“流しのブルペンキャッチャー”として全国各地、数多くのアマチュア選手を取材してきた筆者。プロ野球スカウトの証言からドラフト会議の舞台裏をレポートする。(前回《楽天編》へ)

 ドラフト会議から5日経った10月16日、新潟医療福祉大・桐敷拓馬投手(178cm90kg・左投左打・本庄東高)が、リーグ戦の平成国際大戦でパーフェクトゲームを記録してみせた。

 6連続奪三振を含む19三振を奪って、外野に飛ばされた打球はフライが3本だけ。2年秋のリーグ戦で、同じ平成国際大を相手にマークしたリーグ新記録の「1試合18奪三振」を、自ら更新する立派な内容の快挙だった。

 これだけのピッチングをやってのける快腕だけに、ドラフト前には有力指名候補にも挙げられて、会議では、阪神が3位に指名していた。

スカウト「スライダーが弱いとプロで急に苦労する」

「今になって考えれば、うまいことやったなー、タイガースって、思いますね」

 あるスカウトが残念がるのは、ドラフト前のリーグ戦を思い返してのことだ。

 桐敷の投球、ドラフト前はこれが見納めかも……そんなギリギリの試合だった。

 その日は他にも、やはりドラフト候補の大型遊撃手・中山誠吾(白鴎大・190cm99kg・右投左打、西武6位指名)や、桐敷投手の同僚で長身サウスポーの佐藤琢磨(新潟医療福祉大・183cm85kg・左投左打、ソフトバンク育成13位)も出場メンバーに入っていたので、ネット裏の「スカウト人口密度」は70%を超えていたのではないだろうか。

 私はその日、たまたまそのスカウトと隣り合った席で観戦していた。

 スカウトの方たちはもちろん「仕事」で来ているので、邪魔をしてはいけない。話しかけるのは最小限にとどめ、グラウンドに展開されるプレーに集中していると、横からつぶやきが聞こえてきた。

「桐敷って、スライダー、こんなによかったかなぁ……」

 どういう意味か、尋ねてみた。

「前に見た時は、スライダー、こんなにいい動きしてなかったんですよ。フォークと、ツーシームと……あとはチェンジアップですかね。フォークとツーシームは使えると思ったんですけどね、スライダーがあまりにも弱いというか、動きが悪くてね」

 確かに今日も、三振を奪っているのはフォークとツーシーム。ストライクゾーンからボールゾーンに落として振らせている。

「あ、ほら、今のボールね」

 右打者のバットが、足元のスライダーに空を切った。

「あんなスライダーじゃなかったんですよ、ただの見せ球みたいなね。だけど、今日はいい動きしてるな〜、まあ、今日に限ってですけどね」

 今日ひと試合だけよくても、まだ信用できない。いつもいい変化をするところを見せてくれないと……。

 それが、「プロ」の評価の仕方だ。

「いくらフォークやツーシームがよくても、落としてボールゾーンで振らせるボールは、じきに捨てられるようになるんです、プロでは。やっぱりストレート系っていうのか、真っすぐと同じ軌道で来て、スッと動くスライダーがあるから、落ちる系に手を出してくれるんでね。そこが弱いと……アマチュアのうちは、140キロ後半と落ちるボールがあれば抑えられるけど、プロに行ったら急に苦労するんですよ」

「吉田輝星はスライダーが上手く投げられない」

 そういえば……。「スライダー」で思い出した話があった。サウスポーではないが、日本ハムの右腕・吉田輝星だ。

 2018年夏の甲子園、優勝旗を初めて東北に持って帰るか?と注目された決勝戦で、大阪桐蔭打線に粉砕されたものの、常時145キロ前後の快速球にカーブ、フォークを武器に快進撃。一躍、甲子園のスターにのし上がった剛腕だ。

 夏の甲子園での快進撃のすぐ後、吉田投手をよく知る関係者が、こんな心配をしていた。

「確かに、吉田輝星ってピッチャーは、うなるようなえげつないストレート持ってますけど、スライダーが上手く投げられない。甲子園であれだけ投げちゃえば、もう“ドラ1”なんでしょうけど、本人にとっては、ちょっと重荷かもしれないですね。プロではスライダーないと、必ず苦労しますからね」

 予言通り、ドラフト1位で日本ハムに進んだ吉田輝星。

 そのせいかどうか、ほんとのところはわからないが、3年目の今季も、チームは窮状を極めたが、一軍登板はここまでわずか1試合2イニングだったのも、やはり「予言通り」となった。

「えらい人はブライト健太の試合に行ってますから」

「今日のピッチングなら、2位でもいいなぁ……」

 もう一度、つぶやきが聞こえてきた。

「でもね、遅かった。決定権を持ってる人に見せられない。ドラフトまでで今日が最後のチャンスだった。上武大のグラウンドで、この時間にブライト健太(中日1位指名)の試合やってるから、えらい人、みんなそっちに行ってますから、今日は」

 そしてドラフトの日。今年も、即戦力を期待するサウスポーは、人気が高かった。

 1位指名で、その名を呼ばれた西日本工業大・隅田知一郎(→西武)、関西学院大・黒原拓未(→広島)、法政大・山下輝(→ヤクルト)は、全国の舞台や人気リーグでその実力が認められていたサウスポーだったし、2位で指名された筑波大・佐藤隼輔(→西武)、三菱重工West・森翔平(→広島)、JR東日本・山田龍聖(→巨人)、創価大・鈴木勇斗(→阪神)は、もともと上位候補に挙げられていたか、直近の都市対抗予選でその成長ぶりを各球団が確認済みのサウスポーだった。

 新潟医療福祉大・桐敷拓馬が阪神に指名されたのは、そのあとの3位指名。サウスポーの通算8番目だった。

「もったいないことしたかな……と思いますね。思いますけど、これがドラフトでしてね。ちょっとしたボタンのかけ違いじゃないけど、たまたま見た試合で良ければ評価が上がるし、たまたまその日に別の所に行ってれば、評価はそのまんま。“たまたま”の繰り返しで、縁が切れたり、つながったり……ですよ。ヨソに獲られた選手をうらやましがるのは今日までにして、ウチが獲った選手を一丁前にすることのほうを考えないとね。それに、もう次のドラフトが始まってますから。新聞記事の〆の文句じゃないけど、そう言って、スカウトは前を向いた……ですよね」

 自らが推薦した選手が存分に活躍し、幸福なプロ野球生活を続けてくれることを願いつつ、スカウトたちは入団交渉の季節を迎える。<ドラフトウラ話・楽天編から続く>

文=安倍昌彦

photograph by Sankei Shimbun