今回の箱根駅伝での“まさか”の1つが、早稲田大の13位だったのではないだろうか。

 大学生トップランナーの証、10000m27分台ランナーを3人も擁しながらも、シード校から陥落する結果に終わった。優勝候補にはなかなか挙がらなかったかもしれない。それでも、前評判はそこそこ高かったのだが……。

 2位から14位まで5分55秒の間に13校がひしめく大混戦だった今回、ちょっとでもミスがあると上位からシード権争いに真っ逆さまで、順位変動が大きかった。その中で、2位の順天堂大は1区18位と序盤に出遅れながらも挽回。4位の東洋大も4区を終えた時点では12位と苦戦していた。

 一方で、早大は、4区の石塚陽士(1年)で一度はシード権圏内の10位に浮上したものの、これが今回のレース中の最高順位。その後は一度も上位争いに顔を見せることがなかった。それゆえ、余計に惨敗の印象が色濃くなったようにも思う。

沿道で「遅いぞ」 学生ランナーが背負った伝統校の重圧

 2区を走った中谷雄飛(4年)が、こんなことを言っていた。

「今年は、沿道から、今まで以上に厳しいことを言われることが多かったんです。“遅いぞ”とか“そんなところ走ってんなよ”とか。これはまだ優しいほうですけど……」

 伝統校であり、期待値の高い人気チームだからこそ、様々な声が選手たちの耳には届くだろう。それは決して激励ばかりではなかった。ハレの舞台のはずなのに、沿道の声で選手が心に傷を負ったとしたら、こんなに悲しいことはない。

 だが、中谷はこう言葉を続ける。

「早稲田は本当に歴史あるチームですし、過去の先輩たちが残してきた実績と比べたら、今の早稲田が弱いと思われても仕方がない。その伝統校で2区を走るということは、それ相応の力があるものと見られるのも当然だと思います。2区の僕の時点で13〜14番を走っていましたから。だからこそ、今年は厳しい声が多かったのだと思いました。

 歴史あるチームでそういう経験をさせてもらえたことはありがたいですし、次にすごく活きるんじゃないかなと思っています」

 沿道から飛んできた厳しい声を受け入れ、今後の競技人生の糧にするつもりだ。

2区中谷 ©️Yuki Suenaga

 勝負事とは残酷なものだ。箱根駅伝は、どんなに力が拮抗していようと、1位から20位まできっちりと順位が付く。多くのチームが1年間の集大成として目標とするレースゆえ、第三者も箱根の順位をそのまま、そのシーズンの学生駅伝界の番付と見るふしがある。

 13番目。これが今回の箱根での早稲田のポジションだった。

 確かに、箱根では振るわなかったかもしれない。だが、私が見てきた限りでは、今年度の早稲田というチームは、近年でも類稀なチームだった。

早大の凄さ・1)1万m27分台ランナーが「3人」も在籍

 まず注目すべきは、やはり10000m27分台の選手を3人も擁している点だろう。

 中谷と太田直希(4年)は2020年12月の日本選手権で、そろって27分台に突入。そして、今年度を迎えてすぐの2021年4月に井川龍人(3年)も27分台ランナーの仲間入りを果たした。

 シューズ等ギアの性能の向上があったにしても、日本人の大学生が27分台で走ったのは、歴代でもわずか20人しかいない。その27分台ランナーが、同時期に同じ大学のチームに3人も在籍しているのは、大学駅伝史上初めてのことだった。

「確かに初めてのことかもしれませんが、秋になったら、27分台を5人ぐらい抱えるチームが出てくるんじゃないかなと思っています」

3区太田 ©️Yuki Suenaga

 春先、相楽豊駅伝監督は冷静に現状をとらえ、こんなことを言っていたが、結局、秋になっても27分台ランナーの数で早稲田に並ぶチームは現れなかった。

 もちろんタイムだけ良くても、その力を目標レースで発揮できなければ意味がないという意見があるのも重々承知だ。それでも、早大が史上初めてのことをやってのけた事実に変わりはない。

早大の凄さ・2)日本選手権に最多10人を送り出している

 もう1つ、特筆すべきは、トラックの日本最高峰の舞台である日本選手権に中長距離種目で出場実績のある選手が多いことだ。

 今年度は、10000mに井川、1500mに石塚陽士(1年)、5000mに千明龍之佑(4年)、伊藤大志(1年)、3000m障害に菖蒲敦司(2年)、諸冨湧(2年)と6人が、日本一を決める舞台に立った。そして、千明は8位入賞と健闘を見せている。

 過去に遡ると現役選手では、2020年は、10000mに中谷と太田、5000mに小指卓也(現3年)が出場。2018年は1500mに半澤黎斗(現4年)が出場している。

 今季在籍している選手だけで、なんと10人にも上る。これは、駅伝だけでなく、個を重視する早大ならではの成果と言っていい。箱根の結果には直結しなくても、十分に評価に値する実績だろう。

4区石塚 ©️Yuki Suenaga

学生にとって「日本選手権出場」が難しい理由

 日本選手権に出場するには、参加標準記録を有効期間内にクリアしなければならない。さらに、2021年からは各種目に出場枠の目安が設けられている(「ターゲットナンバー制」という)。そのスタートラインに立つことでさえ、なかなかハードルが高いことなのだ。特に、長距離種目は、実業団で競技を続けている選手も多いため、大学生が出場するのは決して簡単なことではない。

 ちなみに、今年度の日本選手権の出場人数で、早大に次いで多かったのは、明治大、東海大、立教大で、3人ずつだった。

 早稲田は、2017年のように長距離ブロックから日本選手権出場者を輩出できなかった年もあった。改めて個の育成に力を注いできたことが、成果となって現れた。

 ポイント練習(負荷の高い重要な練習)の日に所沢のグラウンドを訪れると、選手たちはいくつものグループに分かれて、それぞれのメニューをこなしている。ストップウォッチを何個も手にして、タイムを読み上げるマネジャーには大変な労働になるが、それほど個を重視して指導に当たっていることの現れでもある。

トラックと駅伝とは別物

 今季のトラックシーズンは、日本選手権だけでなく、前半戦の大きな目標である関東インカレでも早大勢の活躍は目立った。1500m、5000m、10000m、3000m障害、ハーフマラソンの中長距離5種目全てで入賞者を出し、そのうち、3種目は複数入賞だったのだ。

「うちは、トラックはトラックでしっかり結果を残し、シーズン後半は駅伝っていう感じに切り替えてやっていくチームです」

 中谷は、早大というチームの特徴についてこう説明する。

 長距離部員数30人前後と少数ながら、それを補える戦力を有していた。それなのに、駅伝で苦戦したのは、やはりトラックと駅伝とは別物ということだ。また、中谷の言う“切り替え”の部分、つまりトラックから駅伝へのシフトチェンジがうまくいかなかったからだろう。

 出雲は、全員が日本選手権経験者というオーダーだったが、仙骨を疲労骨折した千明を欠いたのは痛手だった。全日本でも引き続き千明は欠場、加えて太田も左膝に不安を抱え欠場した。そして、全日本の後には菖蒲が大腿骨を疲労骨折し、箱根に間に合わなかった。

 選手の足並みがなかなか揃わず、出雲、全日本、箱根と、ベストメンバーを組むことができなかったことは、大きな課題として残った。

出雲駅伝、全日本には間に合わなかったがなんとか箱根駅伝に間に合わせ、8区を走った千明©Yuki Suenaga

大学陸上界の評価軸は決して1つだけではない

 それでも、箱根至上主義的な風潮の一端をそれを報道する立場にある我々が担っていることは自覚しているが、少し視点を変えて、早稲田というチームを見てみてもいいのではないだろうか。

 “点”で見れば――つまり、箱根の結果だけを見れば「今年の早稲田は弱かった」という烙印を押されても仕方ないかもしれない。だが、1年間を通してみれば、決して「弱かった」と言い切れない実績を残してきたのも事実なのだ。評価軸は決して1つだけではないはずだ。

文=和田悟志

photograph by Nanae Suzuki