御嶽海、優勝&大関昇進おめでとう……と手放しでお祝いしたいところだけど、昇進は、僕はもうひと場所見てからでもいいと思っていたんだよね。場所前には大関取りの話題もムードもなくてあやふやだったのに、終わってみたらいきなり昇進って、僕は「え?」と驚いたんだよ。思えば貴景勝は新大関の場所で休場して負け越し、正代も初優勝して大関に昇進したものの、翌場所は負け越し。昨今の新大関昇進直後の成績は、安定してないんだよね。昇進目安の数字をクリアしても、もう少し様子を見て、逆に昇進のハードルを高くしたほうがよいくらいだよ。そこは甘やかしてはいけないと思うんだ。焦って昇進させても、カド番を繰り返すばかりの今の大関たちと同じことにならないか? 結果、昇進後の本人たちが苦労することになってしまうんだもの。

両国国技館で優勝を見届けた関脇御嶽海の母、大道マルガリータさん(左) ©KYODO 写真は御嶽海が2018年7月場所で初優勝したとき。御嶽海は2019年9月場所に続き3度目の優勝を果たした ©JMPA

「阿炎は“いい顔”になったね」

 12勝して最後まで優勝争いをした阿炎、変わったねぇ。謹慎処分以前はニコニコヘラヘラしてたけど、真面目になって“いい顔”している。スイッチが入っている感じだな。もし照ノ富士と御嶽海との優勝決定巴戦になっていたら、きっと阿炎が優勝していたと思う。これからもっと自信を持って行けば、初優勝も近いよ。でも、相撲にはまだ雑なところがあるんだ。“我慢”が大事なのね。焦らないで、要所要所で我慢するんだよ。相手に押されないように我慢して、そこでこっちが押し返す。背もあって上から下に押しているから、どうしても膝が高くなってしまうところがある。意識して下から上に押さなきゃ。13日目の御嶽海戦は、下から押していれば勝っていた相撲だった。去年の九州場所での横綱照ノ富士戦も、あと一歩のところで惜しかったけれど、ボクシングの“ワン・ツー・スリー”“ジャブ・ストレート・フック”のようにコンビネーションで押すといいんだ。「上・上・下」というように、右、左と上半身を押したあとは下――腹の近くを押すのね。上ばっかり突き押しするから、自分の膝も伸びていっちゃうんだよ。あと、立ち合いをもっと磨いた方がいい。立ち合いから相手を持って行っての「上・上・下」コンビネーションね。そうすれば怖いものナシだよ。これから先が本当に楽しみなお相撲さんになってくれたよな。

「貴景勝はやっぱり稽古不足なんだよ」

 4日目から休場してしまった大関貴景勝だけど、ケガが多いってことはやっぱり稽古不足なんだよ。

 あの丸く太った小さい体での押し相撲だから、スタミナ切れでケガにつながってしまうんだ。それと、頭と体がひとつになっていないんだよな。もうひたすら“当たって押す、当たって押す”を繰り返す稽古しかない。稽古している人は頭で何も考えなくとも、体が覚えて勝手に動く。そうなるくらいの稽古をしなきゃいけないんだ。相撲だけじゃなくて他のスポーツもそう。体に覚え込ませるために、毎日、地味な稽古や練習をするものだよね。相撲部屋って丸い土俵が1個、テッポウ柱が1本しかないでしょ? “やりたい人だけがやる”のが相撲の稽古なの。やりたくない人は、やらないままでもいられるんだ。壁際でぺたんぺたんと四股だけ踏んでたって別にいいんだもの。今では土俵がふたつ、テッポウ柱が3本ある珍しい部屋もあったりするけど、やっぱりひとつしかない土俵やテッポウ柱をめぐって、われ先にと奪い合うように、「俺がやる!」と食らいつく熱意が大事。だから、相撲部屋にはぜんぶ1個だけしかないんだぞ? もし大関として悩んでいるなら尚更、毎日の稽古への向き合い方を今一度考えてみるといいかもな。

「正代はなぁ…。ため息ばかり出ちゃうよ」

 正代はなぁ……。まったく稽古してないような動きだよね。どこかが悪いとも感じられない。6勝9敗って平幕の成績だよね。本人も落ち込んでいるとは思うけれどね。上体を反ってしまうクセを直せとずっと言われていても、そのスタイルで大関までになった訳だし、もうここまで来たら直すのも無理だよね。何か手立てはあるのか? 今後を思うと、ため息ばかり出ちゃうよ……。

 今場所は若手の琴ノ若がよかった! 優勝争いに最後まで食い込んで、千秋楽の阿炎戦はとことん粘ってすごくいい相撲だった。琴ノ若の何がいいかって、攻める時も“相撲のスケールが大きい”ところ。14日目の関脇隆の勝戦では、上手投げで放り出していた。隆の勝のあだ名は「おにぎりクン」なんだけど、手に持ったおにぎりをポイッと捨てちゃった感じでね(笑)。もっと背中と膝を丸くして曲げて行けば、絶対に押されないよ。僕が教えてあげたいけれど、あ、パパ(実父・佐渡ヶ嶽親方)がいるもんな。これからすごく楽しみで、期待できるお相撲さんなんだよね。

 今場所は最後まで優勝の行方がわからなくて、とても面白い場所になったと思う。 上位陣が勝つのは当たり前だけど、阿炎と琴ノ若のふたりが、さらに盛り上げてくれたよ。

 早くも来場所が楽しみだなぁ。次は3月の大阪場所でお会いしましょう!

(構成=佐藤祥子)

文=武蔵川光偉

photograph by Sankei Shimbun