2012年シーズンから、連続就任期間では“球団最長政権”となる10年にわたり北海道日本ハムファイターズを指揮した栗山英樹監督。その功績と、次期監督が有力視される“新庄剛志新監督”への期待について、ファイターズOB・岩本勉氏に語ってもらった。

 “野球少年の心”を最後まで持ち続けた監督だった――。この10年間、日本ハムを率いた栗山英樹さんを見てきて、そう思いました。

 2012年シーズンから就任して、前半5年は、リーグ優勝2回、日本一1回を含む4度のAクラス入り。一方、後半5年のAクラス入りは一度。次第にファンから厳しい声も上がるようになりました。それでも、在任中に見せた「栗山監督しかできなかったこと」を思い返すと、球団史に残る、ゆくゆくはヒストリーとしてファンに語り継がれる10年だったと確信しています。

「一番ピッチャー大谷」という“功績”

 功績として真っ先に頭に浮かぶのは、やはり「大谷翔平」でしょう。今でも忘れられません、日本一を勝ち取った16年シーズン。7月3日の対ソフトバンク戦で「1番ピッチャー大谷」のアナウンスを聞いた時は、「んなアホな……」と鳥肌が立ったことを覚えています。

 バッティングも良かった現役時代の桑田真澄さんがパ・リーグに在籍していて、桑田さんの登板試合はDHを解除する、という発想ならまだ理解できます。それを凌駕した、少年野球チームの大黒柱のような“1番ピッチャー案”を誰が思いつきますか。野球界の常識に縛られず、斬新な起用でファンを沸かせたのは、栗山監督の手腕によるところが大きいと思います。

 そうした起用を実現する柔軟性に加えて、大谷獲得時のフットワークの軽さも印象的でした。今でもはっきり覚えていますが、花巻東高のスクールカラーでもある紫のマフラーをビシッと決めて、MLB志向の大谷を監督自ら交渉しに行きましたよね。そうした“プロ野球監督らしくない”行動を平然とやってのけるのが栗山監督その人でした。

選手を「ファーストネーム」で呼んだ理由

 大谷以外にも、中田翔や西川遥輝、近藤健介、中島卓也……といわゆる“栗山チルドレン”の成長も栗山監督によるところが大きいと思います。監督が選手をファーストネームで呼ぶことは有名ですが、選手をいち大人としてリスペクトし、対等なコミュニケーションで選手たちの心をつかんで、強固な“ファミリー”を作り上げた。一見、放任主義にも見えますが、締めるところは締めていました。もし栗山監督じゃなかったら……栗山チルドレンの半分以上の選手はすでに引退していると思います。

 こうした現代的なコミュニケーション術や、先ほど言った斬新なアイデアでチームを強くしたわけですが、後半5年は苦しかったと思います。大谷や有原航平がアメリカに行き、中田翔も今シーズン途中、巨人に移籍しました。主力が抜ける中、さまざまな策を講じてチーム状況を好転させようとしましたが、結果に結びつきませんでした。

「オープナー制度」「選手全員主将制」は“賭け”だった

 たとえば、MLBを参考に19年シーズンから取り入れたオープナー制度。本来リリーフの投手が先発して、1巡程度(1〜3イニング)を投げた後に、本来先発の投手をロングリリーフで継投する起用法です。これについては私も、試合のリズムが生まれづらい点や、投手陣の調整の難しさなどの理由から反対でした。

 今年採用した「選手全員主将制」も同様です。苦肉の策だったとは思うんです。どうにかして選手の意識を変えないといけない、と。しかし、チームを優勝という一つの方向にまとめていく、時に厳しいことも言える、そんなキャプテンの存在は明確にしたほうが良かったと思います。この制度を取り入れた際、私は「近藤か西川を任命したほうがいいのでは」と言いましたが、何かやらなきゃいけない、という監督の思いは痛いほど伝わってきました。

 こうした動きは、栗山監督にとってチームを好転させる“賭け”だったのだと思います。

 選手育成については、栗山チルドレンの次がなかなか開花しなかった。特にスラッガーとして、大田泰示、渡邉諒、清宮幸太郎らの中からひとりでもチームの“幹”になれば、話が違ったのでしょうが、彼らに怪我などが重なったことも不運でした。

近年の成績低迷の理由は……

 チームの成績が低迷するにつれて、「選手に甘すぎる」「チームに緊張感がないのでは」「時には主力選手にも厳しいことを言うべき」といった声が上がるようになりました。事実、私もチームの緊張感という点で思うところがなかったわけではありません。

 ただ一方で、こうも思うのです。先ほど言ったように、選手をいち大人として尊重して、対等なコミュニケーションを取るのが栗山監督流。いい大人が、厳しい監督でなければ気持ちが緩むなんてありえないことです。

 誤解を恐れずに言いますが、近年の成績低迷は、選手たちが残した数字と直結しています。そしてその理由は、選手が監督に甘えすぎたからだと思います。この現実を選手たちが直視しないことには、来年以降もファイターズの成績が好転することはないですね。

 今思い返すと栗山監督の10年間、「次はどんな新しいことをやってくるんだろう」とずっとワクワクしていました。一方で、私の発想が追いつかないこともあったので、栗山監督の戦術や起用法については、基本的に結果を見てからコメントするようにしていました。結果論で言うな、と思われるかもしれませんが、結果が出る前に“適当なこと”は言えませんから。

有力視される“新庄新監督”でどう変わる?

 一部報道では新庄剛志の名前が次期監督の有力候補に上がっていましたね。まだ正式発表が出ていないのでなかなかコメントしづらいのですが、近年の低迷やコロナ禍で離れたファンを再度球場に呼び込むためには、最適な人選だと思います。

 ひょっとすると、新庄持ち前のキャラのイメージが強くて、「面白そうだけどマネジメントは大丈夫だろうか」と思っている人も多いかもしれません。ですが、はっきり言っておきます。私は見ていたのでわかりますが、新庄はああ見えて練習の虫。日米通算1500安打を打っている男ですし、選手に求めるレベルは極めて高くなると思うので、「鬼の練習量」になると見ています。

 メディアの前で冗談を言っているだけのように見えて、本質的な言葉がちりばめられているのも新庄節。23年に開業する新球場のベンチで、新庄が選手に指示を出す――夢があっていいじゃないですか。

(構成/田中仰)

文=岩本勉

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