「ニュー・ネイマール」と大絶賛されるも

 ビニシウス・ジュニオールは2018年夏、ブラジルのフラメンゴからレアル・マドリーにやってきた。

 数カ月後、ジュレン・ロペテギ監督の下でリーガ・デビューを果たし、ロペテギの後釜サンティアゴ・ソラーリから継続的に出場機会を与えられると、みずみずしくキレのあるドリブルで注目を集めた。

 R・マドリー寄りのスポーツ紙は「ニュー・ネイマール」などの表現で彼を大絶賛したが、「いや、それほどでも」と筆者は思っていた。

 瞬発力もボールを扱うテクニックも確かにずば抜けている。けれど見事な突破をチームのゴールチャンスに結びつけられない。欧州1年目の18歳ということを思えば、それでも十分ではあったが。

 続く2シーズンは期待した成長が見られなかった。出場時間の伸びと得点・アシストの伸びが比例しなかった。

すでに過去3シーズンの通算得点数を超えた

 ところが、4年目となる今季は序盤から違う。

 体捌き、ひらめき、ボールコントロールのすべてが冴え、動き出したら止まらないし、止められない。

好転の要因のひとつとして、ビニシウスはアンチェロッティ監督の存在を挙げる©Getty Images

 得点力まで上がっている。昨季の得点数(3得点)を最初の2試合で決めたばかりか、10月末の第12節・エルチェ戦では2得点を奪い、過去3シーズンの通算7得点に並んだ。さらにその後もゴールを加算し、一気に追い越している。

 いったい何があったのか。何が彼を変えたのか。

 ラジオの人気サッカー番組で問われたビニシウスは、今季から指揮を執るカルロ・アンチェロッティ監督の存在に言及した。「自分を信じ、長い時間ピッチに立たせてくれる。だから良いプレーができる」と。

 もうひとつ挙げたのは、心構えと努力だ。

「前はどうだったか分からないけれど、いまはしっかり(試合で良いプレーをするための)準備ができていると思う。100%の状態で試合に臨み、ずっとチームに貢献し続けられる準備ができるようになった」

 面白みのない答えだが、プロとしては100点満点である。

バケーション中も砂浜で身体を鍛え続けた

 結局のところ、少なくともこの世界では、才能だけで事を成し遂げるのは無理なのだ。筆者は以前、シャビやアンドレス・イニエスタからバルサのカンテラの同期に「自分より巧い子は何人もいた」と聞いたことがある。

 世界レベルのクラブでは、巧いだけではトップチームにさえ辿り着けない。

 ではビニシウスは、自分のために、チームのために、どのように備えてきたのか。

 肝心の体調管理は、2019年3月のチャンピオンズリーグ・アヤックス戦で負傷してから雇っているブラジル人トレーナーを頼りにしてきた。彼の指導の下、試合後は脚を労り、ケガを予防するために地味なトレーニングも軽視することなく、一方でスピードとパワーを強化してきたという。

 監督交代を知った今年の夏は、バケーション中も砂浜などを利用して身体を鍛え続けたそうだ。

 また食生活も見直した。フランス出身の料理人を雇って、サッカー選手に必要な栄養を適切なタイミングで適量とるようにしてきたという。

努力と準備を続けてきた結果、ビニシウスは今、最高の状態を保っている©Getty Images

39人ものスタッフで周りを固める

 精神面の安定もある。

 ブラジルのウェブサイト『オ・グローボ』によると、現在のビニシウスはトレーナーやシェフを含め、実に39人ものスタッフ(うち12人は専属)で周りを固めているのだとか。そのほとんどは肖像権管理等の財務や法務に関わるビジネスサイドの人間だが、おかげで諸事に気を取られなくなったのであれば、これも彼なりの準備と言えるだろう。

 ちなみに39人の給金をどのように賄っているのか定かではないが、ビニシウスの年俸(手取り固定給)はチーム最低クラスの320万ユーロ(約4億1000万円)である。

 パフォーマンス向上の恩恵か、昨季はビニシウスを非難する言動が報じられたカリム・ベンゼマとの連係も良くなり、どちらかが出したパスをもう一方が決めるシーンも頻繁に見られる。

 そうした努力と準備により、クリスティアーノ・ロナウド退団後ずっと空いていたR・マドリーの「信頼できるアタッカー」の座に、ビニシウスは就こうとしている。

文=横井伸幸

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