国内最高の賞金総額3億円をかけた先週の女子ゴルフ「アース・モンダミンカップ」はプレーとは別の形で大きな話題を集めることになってしまった。

 大会初日、大西葵とプロキャディーの大江順一氏の間に起きたトラブルが“職務放棄”として大々的に報じられたためだ。

 すでにご存じの方も多いだろうが、スポーツ紙などの報道をもとにその概要を振り返ろう。

 きっかけはスタート8ホール目の17番パー4で大西が2打目をシャンクするミスショット。レッドペナルティエリアに打ち込んだ後の処置を巡って2人の意見が対立した。その後、大江キャディーは声を荒らげ、バッグを運ぶなどの職務を放棄。続く18番パー5では大西が涙を浮かべ、なかなかティーショットを打てない。このプレーの後、大西が競技委員にキャディーの交代を申し出、その後はコーチがバッグを担ぐこととなった。

 ただ、現場にいたという関係者は「一部始終を見ていたわけではない」としたうえで「大江キャディーが一方的に悪態をついたような報道がされていますが、私には2人がケンカしているように見えました。ちょっと印象が違いますね」。17番グリーンでは協力してラインを読むこともなくなった。大江キャディーは一瞬でもお互いが冷静になる時間を作ろうとしたのかもしれないが、完全に逆効果。大西の怒りは増幅し、2人の関係は崩壊に向かった。

 日本女子プロゴルフ協会では当事者はもとより、同じ組でプレーしていた選手、キャディーらを聴取し、事実関係を把握したうえで処分などを審議するとしている。大江キャディーは2015年、藤田光里のバッグを担いでいた際にもトラブルを起こし、12日間の職務停止処分を受けた過去がある。

アドバイスはするが、決断は選手

 選手とキャディーの関係はそれほど難しいものなのか。

 今季もトップ選手と組むベテランキャディーの話を聞くと、特に難しさがあるようには思えない。アドバイスはするが、決断は選手がするもの。選手が雇い主でキャディーは雇い人。多くのゴルフファンがイメージする通りの関係が見えてくる。

「選手と意見が対立するとか、口論になるというのがちょっと理解できないんですよね。他のプランもあるよと提案することはあっても、それが採用されなかったからと言ってイラっとする意味が分かりません。選手にとってイメージができる方を選ぶのが一番じゃないですか」

 一部のキャディーのあり得ない行動として選手の決断より前にキャディーバッグからクラブを抜くことを挙げる。

「6番アイアンで打とうと思ったのに、自分が先に7番アイアンを抜いたら、迷うだろうし、イメージも崩れるでしょう。あれをやるキャディーを見ると、何を考えているんだろうって思ってしまいますね」

 反対にティーショットをドライバーで打つことが決まっているホールならスッとクラブを先に抜いておく。キャディーの行動には一つひとつに意味が込められている。

 ただし、これはトップ選手と組んでいるからできること。

「ツアーの上位30〜40人は自分でマネジメントできる選手ばかりですが、ツアーにはキャディーの指示通りに打つという選手もいるのは分かっています」

男女で求めるものが違う!?

 実際にシード選手以外と組むことが多いキャディーに話を聞くと、印象はかなり変わってくる。

「男子では残り距離、風向き、絶対行ってほしくない場所の3つしか言いません。余計なことを言ったら『どこに打つかは俺が決めるから黙ってろ』と怒られますからね。女子で同じようにしたら『どこに打つのか、はっきり言ってくれないと分からない』という反応が返ってくることがあります。男女でキャディーに求めるものが違うんです」

 ここで雇い主である選手がキャディーの指示を待つといういびつな関係が生まれてしまうのだ。

急遽、大西(右)のバッグを担いだ鵜野晃行氏。初日は121位タイと出遅れたが、その後は持ち直し、6オーバーの36位タイで大会を終えた ©Sankei Shimbun

 もちろん、すべての選手とキャディーの関係が崩れるわけではないが、スイングやクラブにまで口を出し、コーチのように振る舞い出すケースもある。

「本当は相性がいいキャディーさん1人にお願いしたいけど、慣れ合いになってしまうのが怖い。3人ぐらいのキャディーさんに交代でお願いするのが娘にもキャディーさんにも緊張感があっていいのかなと思います」とはある選手の父親の言葉だ。女子ツアーではキャディーをローテーションさせる選手が多いのに対し、男子ではほぼ固定されている。その理由がここで見えてくる。

 さらに言えば、キャディー業界は完全な売り手市場だ。毎週、ツアーに姿を見せるキャディーは100〜120人程度。男子ツアーは空き週が多い日程とはいえ、男女ともに試合があれば、出場する選手は合計200人を超える。家族やコーチがキャディーを務めている選手もいるため、全員がプロキャディーを必要としているわけではないが、それでも人数が足りていない。

 3年前に発足した「日本プロキャディー協会」では志望者にセミナーを実施しているが、現時点で「プロキャディーとしてデビューした人は出ていません」(副代表理事を務める清水重憲キャディー)。現在いるプロキャディーは多くが、高校、大学のゴルフ部出身でプロになった先輩や同級生に誘われて、というパターン。1年、2年とキャディーを続けているうちに他の選手からも声がかかるようになる。最初のコネがなければ、参入が難しいため、人数が増えていかないのだ。

 プロキャディーを起用できない場合はゴルフ場所属のハウスキャディーと組むことになるのだが、近年はセルフプレーが圧倒的に増えているため、多くのコースでその人数は限られている。

「選手には事前にハウスキャディーが少ないのでなるべく帯同キャディーを連れてきてほしいというお願いが出ることもあります」(別のツアー関係者)

大学生がキャディーを託される場合も?

 ハウスも足りない場合にはアルバイトの学生がキャディーを務める。

「近隣の大学のゴルフ部員というケースがほとんどですが、それでも人手が足りなければゴルフを全く知らない学生がバッグを担ぐこともあります。その可能性があることが通達された試合では選手はなんとしても帯同キャディーを探すことになります」(同関係者)

 結果的に周囲から見れば、キャディーとしての資質に疑問符が付くような人物にも仕事が回ってくるのだという。

 件のベテランキャディーは今回の騒動を受けて、周囲とは全く違った感想を口にした。

「今、キャディーが集まっているところに行ったら『大江は前からヤバかった』とか、そんな噂話をしている連中ばっかりです。そんな中に入りたくないので自分は行きません。詳細は分かりませんけど、反面教師にして自分の行いを見直すべき時なんじゃないですかね」

 次にトラブルを起こしかねない予備軍がゼロではない。そんな不安をどこかに感じているのだろう。

 続けてマスコミにも苦言を呈す。

「キャディーを“優勝請負人”なんて扱うのは本当にやめてほしいです。少しでも確率が上がるように努力はしますが、優勝するのは選手であって、誰がキャディーをしたから勝ったなんてことは絶対にありません。自分も似たような書かれ方をした経験があって、本当に嫌だったし、選手に申し訳ない、失礼ですよ」

 優勝請負人とはかつて大江氏につけられた異名。彼が、いやプロキャディー全員がこんな謙虚な気持ちで選手のサポートに徹していたならトラブルの火種になるようなことすらなかったのかもしれない。

文=田中宏治

photograph by Sankei Shimbun