11月21日、マンチェスター・ユナイテッドはオーレ・グンナー・スールシャール監督の退任を公表した。レジェンドに対する気遣いなのか、公式サイトは「解任」という表現を用いていない。

 10月末にリバプールに0-5と完膚なきまでに叩きのめされた後も、マンチェスター・シティに0−2というスコア以上に圧倒的な実力差を見せつけられた11月頭の段階でも、ユナイテッドは監督解任を考えていなかった。

 ユニホームの売り上げが好調で、SNSのフォロワー数もうなぎ登り。ビジネス面に不安がなく、むしろ上向いているのだからそれでよし。オーナーのジョエル・グレイザーをはじめとする上層部は、現場の混乱に無関心だった。

 しかし、第12節の相手はワトフォードだった。

 リバプールでもシティでも、チェルシーでもない。降格候補にすら挙げられるクラブに1-4の惨敗。その翌日、スールシャールは去っていった。

 解任以外のなにものでもない。

バラバラになりかけていた組織を瞬く間に修復

 2018年12月19日、スールシャールが暫定監督に就任するとユナイテッドは笑顔を取り戻した。前任ジョゼ・モウリーニョのパワーハラスメント、古すぎる戦術的アプローチに疲弊していたロッカールームを、スールシャールは活気づけた。

モウリーニョの後を受けた2018年末の就任当初は期待感も高かったが……©Getty Images

 選手たちと距離を置かず積極的に話しかけ、バラバラになりかけていた組織を瞬く間に修復した。

「いつも笑顔で接してくれる。話の分かる人だね」(ポール・ポグバ)

「相談に乗ってくれるし、周りに気を遣える人だと思う」(ルーク・ショー)

 モウリーニョに名指しで批判されていた選手たちはとくに、スールシャール体制発足を歓迎していた。

 その甲斐あって、12月23日のカーディフ戦から公式戦8勝2分。ポグバの絶好調時とも重なり、監督交代のタイミングは間違っていなかったと思われた。

 モルデやカーディフで監督を務めたものの確かな実績がなく、リバプールのユルゲン・クロップやシティのジョゼップ・グアルディオラと伍する経験にも乏しかったが、斜陽のユナイテッドに“晴れ間”をもたらしたのは紛れもなくスールシャールの明るさだった。

ポグバの不振とともに勢いは失速

 ただ、好調を長く維持できなかった。

 ポグバの不振とともに勢いが急速に薄れ、3月以降の公式戦は4勝2分8敗……。2018-19シーズンのユナイテッドはチャンピオンズリーグの出場権すら獲得できなかった。当然、スールシャールは批判の対象になる。

「明確なゲームプランがない」

「特定の選手に依存している」

 そうした指摘は、その後のユナイテッドについてまわることになる。

 2019-20シーズンは第8節までに3敗を喫し、続くリバプール戦で引き分けると14位にまで落ち込んだ。もちろん、ポグバの負傷(第5節から長期欠場)は痛かったが、スールシャールは打開策を見出せないままベンチでフリーズし、ときおりテクニカルエリアまで出ていっても、腕を組んで戦況を見守るだけだった。

 冬の移籍市場で獲得したブルーノ・フェルナンデスの大活躍で3位になったとはいえ、チームの総合力は上向いていない。彼が疲弊した最終盤のクラブパフォーマンスは精彩を欠き、アーロン・ワン・ビサカやハリー・マグワイアといった補強も、目に見えた成果につながったわけではなかった。

昨季は2位に入りCL出場権を手にしたが、戦術を確立できず、個人への依存度が高かった©Getty Images

戦略・戦術を確立できず、特定の個人に依存

 昨シーズンも同様だ。最終的に2位に入ったものの、優勝したシティとは12ポイントもの大差である。リバプールに5ポイント差をつけたといっても、それは、マージーサイドの強豪がビルヒル・ファンダイクを右膝の十字靭帯断裂で失ったからだ。世界最高級のDFが健康体であれば、順位は逆転していたに違いない。

 結局は18ゴール・12アシストのB・フェルナンデス、巧みなポジショニングと効果的なプレッシングで攻守のリズムを整えたエディンソン・カバーニに負うところが大きかった。スールシャールは例によって戦略・戦術を確立することができず、特定の個人に依存するフットボールから抜け出せなかった。

 いや、抜け出そうとしなかった、といって差し支えない。

 とにかく、なにもかもが場当たり的なのだ。対戦相手によってゲームプランを変更することはなく、判で押したように同じ顔ぶれが先発する。コンディションが低下していても、メンバーが変わらないのだ。

 また、闘わずに走りもしないアントニー・マルシャル、信じがたいイージーミスを繰り返すマグワイアに多くのチャンスを与え続ける一方、エリック・バイリーやフアン・マヌエル・マタ、ドニー・ファンデベークを冷遇した。控え選手、彼らのエージェントが不満を漏らすのは当然だ。マネジメントがなっていない。

 にもかかわらず、上層部は危機感を抱いていなかった。

サンチョを左に配置し、持ち味を消す

 シティのグアルディオラが偽サイドバックやゼロトップなどの革新的アイデアを披露し、フランク・ランパードからチェルシーを引き継いだトーマス・トゥヘルが2ライン間、幅、裏といったすべての危険エリアを流動的なディフェンスでカバーしつつ就任4カ月でCLを獲得したにもかかわらず、なにもできない(しない)スールシャールを放置していた。

 就任から2年以上が過ぎても最適解を見出せない男に、なぜ時間を与えたのだろうか。今シーズン開幕前、OBのガリー・ネビルはこう言った。

「ジェイドン・サンチョ、ラファエル・バラン、クリスティアーノ・ロナウドの加入で、ユナイテッドはようやく優勝を狙えるだけの戦力が整った。スールシャールにあと2、3年与えていいだろう」

鳴り物入りで加入したサンチョは得意のポジションで起用されず本領を発揮できていない©Getty Images

 だが、監督としてとっくの昔に限界を迎えたスールシャールに、C・ロナウドやバラン、サンチョを与えたところで宝の持ち腐れだ。案の定、右サイドを得意としているサンチョを左に配置し、彼の持ち味を消してしまった。

 これほどの失態を演じ続けたのだ。ワトフォード戦終了後の退任はむしろ遅いくらいであり、現場の混乱に鈍感な上層部は猛省しなければならない。

コーチのキャリックが暫定監督に

 フットボールとプレミアリーグを正確に観察してさえいれば、スールシャールは少なくともシーズン開幕前に解雇されてしかるべきだった。在任2年11カ月で無冠。決勝進出は昨シーズンのヨーロッパリーグだけ。

 在任中の成績は91勝37分40敗。勝率54%はデイビッド・モイーズの53%、ルイス・ファンハールの52%を上回ったが、モウリーニョには4%も及ばなかった。

 ビッグ6との直接対決は14勝10分12敗。総計4億4100万ポンド(約662億円)もの巨額を投じ、B・フェルナンデスやバラン、サンチョ、ファンデベークを獲得したものの、ひとつもタイトルを得ることができなかった。

 スールシャールの手腕が、グアルディオラ、クロップ、トゥヘルに遠く及ばす、この先ユナイテッドの監督を続けても無意味であることは、数々のデータも顕著に示している。

 現地時間11月22日、ユナイテッドは暫定監督にコーチのマイケル・キャリックを指名。新監督の招聘に動きはじめたが、フットボールの内容よりビジネスを優先してきた上層部は適任者を見つけられるだろうか。そして何より、キャリックは救世主となりうるのか。

 ユナイテッドの迷走が、いつ果てるともなく続いている。

文=粕谷秀樹

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