稲見萌寧の強さは一体どこから来るのか――。彼女が勝つたびにそんなことを考えていた。

 2020年と21年が統合された今季の国内女子ツアーは、52試合の全日程を無事に終えた。終盤戦の見どころは、やはり賞金女王争いだった。最終戦の「JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」では、賞金ランキング1位の稲見と同2位の古江彩佳の一騎打ちとなった。

 稲見が逃げ切るか、古江が逆転するかの争いは、ゴルフファンを大いに楽しませてくれたが、当の本人たちには相当な重圧だったに違いない。

 最低でもこの試合で2位以上が逆転条件となっていた古江だが、最終的に6アンダーの3位タイに終わり、稲見が初の賞金女王のタイトルを獲得した。

 22歳122日での賞金女王は2007年上田桃子の21歳156日に次ぐ、歴代2番目の記録。それに不動裕理が2003年に達成したツアー新記録の年間10勝には届かなったが、稲見の今季9勝も十分誇れるものだ。稲見に次いで2番目に多い勝利数が、古江の6勝だったことを考えると“横綱ゴルフ”だったと言っていいだろう。

2020-21賞金ランキング上位10名 最終戦まで賞金女王の座を争った古江彩佳(左)と記念撮影をする稲見萌寧 ©︎Atsushi Tomura/Getty Images

最後までやり切った「完」

 稲見は今年のゴルフを漢字一文字で表すと何になるかと問われると「完」と答えていた。その理由について「完結もありますし、自分が最後までやり切ったという感じが強いのもあります。今年初めて自分の目標を何個もクリアできたので、よく出来ましたっていう感じでこの漢字一文字に決めました」と笑顔を見せる。

 東京五輪で銀メダルを獲得し、メジャーも制覇し、苦労の末にたどり着いた賞金女王という最高の結果に「自分の中では100点だと思います」と喜びを隠さなかった。終わり良ければすべて良し、だ。

 しかし、すべてがうまくいっていたわけではない。どちらかと言えば、トラブル続きのなかでどうにか気持ちを立て直し、たどり着いた初の女王戴冠だったと思う。

 そんな心境を吐露したコメントがある。

「私自身、人前でしゃべることだったり舞台の上に立っても全然大丈夫なタイプなので影響とかは何にもありませんが、東京オリンピックとか賞金女王争いの時とかは、考えていなかったことを知っちゃうこと、知りたくなかったことを知っちゃったりというのもありました。その辺でプレッシャーもあったと思います」

 人当たりがよく、性格的にも物怖じすることもない。人前に出れば堂々としている雰囲気を持っているが、その通りだと思う。ただ、注目選手に成長したことで、知りたくないことも自然と目と耳に入ってくるようになった。

 思えば、東京五輪の日本代表の座も古江と争っていたし、今や女子ゴルフ界の注目度ではナンバーワンと言ってもいい渋野日向子にも東京五輪代表の座を期待する声が大きかった。

 今年6月の「アース・モンダミンカップ」、7月の「資生堂レディス」で2週連続で予選落ちしたときは「心が折れた」と言っていた。それでも気持ちを立て直せたのは、「そのあとに勝てたりしているから」と自分なりに分析している。つまり、稲見は結果を出したり、勝つことでメンタルを蘇らせてきたというのだ。

勝つたびに鍛えられた“強心臓”

「東京五輪にはめちゃくちゃ出たかった。裏では出たい気持ちを抑えていた」と喜びを爆発させ、ホーム開催の五輪では国民の期待に応える活躍で、見事に銀メダルを獲得した。当初は米ツアーを主戦場にする畑岡奈紗が東京五輪のメダル大本命で、稲見の実力を懐疑的に見ていた人も多かったはずだが、そんなプレッシャーをはねのけてのメダル獲得だった。

「五輪のメダルを獲ったという自覚の強さは偉大だったなとすごく感じます」

 多くの日本国民の耳目が集まる五輪を機に、大きく風向きが変わった。ここから肩にのしかかる重圧を乗り越えていく術を学んだ。

「勝つからこそ、より一層パワーアップできると思っています。プレッシャーをどんどんかけてもらって、それに勝るくらい乗り越えようっていう気持ちでできたので、それが逆に良い経験になりました。それを乗り越えたからこそ、賞金女王になれたと思うのですごくよかったなって思います」

©︎Yoshimasa Nakano/Getty Images

 多少のことでは動じない“強心臓”は、勝つたびに鍛えられたのだろう。そして、その下支えになったのは練習だ。

「(気持ちが)折れても折れてなくても、負けても勝っても練習をずっとしていました。そのルーティンだけは変わらずにひたすらやり続けること。それはどんな時でも役に立つのかなと思います」

 当たり前のことを当たり前のようにやり続けることで、不安を払しょくし、重圧に打ち勝ち、結果を出す――。その過程はまさにプロのアスリートのお手本だ。

 余談だが、彼女が“持っている”と思ったのが、10月の「NOBUTA GROUP マスターズGCレディース」の最終日に腰痛で棄権し、翌週の「樋口久子 三菱電機レディス」を欠場したあとだった。

「賞金女王はしょうがないと諦めた」と語るほどの痛みだったが、その後に出場した「TOTO ジャパンクラシック」で2位に入り、次の「伊藤園レディス」で優勝するところ、やはり並みの選手ではないと感じたものだった。

伊藤園レディスでツアー通算10勝目をマーク ©︎Getty Images

 意外性や驚きを与えるという意味では、スター選手に必要な要素も持ち合わせているのではないだろうか。将来的に描いている目標も目先のことにとらわれていないのが、大物ぶりを感じさせる。

「まだどれも完璧ではないので、すべて完璧を目指してもっと最強のプロゴルファーになれるようにすべてを極めていきたいと思います」

 彼女の言葉のトーンが、ある選手と重なった。誰かと考えていたら、思い浮かんだのはかつて女子ツアーで“ギラついていた”若かりし頃の元賞金女王・上田桃子だ。今年35歳の上田は今も「もっとうまくなりたい」とゴルフの魅力に取りつかれている。現に今季は賞金ランキング10位と衰えを知らない。そういう意味では、稲見は若手の中では珍しくギラギラしたものを感じるし、上田に似て“向上心の塊”だと感じる。

 今後の抱負についても「一番の目標は永久シード(通算30勝)です」と断言している。賞金女王のタイトルも通過点に過ぎない。稲見は本気だ。

文=キム・ミョンウ

photograph by Yoshimasa Nakano/Getty Images