カタールW杯を前にして、いよいよサッカー熱が高まってきたな、と感じる機会が増えてきた。ブラジル戦を筆頭にした6月シリーズを経て、ベスト8を目指す日本代表はどう戦うべきか……と、久々に会ったフットサル仲間と盛り上がれる機会が戻ってきたことが嬉しい。

「もちろん森保ジャパンも応援するけど、ブラジル戦見てやっぱネイマールとか見るとテンション上がるわ〜」

「あれそういやネイマール、また日本来るんじゃなかった?」

 そう、パリ・サンジェルマン(PSG)の日本ツアーである。

メッシ、ネイマール、ムバッペ、ナバスも来日へ

 コロナ禍になって以降、各国メガクラブの「アジアツアー」はお目にかかれなくなっていた。それが2022年夏、PSGによる日本ツアーで“復活”という運びになったのだ。

 7月20日に国立で川崎フロンターレ、23日に埼スタで浦和レッズ、25日にパナスタでガンバ大阪と戦う(東京と大阪で公開トレーニングもされる予定)が……あらためて見ても、各ポジションに豪華絢爛なメンバーがそろう。

メッシ、ネイマール、ムバッペの競演が見られるかもしれない ©Getty Images

 ネイマールはもちろんムバッペとメッシの「MMNトリオ」、中盤にはワイナルドゥム、最終ラインにはマルキーニョスに重鎮セルヒオ・ラモス。さらには日本代表が戦うE組に入ったコスタリカの絶対的守護神ケイロル・ナバスもいて、そのナバスもイタリアのドンナルンマと激しい正GK争いをしているのだから、圧倒的な選手層である。

 チームを率いるのは屈指の戦術家であるマウリシオ・ポチェッティーノ。ピッチ内からテクニカルエリアまで見どころ満載なメガクラブの来日ということで、話題になった「1000万円NFTチケット」の購入者が出たともいう。

 サッカーファンでなくても見逃せなそうな1週間を前に、PSGのマネージングディレクターを務めるセバスチャン・ヴァゼル氏に単独でインタビューできる機会をもらった。

インタビューに応じてくれたセバスチャン氏 ©Yuki Suenaga

 2011年、カタール・スポーツ・インベストメント(QSI)に買収されて以降、その豊富な資金力をベースとして急激にパワーをつけてきたクラブについて、色々な角度で聞いてみた。

「日本は重要なマーケット」とPSGが語るワケ

 まずは昨季の戦いと日本ツアーへのモチベーションを問うと、セバスチャン氏はこのように話す。

「(バルサからの移籍で話題となった)メッシだけでなく、ドンナルンマやセルヒオ・ラモスなど、昨オフは素晴らしい選手が入ってくれて、リクルートメントが非常にうまくいきました。2021-22シーズンは10度目のリーグ優勝を果たして、リーグアンの中でサンテティエンヌと並ぶ最多タイトル数となったこともすごく嬉しいですね。さらに新シーズンは新たな化学反応が発揮されて、もっと活躍してくれるのでは、と思います。

 その中で我々にとって日本は――すごく重要なマーケットとしてとらえています。たくさんのファンがいる中で、これまで我々の選手を実際に生で見てもらう場がなかったので、試合に来てもらって楽しんでもらう機会を作りたいと考えていたのです」

「日本のファンはサッカーに対して洗練されている」

 21世紀に入って日本はフットボールシーンにおいて重要なマーケットであり続けた。2000年代はレアル・マドリー、バルセロナ、マンチェスター・ユナイテッドなどがこぞって日本を訪れていたが、2010年代に入ってからは“数年に一度来てくれるか”レベルになった。しかしPSGは本気で“開拓すべき市場”と考えているようだ。その理由について聞くと、セバスチャン氏は日本のサッカーファンへの印象も含めてこう答えた。

「個人的にTwitterやLINEアカウントをフォローして、毎年のように日本のファンが増えていっているなと実感しています。そういった理由もあって日本にPSGの公式ストアをオープンしたこともありますし、日本にオフィスを設置するなど、この10年で“日本で何ができるか”に取り組んできました。

 その中で日本のファンはサッカーに対してすごく知識があり、洗練されているという印象があります。Jリーグも30年目を迎えるほどの歴史があり、エムボマさんのような海外トッププレーヤーも多く来ているので、リーグ自体も洗練されているのが特徴かなと感じます」

 PSGは2018年にシンガポール、19年に中国でアジアツアーを開催している。中国ツアーの際にはインテル、エスパニョールと欧州各国クラブで対戦している一方で、今回はJクラブとの対戦となる。これについてセバスチャン氏は、PSGのレジェンドでJリーグでプレー経験のあるパトリック・エムボマから知見を得ていたのだという。

エムボマ氏とセバスチャン氏 ©Yuki Suenaga

「エムボマさんからは『Jリーグのクラブは、シーズン中に我々と対戦することになる。そのためチームの状態がいい分だけ、真剣勝負になる。手を抜いたりしないように。気合を入れてプレーしないと……注意が必要だよ』というアドバイスをもらっています(笑)。

 Jリーグチャンピオンである川崎フロンターレ、伝統的に強い浦和とガンバの3クラブは、サポーターも非常に多い。そういったチームと対戦できることは光栄ですし、シーズンの頭にすごくコンペティティブな親善試合をやりたかったので、日本に来るのはとてもいい選択だったと思います」

「アパレルなどでオシャレなPSG」という側面

 Jクラブと日本サッカーへの知見を深めてきたセバスチャン氏にもう1つ聞きたかったのは、PSGというクラブの立ち位置だ。

 PSGはビッグネーム獲得とともに、ファッションなどのカルチャー面での訴求力も見逃せない。有名なところで言えば、「ジョーダンブランド」とのコラボレーションである。

 PSGのサプライヤーを務めているのはナイキだが、21-22シーズンの右胸にはスウッシュマークではなく、ジャンプマンロゴが使用されていた。さらにユニフォームでの採用の前からPSGとジョーダンブランドはアパレルとしてのコラボを続けている。個人的な経験として、20代前半の親戚(サッカーにそこまで興味のない)からLINEで「どうしても手に入れたかったんです」とスニーカーを購入した画像が送られてきたこともあった。

「パリの文化、アート、ファッションを体現するクラブ」

 サッカークラブでありながら、サッカー以外の面でもアプローチしていく。近年に入ってサッカーにとどまらずスポーツ全般での「若者のスポーツ観戦離れ」が指摘されているが、その辺りのブランディングをPSGはどう考えているのか。セバスチャン氏は「我々がクールかどうか、と自分たちで言うのは難しいですが……そう思っていただけるようならすごくありがたいですね」と感謝しつつ、このように話している。

「我々はパリで唯一のクラブです。それもあってロゴにエッフェル塔が入っていたりしますよね。そういった意味ではパリの文化やアート、ファッションなどを体現するクラブでありたいと思っています。パリ自体も“PSGを通して日本の方に知ってもらいたい”という戦略を持っていて、ファッションブランド、ライフスタイルブランドとのコラボレーションに力を入れています。

 ジョーダンブランドもその1つで、これをきっかけに『PSGってオシャレなクラブだな』と思ってくださる方が増えたのは確かだと思います。スタジアムにもリアーナ、レオナルド・ディカプリオ、マイケル・ジョーダンというセレブも数多く来てくださった。そういった影響力のある方々が発信することで、世界中に広まっていくという現象が起こっているかなと感じます。

2015年、ワインを片手に観戦するリアーナ ©Getty Images 2018年のCLリバプール戦にはディカプリオ、ミック・ジャガーらが現地観戦に訪れた ©Getty Images

 我々は新しいジェネレーションのファンを拡大するにあたって、ソーシャルを通じてサッカーを見る人は増えていると感じています。そういった意味でライフスタイルやeスポーツでのブランディングにも力を入れているのです」

PSGの選手たちに体験してほしい日本文化は……

 セバスチャン氏の話を聞いていると、カルチャーや新たなスポーツ観戦の側面としても、アフターコロナ1発目のメガクラブ来日がPSGとなるのは――意義深いことなのかもしれない。

「私は、すでに数回日本を訪れたことがありますが、前回の訪問からしばらく経っています。しかし、毎回、行くたびにいつも素晴らしい経験をさせて頂いています。今回も、きっと地元のファンと交流できる素晴らしい機会となるものとワクワクしています」

 日本ツアーが決まった際のメッシのコメントだ。6月に日本代表と戦ったブラジルの選手たちが東京観光(居酒屋出没)をしているし、PSGの面々にもぜひ日本を楽しんでほしいところだ。セバスチャン氏もインタビューの締めくくりで、このように話していた。

強く、ファンに近い、クールなクラブ

「まずはやっぱり試合を観てもらって“強いチーム”と思ってもらいたい。2つ目は“ファンに近いクラブ”として、色々な取り組みをしていきたいです。そして最後は“クールなクラブ”。我々はパリを代表して来ますが、それとともに日本文化を体験して、リスペクトしたいと思っています。

 私自身、日本食も好きですし、書道をしたんですよ。すごく難しかったですね……選手に習字のやり方を教えたいですね。『ムバッペ、メッシ、ネイマール選手も習字をする機会があれば嬉しい』ですか? OK、考えておきましょう(笑)」

©Yuki Suenaga

文=茂野聡士

photograph by Getty Images/Yuki Suenaga