これまでブンデスリーガで注目を集めてきたハノーファー対シャルケというカードが、今シーズンは2部で行われることに、今でも少し違和感がある。

 築き上げたひとつの時代は、永遠には続かない。崩れるときはアッという間だ。ELでも躍進したことがあるハノーファーは、2部リーグが3シーズン目。CLの常連だったはずのシャルケは、昨シーズン30年ぶりに2部降格を余儀なくされた。

 しかし、2部とはいえシャルケ戦ともなればファンの注目度は高い。僕も、久しぶりにハノーファーのホームスタジアム『AWDアレナ』を訪れた。

板倉のスタメン起用後シャルケは4勝1敗

「Geimpft:ワクチン接種証明」か「Genesen:感染回復済証明」を持参したファンのみが観戦できる2G規則を導入したことで、この日は4万2500人までの集客許可がおりていた。スタジアムを埋め尽くすファンの姿。大声で合唱されるチームソング。結局3万9500人が詰めかけたスタジアムは、熱気に包まれていた。

5節からスタメン出場を続ける板倉。3バックの中央に入り守備の安定をもたらしている©Getty Images

 シャルケのファンは推定1万人。これほどのアウェーファンがスタジアムに集うのは、いつ以来だろうか。

「シャルケーヌルフィアー(シャルケ04)」というお馴染みの応援ソングに対し、すかさずハノーファーサイドから「シャ〇セー(くそ)ヌルフィアー」という小馬鹿にした掛け声が鳴り響く光景に、懐かしさを覚えた。

 今シーズンのシャルケの目標は、もちろん1年での1部復帰だ。チームの顔触れは2部降格とともに一新されて、若手を中心とした構成。そのせいか、ここまでの序盤戦は苦戦が続いた。ハンブルガーSVとの開幕戦を1-3で落とすと、第4節終了時で1勝1分2敗の13位。特に問題視されていたのが、8失点の守備だった。

 そんなシャルケは、第5節デュッセルドルフ戦に3-1で勝利すると、そこからの5試合を4勝1敗とし、リズムに乗ることに成功している。好転の要因のひとつが、最終ラインを統率する板倉滉の活躍なのは間違いない。前述のデュッセルドルフ戦から連続でスタメン起用されているが、その間の失点はわずか3。うち4試合でクリーンシートを記録している。

地元メディアからはマンオブザマッチの称号を

 第9節インゴルシュタット戦でも攻守が噛み合い、3-0で快勝した。ティアウ、板倉、カミンスキで形成された3バックが機能。板倉は鋭い読みとタイミングのいい動き出しで相手の攻撃をことごとくシャットアウトし、シャルケサポーターからは熱い拍手と声援を、地元メディアからはマンオブザマッチの称号を贈られている。

 グラモツィス監督はひとりの選手を取り上げることを避けるために「賛辞を贈るべきは(板倉)コウだけではなく、彼とともにプレーした2人のCBもだ」としながら、「コウが対峙したクチュケは守るのが非常に難しい選手だが、そんな相手に素晴らしいプレーを見せてくれた」と語っていた。

 ハノーファー戦でも、シャルケの板倉は3バックのセンターでスタメンフル出場。日本代表戦からの移動による疲労を懸念する声もあったが、しっかり調整してきた印象を受けた。動きは実に軽やかだ。

 1分、右サイドからのクロスを高打点のヘディングでしっかり跳ね返すと、最後尾から周りの選手にどんどん指示を出していく。セットプレー時にはラインの高さを調整する。自分たちがボールを持った際はフリーな味方を使いながらドリブルで運び、相手が奪いに来たら空いているスペースへ綺麗なパスを通す。味方がプレスを受けたらパスを引き出し、ポゼッションを譲らずチームに落ち着きをもたらしていた。

インゴルシュタット戦では指揮官が「非常に難しい選手」と評するクチュケを見事に封じた©Getty Images

 試合中、記者席の後ろに座っていた人物が大きな声で話しているのが聞こえてきた。

「中盤で数的優位を作れている。ビルドアップの場面で相手が寄せて来ても、落ち着いている。縦パスから大きなチャンスを作れる確率は高いね」

「ゲームの流れを読むことができる素晴らしい選手だ」

 ハーフタイムに話しかけてみたら、シャルケのビデオアナリストを務めるユストゥス・リードヘーゲーナーだった。

「板倉は1対1の対応に優れているし、空中戦も強い。何よりプレーの一つひとつが正確で、相手に詰められても慌てないのがいい。常に冷静でミスが少ない。そしてゲームの流れを読むことができる素晴らしい選手だ。代表から戻ってきたばかりと聞いたけれど、そんな様子も感じさせない。これまでのプレーにはクラブとして満足してるよ」

 板倉は、まさにシャルケが探していた選手だ。

 守備の局面で相手に寄せすぎて後ろのスペースをあけてしまったり、反対にスペースで待ちすぎてフリーで運ばれてピンチを迎えてしまったりするところが問題だったチームは、最後尾で守備のバランスを整える、判断力に優れたリーダーが必要だった。

 やはり、自分のプレーだけではなく周りに影響を与えられる選手は貴重だ。

 例えば、ハノーファー戦の前半。相手陣内での味方のスローインの場面で、ティアウと板倉のポジションのラインが一緒になったときがあった。ボールを失った際にスペースをすぐにケアするためには、ひとりが少し前のポジションを取るべきところだ。

 リードヘーゲーナーが思わず叫んだ。

「高さがかぶっている!」

 次の瞬間、板倉はティアウを前目のポジションに促した。状況を把握して、スマートに対応してみせたのだ。

“タラレバ”を言っても仕方がないが、シャルケが昨シーズンに板倉を補強していたら、2部降格を避けることができたのでは? と思ってしまった。

移動による疲労が懸念も「代表選手の宿命ですから」

 試合は、後半のアディショナルタイムにカミンスキが決勝ゴールをあげて1-0で勝利。喜びの輪に板倉も走り、仲間とハイタッチをかわす。シャルケファンの声がこだまする中、最後まで落ち着いて最終ラインを統率した板倉は、試合終了のホイッスルを聞くと両手を広げて吠え、GKやDFと抱き合った。

高い技術と戦術眼を駆使し、板倉はチームを支える存在となりつつある©Getty Images

 この日はミックスゾーンでの取材が禁止されていたために、本人に直接話を聞くことはできなかったが、広報を通して板倉の力強いコメントが送られてきた。

「相手にチャンスを与えずにできたと思います。最後に点が入り、勝ててよかったです。(代表戦での)移動は大変でしたけど、それは代表選手の宿命ですから」

 シャルケのグラモツィス監督は、チームの確かな成長に手応えを感じている。

「強敵相手に勝点3を取ることができてとても嬉しい。まず観客で一杯のスタジアムで、こうしてまた試合をすることができたことが素晴らしい。ファンの素晴らしいサポートに感謝したい。彼らに勝利を届けることができて、なおさら嬉しいよ。今日は最初からいいプレーをすることができた。これまでは相手にリズムを譲り渡す時間帯があったのだが、今日はほとんどチャンスを与えなかった。意図したビルドアップから、多くのチャンスを作り出すことができた。今日の勝利で自信を深めてくれることを祈っている」

 シャルケは、第10節を終えて6勝1分3敗。1位のザンクトパウリと勝点3差の3位につけている。チームを支える屋台骨、板倉の両肩にかかる期待は大きい。ロイヤルブルー(シャルケのチームカラー)を1部へ導く存在となれるだろうか。

文=中野吉之伴

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