雑誌「Sports Graphic Number」と「NumberWeb」に掲載された記事のなかから、トップアスリートや指導者たちの「名言」を紹介します。今回は名選手が語った落合博満にまつわる3つの言葉です。

<名言1>
あの手首を柔らかく使う落合さんの技術を盗みたい。
(立浪和義/Number739号 2009年10月15日発売)

◇解説◇
 日本プロ野球唯一となる三度の三冠王、NPB史上最高の出塁率.487(1986年)、大事な場面で相手エースを打ちのめす一撃……落合博満の打撃は記録にも記憶にも残る衝撃的なものだったが、同じ時代に現役を過ごした後輩選手たちにも大きな影響を残した。その1人が、ミスタードラゴンズの立浪だ。

 PL学園で主将として87年の甲子園春夏連覇を達成し、ドラフト1位で中日に入団。88年には星野仙一監督の抜擢もあって新人王、高卒ルーキー史上初のゴールデングラブ賞を獲得、リーグ優勝も経験するなど一気にスター選手へと駆け上がった。

落合が打撃練習を始めると必ず打撃ケージの後ろへ

 そんな若き立浪にとって、最高の教科書が目の前にいた。

 落合が打撃練習を始めると、必ずバッティングケージの後ろでその姿を見つめる立浪の姿があったという。野球へのあくなき向上心が小さな体を支えていたのである。

2004年、立浪を打撃指導する落合監督 ©Kyodo News

 そんな立浪が2022シーズン、中日の新監督に就任した。

「星野(仙一)監督から始まり、高木(守道)監督、山田(久志)監督、落合(博満)監督と素晴らしい指導者のもとでプレーさせていただきました。たくさんいいところを見てきたので、教訓にするというか、頭に入れて指導したい。理想の監督像は思い浮かばないです」

 このように就任会見で語った立浪は秋季キャンプで、早くも根尾昂らの若手相手に溌溂と指導した。その一方で選手たちとコーチ陣の間で“練習免除じゃんけん大会”を開催するなど、メリハリある指導を行なっている様子が球団公式YouTubeで配信されて話題になった。

 培ってきた技術と圧倒的な統率力を前面に、低迷が続く中日を再び強竜軍団へと押し上げられるか。

バース「落合には弱点なんてない」

<名言2>
おそらく、落合には弱点なんてないんだろうけど。
(ランディ・バース/Number154号 1986年8月20日発売)

◇解説◇
 長年にわたってプロ野球を見続けた人々、何より阪神ファンにとって史上最高の外国人スラッガーと言われれば、条件反射でランディ・バースの名前を挙げるだろう。

 メジャー通算9本塁打だったバースは83年に阪神入団後、35本塁打、27本塁打と関西の地でその打棒が覚醒。掛布雅之や岡田彰布らとのダイナマイト打線が完成し、リーグ優勝を果たした1985年には打率.350、54本塁打、134打点で三冠王に輝いた。

 バースの打撃は翌86年にさらなる進化を見せる。シーズン打率はNPB史上最高となる.389をマーク。この数字は落合だけでなくイチローや内川聖一、青木宣親ら現代のアベレージヒッターでも更新できておらず、「最も4割打者に近づいた」成績だった。さらには47本塁打109打点と、2年連続での三冠王にも輝いたのだ。

「誰も落合に対してこういうことを言わないのにね」

 そんなバースは、対戦相手としては脅威でしかない存在だった。メディアも「バース攻略法」をしきりに話題にて、86年シーズン途中に本人はこのように嘆いていたことがある。

「ぼくは日本語がわからないけど、『バース』という言葉や、テレビでぼくの『弱点』がどれだけ話題になってるのかぐらいはわかるよ。しょっちゅう聞いてるからね。誰も落合に対しては、こういうことを言わないのにね。マスコミだって、『落合打倒法』なんて全く話題にしないものね」

1986年の落合とバース ©BUNGEISHUNJU

 当時パ・リーグのロッテ所属だった落合との注目度の差を少し皮肉った。ただしバースは同じ三冠王である落合の実力を誰よりも認めていた。そうでなければ「弱点なんてない」という最上級の賛辞を口にしないはずである。

落合くんの発言は、どうも真意が伝えられていない

<名言3>
落合くんの発言は、どうも真意が伝えられていないようなんだな。彼ほど誤解されているひともいないんじゃないかな。
(王貞治/Number163号 1987年1月6日発売)

◇解説◇
 80年以上の歴史を持つ日本プロ野球の中で、三冠王はわずか7人しかいない。その中で複数回三冠王を経験したのはバース、王、落合の3人のみだ。その王と落合の三冠王・特別対談が1986年のシーズンオフに実現した。

Number163号の落合・王対談

 大打者同士の打撃論は非常に精緻かつ、常人ではたどり着けないレベルの言葉の数々が並ぶが……興味深いのは練習についての見解だ。

 現役時代の王は荒川博打撃コーチのもと、いわゆる「荒川道場」で年中休みなくバットを振り、部屋の中で真剣を振ったとの伝説も持つ。一方で落合はメディアによる《練習嫌い》のイメージが先行していた。
対照的な2人というイメージだが、王は落合に対して理解を示していた。

「キャンプのときにも、いろいろ言われるでしょう。『落合は練習をしない』とか。でも、プロの練習って、みんなが同じじゃないんだしね。でも、面白いよね、日本じゃみんなが同じことをしていないと、どうも納得しないんだよな」

 落合は練習をほぼ非公開にしていた。しかし当時のチームメイトは「真正面から来た硬球を打ち返す」というメニューに驚嘆していたという。それだけでない。落合自身は恐るべき意識を持ってゲーム前の打撃練習に臨んでいた。

「まず順番にレフト・センター・ライト、レフト・センター・ライト、左中間・右中間、三塁線のフェア・ファウルと、『打て』と言われて、何人がちゃんと打てるかな? オレ、『打て』って言われたら打ってみせるよ。そういう練習してきたから」

 誰にも追いつけない技を磨いてきたからこその自負。王もそれを分かっているからこそ、「オレ流」の打撃を認めたのだろう。

文=NumberWeb編集部

photograph by Sports Graphic Number