「勝ちたい気持ちが強い。もっともっと、ヒリヒリする9月を過ごしたい。来年以降、そうなるように願っている」(大谷翔平)

 エンゼルスに在籍4年の大谷がそう感じるのだから、2009年のドラフト1巡目(全体25位)指名で入団し、「エンゼルスひと筋」のマイク・トラウト外野手や、大谷より半年早い2017年の夏、金銭トレードで加入したジャスティン・アップトン外野手にとっては、屈辱的なシーズン(の繰り返し)だったに違いない。

今季は投打で活躍した大谷翔平

7年連続でプレーオフ進出を逃したエンゼルス

 2021年は4年連続となるア・リーグ西地区4位に沈み、2014年にア・リーグ西地区王者となって以来、7年連続でプレーオフ進出を逃した。以下は公式戦の勝敗数と1試合平均の得失点、それらの地区内における順位だ。

 (1)アストロズ   95勝67敗(勝率.586) 5.33得点(1) 4.06失点(1)

 (2)マリナーズ   90勝72敗(勝率.556) 4.30得点(4) 4.62失点(3)

 (3)アスレチックス 86勝76敗(勝率.531) 4.59得点(2) 4.24失点(2)

 (4)エンゼルス   77勝85敗(勝率.475) 4.46得点(3) 4.96失点(4)

 (5)レンジャーズ  60勝102敗(勝率.370) 3.86得点(5) 5.03失点(5)

 1試合平均の得失点を見れば順当で、“投打ともに地区優勝には程遠い”。2位マリナーズもワイルドカード獲得に2ゲーム差で届かなかったのだから、“プレーオフ進出も遠かった”のだが、誰の目から見ても“投手陣さえもうちょっと、何とかすれば上に行けた”のは間違いない。

 幸運なことに、メジャーリーグ(MLB)は毎年、100人以上の選手が契約満了と共にFAになるので、ファーム生え抜き選手の成長を待つことなく、“金さえ積めば”補強できる。だから、エンゼルスも今オフ、懸案事項の先発投手陣の補強のため、ノア・シンダーガード(前メッツ 単年2100万ドル)とマイケル・ロレンゼン(前レッズ 単年675万ドル)をFAで獲得した。

エンゼルス新戦力2人への“期待と不安”

 シンダーガードは、ブロンドの長髪と半裸姿がネット上で話題になるほどの強靭な肉体美で、スーパーヒーローたちの映画「アベンジャーズ」に登場する雷神「Thor=ソー」をニックネームに持つ。時速100マイル超えの右腕で、来季MLBで8年目を迎える29歳だ。

エンゼルス注目の新戦力①シンダーガード(元メッツ) 強靭な肉体から繰り出す時速100マイル超のボールが武器 ©Getty Images

 シンダーガードに負けないほど強靭な肉体を持つロレンゼンは、日本でも「投打二刀流」として知られる選手で、来季MLBで8年目を迎える29歳だ。今季は救援投手として活躍したが、先発志向が強く、先発しない時には外野手として出場することも可能だ。

 もちろん、どんなFA選手にもあるように、彼らの未来には不安材料もあるのだが、今のところは「期待値」が上回っている。

 シンダーガードは、2020年3月に受けた右肘のトミー・ジョン(側副靱帯再建)手術のために過去2年、わずか2試合2イニングしか公式戦で投げていない。キャリア通算でも47勝(31敗)、防御率3.32という投手だが、「健康でありさえすれば、エース級の成績を残せるかも?」という期待に溢れている。それは彼が22歳だった2015年に9勝を挙げてチームのナ・リーグ優勝に貢献し、最優秀新人の投票でも4位に入ったことや、翌2016年の14勝9敗、防御率2.60というキャリア最高成績を挙げた過去が、余りにも鮮烈だったからだろう。

 ロレンゼンはどうか。シンダーガードと同じ2015年にデビューし、先発投手としては2015年に21試合が最多で、その後は2018年の3試合が最多と心許ない。キャリア通算では23勝23敗14セーブ、防御率4.07という投手なのだが、2019年に救援投手として73試合に登板して1勝(4敗)7セーブ、防御率2.92と活躍したイメージが強く、新天地では「先発の柱」に定着することが期待されている。

エンゼルス注目の新戦力②ロレンゼン(全レッズ) 

 シンダーガードとロレンゼン両投手の補強がどう転ぶのかは別にして、エンゼルスにとっての大きな問題は、彼らと同地区のライバル球団がエンゼルスをしのぐ勢いで補強に乗り出していることだ。彼らがいくら頑張っても、ライバルたちが今季以上の戦力を上乗せすれば、追いつかない。

ライバル球団たちの“大補強”の内容とは?

 まず、ア・リーグ西地区王者のアストロズが、シンダーガード同様、トミー・ジョン手術上がりのエースで、今季登板がなかったジャスティン・バーランダーと再契約に合意し、さらにフィリーズの元クローザー、ヘクター・ネリスとも2年契約に合意したと伝えられている。

 エンゼルスにとって何よりも気になるのは、彼らの先を行くマリナーズと、後から追いかけてくるレンジャーズの動向だ。

 マリナーズは今オフ、まずジェリー・デポート編成本部長が、「昨夏のトレード期限から狙っていた」というアダム・フレイザー内野手を、トレードで獲得した。フレイザーは2021年、パイレーツとパドレスで打率3割+36二塁打、5三塁打、5本塁打、10盗塁と機動力を発揮した選手で、投高打低の傾向があるマリナーズの本拠地球場に適した選手だ。続いて今季、ア・リーグのサイ・ヤング賞投手となった左腕ロビー・レイ投手(前ブルージェイズ 5年総額1億1500万ドル)を獲得した。

マリナーズが獲得した今季のサイ・ヤング投手、ロビー・レイ ©Getty Images

 一方のレンジャーズは、先発のジョン・グレー投手(前ロッキーズ 4年総額5600万ドル)、元エンゼルスのコール・カルフーン外野手(前ダイヤモンドバックス 単年520万ドル)、さらに今季ア・リーグのMVP候補だったマーカス・セミエン二塁手(同ブルージェイズ 7年総額1億7,500万ドル)と、今オフのFA市場の目玉選手と見られていたコリー・シーガー遊撃手(同ドジャース 10年総額3億2500万ドル)を次々と獲得した。

 FA選手を乱獲したからと言って、来季の順位が保証されるわけではないが、予想に反して12月1日の労使協定期限を前に過去にないほどFA市場が活発化し、マックス・シャーザー投手(今季ナショナルズとドジャース)や、ケビン・ゴーズマン投手(今季ジャイアンツ)らのエース級投手がメッツやブルージェイズと長期契約した。

大谷の“無駄遣い”をしないためにエンゼルスがすべきこと

 経営者側と選手組合が新しい労使協定の締結に合意できずロックアウトに突入する中、エンゼルスは前出の2人の先発投手だけではなく、今季メッツで65試合(2先発)に投げて6勝無敗、防御率0.95の救援左腕アーロン・ループ(2年 1700万ドル)を獲得し、クオリファイング・オファー(QO)を拒否してFAになったライセル・イグレシアス投手(4年 5800万ドル)と再契約して「2021年よりは上」のはずなのに、マリナーズやレンジャーズが大型補強したことで、何となく「充分ではないかも?」と不安になる。

 FA市場にはまだ、通算3度もサイ・ヤング賞を獲得(2014年はナ・リーグMVPとのダブル受賞)したものの、過去数年は怪我に苦しんでいる左腕クレイトン・カーショウ投手(今季ドジャース)や、2009年の同賞ザック・グリンキー投手(同アストロズ)らが残っている上に、今季ノーヒッターを達成した左腕カルロス・ロドン投手(同ホワイトソックス)や、ロレンゼン同様、先発も救援もできるコリン・マッキュー投手(同レイズ)、菊池雄星投手(同マリナーズ)らが残っている。

 就任2年目を迎えるエンゼルスのペリー・ミナシアンGMは来オフ、総額400億円確実とも言われる大谷との再契約/契約延長という難題に答えを出すことを求められているが、その前に「来季の結果」が大事になる。

 2004年にレッドソックスを86年ぶり、2016年にカブスを108年ぶりのワールドシリーズ優勝に導いたセオ・エプスタイン元編成本部長はかつて、こう言ったことがある。

「究極の目標であるワールドシリーズに優勝する最良の方法は、毎年、プレーオフに進出することなのです」

 今年のメジャーリーグ王者となったブレーブスは、4年連続ナ・リーグ東地区優勝中。ブレーブス相手に健闘したア・リーグ王者のアストロズは、4度のア・リーグ西地区優勝を含む5年連続プレーオフ進出中だ。

 4年連続4位のエンゼルスが、いきなりそのレベルに達するのは簡単なことではない。しかしもうこれ以上「MVPの無駄遣い」をしないためにも、ロックアウト解除と共に、ミナシアンGMが再びその手腕を発揮することを期待したい――。

文=ナガオ勝司

photograph by Nanae Suzuki