松山英樹が新年2戦目のソニー・オープンを制し、米ツアー通算8勝目を挙げた。

 サドンデス・プレーオフ1ホール目で米国のラッセル・ヘンリーを下した松山の勝利は、2位以下を大差で引き離す圧勝ではなかったが、「見事」の一言に尽きる圧巻の勝ち方だった。

 そして、目前だった大会2勝目を松山に逆転で奪われたヘンリーの負け方は、もちろん惨敗ではなかったが、完敗だった。ハワイのワイアラエCCで繰り広げられたサンデー・アフタヌーンの2人の戦いは、そんな優勝争いだった。

アジア勢最多タイに並ぶ米ツアー8勝目を挙げた松山英樹 ©︎Getty Images

勝利への勢いが漲ったドライバーショット

 最終日を首位で迎えたのはヘンリーで、松山は2打差の2位でティオフ。そして、一気にチャージをかけたのはヘンリーだった。

 6番から3連続バーディ、9番ではイーグルを奪ったヘンリーは、通算24アンダーとスコアを伸ばし、一方の松山は通算19アンダーで後半へ折り返した。ハーフターンで5打差が付いていた展開を見たとき、松山の優勝を想像した人は多くはなかったかもしれない。しかし、本当の勝負は、むしろ、そこから先だった。

 10番のバーディーで差を4打に縮めると、11番は松山バーディー、ヘンリーがボギーで一気に2打差へ縮まった。松山の15番のバーディーで2人は1打差へ。

 そして72ホール目。松山は左サイドに立ち並ぶ背の高いパームツリーをぎりぎり交わすアグレッシブなドライバーショットでフェアウエイを捉えた。あのショットには勝利への勢いが漲っていた。

 しかし、まだ追いかける身でありながら、そのとき松山は明るい笑みを覗かせた。そこに彼の心の余裕が感じられ、その笑顔は彼の勝利を予感させた。

 技術で攻めながら、自分のゴルフを失わないよう心で態勢を固めていた松山。そんな「攻」と「守」の絶妙なコンビネーションは、あまりにも見事だった。

 一方、ヘンリーのティショットは右サイドのフェアウエイバンカーにつかまった。2オンした松山がバーディーパットを沈めると、3打目でピン2メートルを捉えたヘンリーはバーディーパットを沈められず、サドンデス・プレーオフへ突入。

激闘を終えて、互いの健闘を称え合う松山とヘンリー ©︎Getty Images

 ヘンリーの心の乱れが彼のゴルフを乱したことは誰の目にも明らかで、逆に言えば、ヘンリーを揺さぶりながら堂々バーディーを奪い、最後の最後に追いついた松山の追撃は誰の目から見ても素晴らしかった。

 プレーオフ1ホール目の18番は、そんな72ホール目の再現のごとく、ヘンリーは再びバンカーにつかまり、それを見た松山はドライバーをフェアウエイウッドに持ち替え、フェアウエイからピン85センチに付け、大観衆を沸かせた。

 もはや勝負あったという状況。フェアウエイに出した後の第3打をグリーンオーバーさせたヘンリーは、ボギーを喫して破れた。松山は難なくイーグルパットを沈め、勝利した。

 松山、圧巻の勝利。ヘンリー、完敗。そんな優勝争いは、見ごたえがあった。

「ミスした」パットがカップに吸い込まれる

 試合に出る以上は、誰もが優勝を目指すことは言うまでもない。しかし、今週の松山が最初から一目散にガツガツと勝利を狙っていっていたのかと言えば、そういうわけではなかった。

 2日目にアマチュアの中島啓太に5位タイで並ばれたが、3日目は緊張で後退した中島を尻目に、日本のエース松山は一気に2位へ浮上。猛チャージを可能ならしめたものは、松山自身が「不思議な感じ」と表現したパットだった。

 打てばカップに吸い込まれ、「ミスした」と思ったパットも、どうしてだかカップに沈んでくれた。

 米ツアーの統計に目をやれば、昨季の松山のSGP(ストローク・ゲインド・パット)は175位と振るわず、今季の先週までのランキングはさらに下がって205位だった。

 しかし今週は3日目までで出場選手内の2位に付けていた。

15番でバーディーを奪い、ガッツポーズをする松山英樹 ©︎Getty Images

「パット・イズ・マネー」と言われる通り、次々にカップに沈んだ彼のパットが、彼を2位へ、優勝へと引き上げてくれたことは、数字が示す通りだ。

 それならば、なぜ今週の松山のパットは、それほど冴えたのか。

 その答えは、松山自身が「不思議」と言うぐらいだから、誰にもわかるはずはない。しかし、積み重ねてきた練習の成果や努力の賜物は、あるとき、何かの形になって表れるものであり、表れるきっかけになるものは、往々にしてメンタル面にある。

 幼いころから夢見てきたマスターズで勝ち、日本のファンの目の前でZOZOチャンピオンシップに勝った昨年は、それまで表情を強張らせながら孤軍奮闘していた松山が、周囲の力を肌で感じ取った1年だった。

 どこまでも心技体を磨き、最高の状態に極限まで近づかなければ勝利はないと常々言っていた松山が、たとえゴルフが不調でも、たとえ何かが足りないと感じていても、チームやファンの支えがあれば、それがエクストラのパワーになることを痛感した1年だった。

「日本のみなさんの応援のおかげで勝つことができた」

 ZOZOチャンピオンシップでそう語った松山が、それまで以上に大きく見えたことが、今、再び鮮明に思い出される。

 今週のソニー・オープンでは、ハワイ在住の日本人や日系人のギャラリーも多く、その応援は大きな力になったのではないだろうか。

 そして、金谷拓実や中島といった日本の後輩たちの手本となって彼らをリードしていく責任や自覚、あるいは、メジャーチャンプである松山でさえ感じるであろう彼らに負けるものかという対抗心が、松山のさらなるパワーになっていたのではないだろうか。

 もっと言えば、1983年の青木功によるハワイアン・オープン優勝以来、丸山茂樹や今田竜二、そして松山へ、小平智へと引き継がれてきた日本人による米ツアー優勝の歴史も、松山のバックボーンとなって彼を支えてきたのではないだろうか。

41位で大会を終えた21歳の中島啓太(日体大)と握手。後輩たちの存在も松山を加速させたかもしれない ©︎Getty Images

 すべてが重なり合って実った圧巻の逆転勝利。松山の米ツアー8勝目は、そんな優勝だった。

文=舩越園子

photograph by Getty Images