今シーズンから日本ハムを率いる新庄剛志監督。球団OBで野球評論家の西崎幸広氏は、ここまでの戦いをどう見るのか? 後編では清宮幸太郎の成長と課題、そしてBIGBOSSの采配が球界に与えた影響を語ってもらった。(全2回の後編/前編へ)

西崎氏が最も気になる野手は誰?

――野手でも積極的な若手の起用が目立ちますが、気になる選手は誰ですか?

西崎 プロ4年目の外野手、万波中正ですね。もともと運動能力が高いし、打率は2割ちょっと(.216)ですが、長打力があって、ピッチャーからすれば嫌な存在です。6月20日時点でチームトップタイの10本塁打を放っています。守備面では肩も強い。

 たしかに、バッティングで粗さが目立ちますが、それは経験が足りないから。一軍でたくさん試合に出て、いろいろなピッチャーと対戦することで解消される課題だと思います。

――新庄監督は「万波君は一流メジャーリーガーと同じ打球を打つ」と評価しています。

西崎 代打ではなく、先発で使ってほしい。最終的に、打率.250、30本塁打を打てれば合格でしょう。万波のバッティングは独特で、手元に引きつけてからパチンと打つ。新庄監督のさまざまなアドバイスが効いていると思います。陽気な選手なので、彼が打てばチームは勢いに乗りますよ。

 他球団にも、打率は低いけど長打のある選手がいますが、ピッチャーからすればそういうバッターが嫌なんです。失投するのが怖くてどうしても慎重になるから。もしピンチの場面で打たれたら、「やられた!」というイメージがずっと残ってしまう。

松本剛の覚醒…「俺、見る目があったな」と(笑)

――プロ11年目、28歳の松本剛が開幕からヒットを量産し、いまも高打率をキープしています(.350)。

西崎 もともと彼も、ものすごく能力の高い選手です。これまであまり出番に恵まれず(2021年は47試合出場)、「どうして使われないんだろう。もったいないな」と思っていました。内野も外野も守れるし、足も速い。今回、開幕からコンスタントに起用してもらったことで、一気に爆発した感じですね。新庄監督によって化けたひとりだと言っていいでしょう。彼が活躍したことで「俺、見る目があったな」と思っています(笑)。

(奥左から)松本剛、淺間大基、万波中正、手前は杉谷 ©KYODO

――一番を打ったり、四番に座ったりと、試合によって役割が違いますが、やりにくさはないのでしょうか?

西崎 打順はそれほど問題ないと思うんですが、大変なのは守備位置が一定じゃないこと。昨日はセカンドだったけど、今日はセンターというのはやりにくいと思います。球場や天候によって打球の切れ方も違いますし。ショートも固定できていないので、守備に対して神経を遣うことが多いんじゃないでしょうか? いろいろなことを試すのはいいのですが、そろそろ守備位置は固定してあげないと選手は大変だと思います。

――ピッチャーにとって、対戦するたびに打順が変わることはどんな影響がありますか?

西崎 僕の場合は、試合前に打順でのシミュレーションはしていませんでした。核になるバッターをどう打ち取るかを考えて、たとえば、「清宮幸太郎ならこう攻める、松本ならこうしよう」と、軸になる選手の対策を中心に考えていました。試合前にオーダーを見て、それを組み合わせるようにしていました。

日ハム打線の核は誰か?

――もし、いまのファイターズと対戦するなら、誰をマークしますか?

西崎 松本とプロ4年目の野村佑希ですね。たとえば、松本が一番打者で野村が五番で離れていたら対応が楽なんですよ。だけど、もしふたりの打順が近かったら厄介ですね。読売ジャイアンツの坂本勇人が復帰して岡本和真のあとを打ちましたが、ああいうのがいちばん嫌。ホームランバッターの岡本のあとに粘り強くて長打もある坂本が続くと、どうやって打ち取っていいか困るんです。ホームランバッターが続くのはそんなに嫌じゃないんですけどね。

――そのあたりのピッチャー心理を新庄監督は理解しているんでしょうか?

西崎 ピッチャー出身じゃないので、本当の意味ではわかっていないでしょうね。でも、そのためにピッチングコーチがいるわけですから、しっかり話をすればその問題は解消できるはずです。

――西崎さんが野村をマークする理由は?

西崎 もともと打力があり、故障さえなければ3割の打率を残すことができると思っています。ホームランバッターではないけど、欠点が少ない。彼を三番にして、ホームランを打てる大砲をそのあとに置きたいですね。

清宮幸太郎に見た「成長」と「課題」

――四番打者として期待されるのは、プロ5年目の清宮です。ここまで7本のホームランを放っていますが。

西崎 たしかにホームランを打ってはいますが、穴の多いバッターなので、ピッチャーからすれば失投さえなければ打ち取るのは難しくない。彼には、七番くらいでガツンといってほしい。クリーンナップを打ち取ったあとにピンチで清宮を打席に迎えたら、「ここで清宮が出てくるのかよ」と嫌な気持ちになるはずです。

 彼のホームランシーンを見ると、手元までしっかり呼びこんで、パチンと軽く打ってますよね。そのあたりに成長が見えます。ボールを見極められるようになりました。ダイエット効果があったのかどうかはわかりません(笑)。

©BUNGEISHUNJU

――その清宮に対して、5月は新庄監督の厳しいコメントが続きました。「一軍に残りたいという姿勢がまったく見えない。バットを出さない限り、一生結果は出ない」。5月25日のヤクルト戦でダブルスチールを失敗したときには「あんなミスをしていたら、一生、上に上がっていけないよ」と言われました。

西崎 ヤクルト戦では、中途半端な走塁をしたから監督が怒ったんでしょうね。「何やってんだ! 判断ミスだろ」と思ったはずですよ。特に守備と走塁にはこだわりが強いから。打撃以外でもまだまだ課題がありますね。

――新庄監督の采配についてはいかがでしょうか?

西崎 もっと斬新なことを仕掛けてくるかと思ったんですが、セオリー通りにやっていますね。「やるぞ、やるぞ」と見せかけておいて、定石通りに攻めるというのも、ひとつのやり方ですから。以前話を聞いたときには「何を考えてるかわからないのが俺でしょ」と言っていましたので、後半戦は驚くことをしてくれるかもしれません。「何をするのかわからない」のが新庄監督の最大の魅力です。

 一方で、新庄監督のやり方が他球団にも影響を与えているんじゃないかと感じることがあります。

日本球界に広がる「新庄効果」

――たとえば、どういうことでしょうか?

西崎 これまで日本のプロ野球ではメンバーや打順を固定して戦うことを「よし」とする風潮がありましたが、埼玉西武ライオンズも福岡ソフトバンクホークスも、どんどん打順を入れ替えていますよね。まだ実績のない若手をいきなり先発で使ったり。これは「新庄効果」なんじゃないかと思います。育成枠で入団した高卒ルーキーの滝澤夏央(西武)がスタメン出場して活躍し、話題になりましたね。

――北海道のファンはどう見ているんでしょうか?

西崎 期待したほどの集客はまだ見込めていないようです。北海道のファンは、チームが強くなければ見にきてくれませんから、今後の成績次第ということでしょうね。

 打線では松本、野村が軸になってきていますし、ローテーションも固まりつつある。毎試合スタメンに名を連ねる選手が4人くらい増えれば、成績が上がってくるかもしれません。前半戦を終えて、新庄監督なりに戦力を見定めて、どんなスタメンを組むのか、試合ごとにメンバーを変えるやり方を続けるのか、ローテーション、抑えをどう組み替えるかに注目しています。
<前編から続く>

文=元永知宏

photograph by Sankei Shimbun