スポルティング移籍が決まった守田英正。ポルトガルの名門の内情についての新着記事と、昨季サンタクララでの守田の奮闘ぶりを追った雑誌記事を無料公開します(全2回/#2も)

 心躍るような打楽器の音色。暗い画面にクラブカラーであるライトグリーンの照明を左側から当てられ、精悍な顔が少しずつ浮き彫りになる。

 緑地に白の横線が入ったユニフォームをまとった男の右手が、左胸のクラブのエンブレムを指し示す。そこには、雄々しく立ち上がる黄金のライオンの絵柄の上に「スポルティング」、下に「ポルトガル」の文字が……。

 ここで初めて、男の顔がくっきりと映し出される。

 クラブの巨大なエンブレムの前で、フレデリコ・バランダス会長と笑顔で握手を交わす。

「私の名前は守田英正です。私はライオンです」

 こう日本語で自己紹介し、両手で力強いガッツボーズを作る(ライオンはクラブの象徴だ)。

 ユニフォーム姿でボールを跳ね上げ、二度、三度と右肩で突く。

 そして、「ヒデマサ・モリタは、ライオンだ」、「2026年まで」というポルトガル語が現われ、最後にクラブのエンブレムが大写しになる……。

 これが、クラブの公式ツイッターが配信した動画である。

「キャリアで最大の挑戦になる」

 公式サイトでは、「ポルトガルへ来てからずっと、ここでプレーしたいと思っていた。とても幸せです」、「私の夢は、欧州チャンピオンズリーグ(CL)でプレーすること。自分のキャリアで最大の挑戦となる」などの言葉が紹介された。

公式ホームページではポルトガル語、英語で守田加入のレポートが掲載されている

 創立から116年の節目を迎えた7月1日、ポルトガルの名門スポルティングが日本代表MF守田英正の入団を発表した。

 スポルティングは、ベンフィカ、ポルトと並ぶポルトガルの3大クラブだ。1906年、首都リスボンの上流階級によって総合スポーツクラブとして創設され、リーグ優勝19回はベンフィカの37回、ポルトの30回に次ぐ。欧州では、1963-64シーズンにカップ・ウィナーズ・カップを制覇している。

 本拠地「ジョゼ・アルバラデ」は流線型の屋根を持つ壮麗なスタジアムで、収容人員5万人を誇る。

クリロナを育成したクラブとしても知られる

 世界フットボール史上最高のストライカーの一人であるクリスティアーノ・ロナウド(現マンチェスター・ユナイテッド)を育成したクラブとしても知られる。

 ロナウドは大西洋に浮かぶマデイラ島で生まれ育ち、12歳でスポルティングのアカデミーの入団テストに合格してリスボンへ移住。2002年、17歳でトップチームに昇格すると、国内リーグとカップ戦を合わせて30試合に出場して5得点をあげた。そして翌年、マンチェスター・ユナイテッドへ移籍している。

スポルティング所属時のC・ロナウドとクアレスマ ©Getty Images

 他にも元ポルトガル代表FWのリカルド・クアレスマ(現ビトリア=ポルトガル)、ナニ(現ベネツィア)ら名選手を輩出。元日本代表FW田中順也(現FC岐阜)も2014年から16年まで在籍し、35試合に出場して7得点をあげた。

21-22シーズンはCLでベスト16に入った

 2020-21シーズンの国内リーグ覇者。昨季は欧州CLに出場してベスト16入り。ただし、ラウンド16ではマンチェスター・シティの前に1分1敗(合計スコアは0−5)と力の差を見せつけられた。国内リーグでは2位で、守田が言及したように、今季も欧州CLに出場する。

 ポルトガルリーグは欧州5大リーグ(イングランド、スペイン、ドイツ、フランス、イタリア)のすぐ下のレベルにあり、スポルティングは国内ではトップクラスだが欧州ではトップの少し下という位置づけだ。

 守田のスポルティングとの契約期間は4年で、違約金は4500万ユーロ(約63億4000万円)。移籍金は380万ユーロ(約5億4000万円)と報じられている。

日本代表でもポルトガルでも盤石のレギュラーに

 守田は、大阪府高槻市生まれの27歳。対人守備が強く、技術レベルも高い。精巧なパスを繰り出して攻撃の起点となり、機を見てゴール前へ飛び出して自らもゴールを狙うモダンなボランチだ。

流通経済大学時代©AFLO

 流通経済大4年のときに川崎フロンターレの特別指定選手となり、大学卒業後の2018年、川崎Fに入団。ほどなくレギュラーとなり、この年のリーグ優勝に貢献した。2020年にもリーグ制覇を成し遂げ、ベスト11に選ばれた。 

 2021年1月、大西洋に浮かぶアソーレス諸島に本拠を置くポルトガル1部サンタクララへ移籍。月末のリーグ戦に先発し、いきなりゴールを決めてチームを勝利に導いた。そして、この試合を含めてリーグ戦20試合すべてにフル出場し、2得点3アシストを記録した。 

 日本代表には、2018年9月に初招集。2022年W杯アジア2次予選にも出場したが、当初は控えだった。

 しかし2021年10月、1勝2敗の危機的状況で迎えたアジア最終予選第4節オーストラリア戦で先発して遠藤航(シュツットガルト)、田中碧(デュッセルドルフ)と共に中盤を構成。攻守両面で持ち味を発揮し、日本代表のアジア最終予選における苦しい流れを一変させる勝利に貢献した。以来、絶対的なレギュラーとなっている。

 昨季はクラブでも中心選手で、38試合に出場して2得点1アシスト。トルコ、イングランドなどのクラブが興味を示した後、今年3月、スポルティングから正式オファーを受けた。

サンタクララが守田に“処罰”を下したワケ

 ところが、その後、サンタクララと守田の間で多少の混乱があった。役員の一部が移籍金吊り上げを狙ってスポルティングが提示した条件を拒絶。移籍を望む守田が地元紙へのインタビューでクラブ側の対応に不満を漏らしたことから、以後の3試合で先発を外される“処罰”を科せられた。

 5月、地元各紙が「守田の移籍でサンタクララとスポルティングが合意」と報道。しかし、スポルティングが2021-22シーズンの会計年度終了後の移籍を望んだことから、正式発表が7月1日までずれ込んだ。

 守田は6月の日本代表の強化試合4連戦に招集されたが、練習中に左ふくらはぎを痛めてチームを離脱。しかし、現在はすでに完治しており、7月2日からスポルティングのチーム練習に参加している。

スポルティングとのマッチアップ©GettyImages

 チームを率いるルベン・アモリムは、37歳の青年監督だ。現役時代はMFで、ベレネンセス、ベンフィカなどで活躍し、ポルトガル代表にも選ばれて2014年W杯に出場している。

 2017年、32歳で現役を引退すると、2018年に指導者の道へ。主要フォーメーションは3-4-3で、低い位置からリスクを冒しながらパスをつないで攻め、ボールを失うと高い位置からのプレスですぐに奪回する「ハイプレスとボール・ポゼッションを融合させた独自のスタイル」を編み出した。

 2019年12月からポルトガルの中堅クラブ、ブラガを率いて10勝1分2敗の快進撃を演じると、2020年3月、「シーズン終了を待ったら、熾烈な獲得競争が起きる」と考えたスポルティングが違約金1000万ユーロ(約14億1000万円)を払って迎え入れた。監督を獲得するための違約金としては世界フットボール史上3位だった。

 スポルティング監督就任後のリーグの成績は、4位、優勝、2位。クラブの期待に十分に応えており、欧州レベルでも「若き名将」という評価を受けている。

中島翔哉はポルト移籍後、不遇をかこった

 守田は、大学卒業後、Jリーグで2季、欧州小クラブで2季プレーした後、欧州の名門に到達した。日本人の大卒選手としては理想に近いキャリアと言っていいだろう。

 しかし27歳という年齢は、若年化が進む世界のフットボールにおいては決して若くない。また、過去、欧州の中小クラブで活躍してビッグクラブへのステップアップを果たしながら、高いレベルのレギュラー争いに敗れてキャリアを後退させた日本人選手が何人もいる。

 たとえば、元日本代表FW中島翔哉は2017年、23歳でFC東京からポルトガルの中堅クラブ、ポルティモネンセへ移籍して大ブレイク。日本代表にも選ばれ、19年2月にカタールのアルドゥハイルに移籍したのち、同年7月に名門ポルトへ移籍した。しかし、コロンビア代表FWルイス・ディアス(現リバプール)らとのポジション争いで後手を踏み、監督の戦力構想から外れて期限付き移籍を繰り返している。2019年11月以降、日本代表からも遠ざかっている。

 強豪クラブへの移籍は両刃の剣だ。レギュラー争いに勝ち、多くの試合に出場して活躍すればさらなるステップアップが望めるが、その反対に出場機会を減らすとキャリアを後戻りさせる恐れがある。強豪クラブは、「選手の墓場」となりかねない危険な場所でもあるのだ。

守田にとってライバルとなる選手は誰?

 それでは、今季、スポルティングで守田は誰とポジションを争うのか。

 3-4-3のフォーメーションでは、ボランチは2人。昨季はレギュラーがいずれもポルトガル代表のジョアン・パリーニャ(26)とマテウス・ヌネス(23)で、控えがウルグアイ代表マヌエル・ウガルテ(21)、元ポルトガルU-21代表のダニエル・ブラガンサ(23)、17歳のポルトガルU-19代表ダリオ・エスゴの3人だった。

 このうち、パリーニャは移籍金1700万ポンド(約28億円)でプレミアリーグのフルアムへ移籍した。ヌネスもウォルバーハンプトンからオファーを受けているが、残留へ傾きつつあるようだ。

 ヌネス、ウガルテ、ブラガンザはいずれも守田より若いが、市場価格はそれぞれ3500万ユーロ(約49億4000万円)、1500万ユーロ(約21億2000万円)、700万ユーロ(約9億9000万円)で守田の400万ユーロ(約5億6000万円)を大きく上回る。

 今季、守田が自身のキャリアで最もハイレベルなレギュラー争いを強いられるのは間違いない。本人が言うように、「キャリアにおける最大の挑戦」に他ならない。

 サンタクララでの1シーズン半で、守田は対人守備の強さに磨きがかかり、キープ力が向上し、ゴールへの意識が一層高くなった。

 サンタクララは離島にあるため、アウェーゲームの際は長時間移動を強いられ、肉体的な負担が大きかった。首都リスボンのクラブへ移ったことでシーズン中の移動距離を減らし、肉体への負担を軽減することが可能となる。

 スポルティングほどのクラブで成功を収めることができれば、世界トップクラブはすぐそこだ。彼のさらなる成長とステップアップは、日本代表にとっても非常に大きな意味を持つ。

日本代表でもさらなる成長を見せるか ©Kiichi Matsumoto/JMPA

 新天地での新たな体験、そして自身初のW杯を迎えるであろうこれからの半年が、彼のキャリアと人生にとって最も重要な時期となるのは間違いない。

<#2につづく>

文=沢田啓明

photograph by Sports Graphic Number