11月15日に行われた帰国会見で今季を振り返った大谷翔平。その4日後、満票でア・リーグのMVPに選出された。

 大谷翔平、アメリカン・リーグMVP(満票)。この凄さについてはあらためてここでやらなくてよいでしょう。「月刊スポーツ新聞時評」としてはスポーツ紙の食いつき方に注目しました。ああ、そうなるのかという案件を見つけたからです。

『オオタニさんに国民栄誉賞&紅白審査員の声』(日刊スポーツ11月20日)

 この見出しをしばらく見つめてしまいました。MVPをステップに「さぁ、国民栄誉賞だ、紅白だ」というノリを感じたからです。昭和からの普遍(不変)の価値観が炸裂しているようで妙に可笑しかった。

 ただこれは日刊スポーツが主張しているのではない。記事を読むと官邸で岸田首相が《国民栄誉賞の授与を検討するかどうかを問われると》というくだりがあった。一方の紅白うんぬんは《大谷のア・リーグMVPは、NHKで行われた紅白歌合戦の出場者発表会見でも話題に出た。》とある。つまりどちらも「記者団」のほうから聞いているのだろう。

やっぱり出てきた政府の人気取りと福本さんのあの話

 私はこれまで「おじさんによるおじさんのため」の報道や価値観を「オヤジジャーナル」と呼んでネタにしつつ愛してきた。紅白歌合戦に誰が出るのか今もドキドキして騒いでいるのはオヤジジャーナルの見どころの一つなのである。もちろんそこには現場のお付き合いやしがらみもあるのだろう。それも含めて昭和の風景を今も確認できる。

 そんなオヤジジャーナルしぐさを確認していたら政府が大谷選手に国民栄誉賞を打診したというニュース。大谷選手は「まだ早い」と言って辞退したという。

 ここで面白かったのはあの「福本豊」のコメントをスポーツ報知が載せていたことだ(11月23日)。1983年に当時世界新記録の通算939盗塁を達成した福本氏は「立ちションベンができなくなるから」と言って辞退したというのがSNSであらためてウケていたのだ。「本紙評論家」として福本氏を抱える報知はそのタイミングを見逃さなかった。

 取材に対し福本氏は、

《ボクが国民栄誉賞を辞退した理由は、おもしろく伝えられている。「立ちションベンができなくなるから」と言って断ったと。真意はそうじゃない。国民の模範となれるか? そう考えると、自分の行動に自信が持てなかった。酒は飲むし、当時はたばこも吸うし、マージャンもしていた。とてもじゃないが、品行方正と呼べる人間じゃなかった。だから、辞退させてもらった。》

 なるほど。そりゃそうですよね。

《そんなたとえ話のひとつとして「酔っぱらったら立ちションベンもする」と言ったのが“福本伝説”みたいになってしまっているけどね。》

 やっぱり「立ちションベン」って言っていた。こちらが油断したらホームスチールまで決められた気分です。

国民栄誉賞は誰のため?

 ちなみに報知の「記者の目」は、大谷翔平は《野球に直結する勲章に関しては常に貪欲な姿勢を示してきた。(略)辞退は、野球以外のことにあまり関心を示さない大谷らしい決断といえる。》(11月23日)

 大谷選手はおじさん達の思惑に振り回されなくていいと思う。それにしても国民栄誉ってどんな判断基準があるのだろう。いろいろ読んでみたら、

《授与の判断はあいまいで、時の政権の腹づもり1つだ。(略)腹づもりと引き換えに「人気者の政治利用」との批判が出る場合も多く、タイミングや対象人物に、かなりの慎重さが求められるのも事実だ。》(日刊スポーツWEB・11月28日)

 判断は恣意的なのである。そういえば昔、美空ひばりさんと手塚治虫さんが亡くなった年になぜ前者だけ国民栄誉賞なのかという議論、もしくは野次馬の意見があったことを思い出す。でも時の政権の恣意的な判断とすると途端に議論が終わる。国民栄誉賞は当初から政府の話題作りのためのイベント・セレモニーでは?と言われてきた。福本豊にしろイチローにしろ大谷翔平にしろ、誰かの負担になるならそろそろ考え時なのでは。

 さてここまでオヤジジャーナルからの大谷翔平炸裂の話題を紹介してきました。実は盛り上がっているのはその業界だけではありませんでした。私は発見してしまったのです。地下鉄の吊り広告で『Number』の「大谷翔平2021完結編」の広告を見ていたら、その隣に「大谷翔平美容」と書いている美容雑誌があるではないか。

 お、大谷翔平美容?

 気になるので買ってしまいました。それは『美ST』(光文社)という雑誌で表紙が黒木瞳さん。間違いなくイケてる美容雑誌です。「大谷翔平美容」とは「自分も周りも日本もあがる!」と説明していた。そして大谷翔平メークとして「ハリツヤ大谷肌」「薄太ストレート眉」など多様なメイク指南が。

日本で一番の福顔

 私がもっとも注目したのがここです。なぜ「大谷翔平美容」という企画を組んだのか。

《編集部は考えました。「パーッと運が開けそうな、日本でいちばんの福顔って?」満場一致で名前が挙がったのが、世界で活躍し、多くのファンに愛される大谷翔平選手。》

 満場一致! ああ、ここでも「満票」だった大谷翔平。素晴らしい!

 以上、11月のスポーツ新聞時評でした。

文=プチ鹿島

photograph by Hideki Sugiyama