん”の愛称でチームメイトに慕われた大竹投手。広島からFA移籍した当初は批判もありましたが、自らのピッチングで評価を覆してきました。昨シーズンもリリーフとしてリーグ優勝に貢献した大竹投手の記事を特別に再公開します。【初出:NumberWeb2020年8月21日、肩書きなどすべて当時】

「移籍が成功だったかどうかなんて、引退してから考えることだ。もしかしたら引退しても分からないかもしれない。死ぬ直前ですら、成功だったか失敗だったかなんて分からないかもしれない」

 プロスポーツ選手の移籍について、横浜FCの中村俊輔は自著『察知力』(幻冬舎新書)でそう書いた。

 最近、巨人・大竹寛の野球人生を見ていると、ふとこの言葉を思い出す。今季、37歳の右腕は中継ぎ投手として14試合に登板、防御率1.42の安定度を誇り、7月19日のDeNA戦から12試合連続無失点中だ。現在一軍投手陣の最年長として、ブルペンの中心的存在を担っている。

「オアシスな先輩。大竹、そうです!」

 以前、元・巨人投手コーチの川口和久氏とトークイベントを行った際、「ラーメンの食べ過ぎか、大竹投手の先発時代はよく足をつっていたけど、リリーフの短いイニングだと大丈夫でハマったね」と背番号17の大好物ラーメンとかけて嬉しそうに語ってくれた。

 昨季の一軍復帰時には宮本和知投手総合コーチが、「明日からムードメーカーを呼びます。誰だと思いますか? 一番人間的に優れているというかね、オアシスな先輩。大竹、そうです! 寛ちゃんがいい風を持ってきてくれるんじゃないかな」なんつってスポーツ報知SNSで歓迎のコメントを出している。

 ついでに体重増量を掲げる20歳の同僚・戸郷翔征には正しいラーメンの食べ方を伝授。巨人公式のLINEスタンプも半笑いのイラスト吹き出しは「まいったな〜」なんてひとりギャグ枠のような扱いだ。

 そんなみんなに愛される仕事人・寛ちゃんだが、ここまでのキャリアは決して順風満帆ではなかった。大竹は広島時代に4度の二桁勝利を記録、2013年オフに巨人へFA移籍してきたが、幾度となく「失敗のFA」や「貯金のできない投手」と味方のはずのG党からさえも批判されてきた。

獲得時点から、反対のファンは多かった。

 当時、『プロ野球死亡遊戯』というブログで頻繁に大竹のFA移籍について書いていたが、そこに寄せられるファンからのコメントの約8割は獲得に反対するものだった。人的補償で広島へ移籍したのが、まだ2年目の一岡竜司ということもあり、期待のプロスペクトを出してまで、30歳の10勝10敗投手を獲るのかという否定的な意見が多かったのだ。

 大竹は巨人1年目の'14年、中日相手に6勝を挙げる竜キラーぶりを発揮して、チームのリーグV3に貢献。

 トータルでも9勝6敗という成績を残したが、一岡も新天地の広島でオールスター戦に選出されるなどセットアッパーとして大ブレイク。これにより、大竹本人に非はないのに、ファンやマスコミから一岡を流出させた巨人側のプロテクト下手込みで叩かれる、かなり理不尽な状況に陥ってしまった。

「もう終わった」と思ってもおかしくない。

 間が悪いことに、大竹の登板数や勝ち星も年々減少。不調時には「ラーメン二郎」で大盛りを完食し折れそうな心を整え、ときに契約更改に大遅刻して「普通に家で生活してました。すいません」と素直に謝っちゃう……というなんだかよく分からないニュースで取り上げられることはあったが、ついに2018年には一軍でわずか2試合の登板(1勝1敗、防御率6.00)に終わる。

 当時すでに35歳だ。多くの人が、「大竹はもう終わった」と思ったのではないだろうか。

 だが、本人はなにも諦めていなかった。俺はまだ投げられる。元ドラフト1位投手でFA移籍選手、すでに通算100勝に手が届きかけている実績を持ちながら、不遇の1年間きっちり二軍の先発ローテで投げ続け、モチベーションとコンディションを落とさずに9勝を挙げたのである。

 これには当時の川相昌弘二軍監督からも、その若手の見本となる献身的な姿勢を絶賛されている。

腐らず二軍で投げ続け、ついに転機が。

 肩も肘も問題ない。恐らく、これが生え抜きの功労者なら一軍でのチャンスの数も違っていただろう。FA選手は入るときは歓迎されるが、結果が出なくなると真っ先にポジションを失う立場だ。

 もし、自分が大竹だったら、会社や上司のせいにしないで、腐らずジャイアンツ球場のマウンドへ上がれていただろうか? 正直、その自信はない。

 '18年オフの契約更改では減額制限超えの50%減、2625万円ダウンの推定年俸2625万円でサイン。文字通り崖っぷちの大竹だったが、ここでひとつの転機が訪れる。自分を巨人に呼んだ原辰徳監督がチームに復帰したのである。

 そして、原監督は大竹をリリーフで再生する。戦力外寸前だった男は'19年シーズン中盤からブルペンの救世主となり、32試合、4勝0敗12HP、防御率2.77という成績を残し、通算100勝も達成。

 5年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献すると、年俸も5000万円まで戻し、なんと秋のプレミア12の日本代表にも松田宣浩につぐ年長選手として追加招集された。

温厚な大竹が、マウンドでは鬼の形相。

 2020年は2月下旬から右肩周辺の肉離れで離脱したが、7月上旬には一軍復帰。決してあきらめない男は、まだまだ健在だ。8月も勝ちパターンの一角を託され、12試合連続無失点中(8月19日現在)とベンチから信頼を寄せられている。

 丸っこい顔の人の良さそうな大竹がいざマウンドに上がると、鬼の形相で徹底的に内角をシュートで攻めまくる。14日の中日戦では3番手として7回表に登板、2者連続でバットをへし折ってみせた。

7シーズン目はFA投手の中で最長タイ。

 18歳でプロ入りして、生まれ育った埼玉から広島へ単身飛び、チーム事情に合わせ先発や抑えを経験し、誰に何を言われようが、己の腕一本を頼りに今は花の都・大東京で中継ぎの仕事を黙々とこなしている。大竹のそういう生き方は心から恰好いいなと思う。あのFA移籍が成功だったかなんて、そんなことはもうどうでもいいのだ。

 NPB通算357登板は今のチーム投手陣で1位。気が付けば、在籍7シーズン目は、巨人へFA移籍してきた投手では工藤公康や杉内俊哉と並び最長タイだ。恐らく、今季の貢献度を考えると、大竹は来季も巨人で自身8シーズン目を迎える可能性が高いだろう。

 大竹寛、37歳。誰よりも批判されてきたFA投手は、誰よりも長く、巨人軍で生き残ろうとしている。

 See you baseball freak……

文=中溝康隆

photograph by Kyodo News