筆者は3月27日、東京ドームで巨人−中日戦を見た。開幕3戦目、巨人で注目したのは新外国人のグレゴリー・ポランコだった。パイレーツひと筋の強打者で、打率は低いながらも長打力、足があることで評判だった有名選手だ。

 9回、もう1人の新外国人であるアダム・ウォーカーの名前がコールされた。打席に立ったウォーカーのヘルメットの下からは長いドレッドヘアーがはみ出していた。

「巨人のドレスコードはどうなった?“紳士たれ”はやめたのか?」

 そんな風に思った。この打席は一邪飛に終わり、巨人には実績ある内野手のウィーラーもいる。「お試し期間」が終われば、この選手は二軍に落ちて、そのままおしまいなのではないか? と思ったのだが――。

ポランコとウォーカー ©Nanae Suzuki

ウォーカーは3Aでさえもレギュラーになれなかった

 そもそもウォーカーのキャリアは極めて異例だ。

 2012年大学からドラフト3巡目(全体97位)でツインズに入団。この年は打者の当たり年で、ジョーイ・ギャロ、コーリー・シーガー、マット・オルソン、カルロス・コレアらMLBの中軸打者がたくさん出た。

 しかしウォーカーはなかなか出世できなかった。マイナーのAクラスで27本塁打109打点と長打力を発揮したが、三振が多く荒っぽい打者だった。

2014年のウォーカー ©Getty Images

 2017年からはブレーブス、オリオールズ、レッズ、ナショナルズとチームを渡り歩く。だがAAAでさえもレギュラーになることなく戦力外となり、2018年に米独立リーグ、アメリカン・アソシエーションのカンザスシティ・Tボーンズに移籍した。

 アメリカではMLB傘下にAAA、AA、A+、A、ルーキーと5階層のマイナーリーグがある。2020年に大リストラがあり、多くのリーグ、チームが契約を解除されたがそれでも13リーグ、154ものチームが存在し、選手数は4000人近くになる。

 そしてその外側に、MLB機構に所属しない独立リーグがある。

給料支払いが滞るのも普通な独立リーグでMVP

 アメリカ、カナダに6つのリーグ、80チームが存在する。経営は不安定で、給料の支払いが滞ることもある。ウォーカーが所属したアメリカン・アソシエーションは2020年MLBのパートナーリーグになり、MLB機構からの支援を受けているが、恵まれた環境とは言えない。

 ウォーカーは2019年、同じリーグのミルウォーキー・ミルクメンに移籍。この年から22本、22本、33本と本塁打を量産した。2020年、21年は連続で本塁打王を獲得し、リーグのMVPにも選ばれた。

 とはいっても、米独立リーグのレベルは高くない。

 2021年でいえばウォーカーのチームメイトでMLBでのプレー経験があるのは51人の選手中、野手1人、投手2人。やはり独立リーグは“MLBのピラミッドからはじき出された選手たちのリーグ”となる。

 しかし2020年、MLBは新型コロナ禍対策として、ペナントレースを162試合から60試合に圧縮するとともに傘下のマイナーリーグを「全休」にした。マイナーリーガーの中には独立リーグに流れた選手もいる。そこでスカウトたちも独立リーグに注目した。そんな中でウォーカーの活躍もクローズアップされたわけだ。

2016年のウォーカー ©Getty Images

年俸3400万円は格安だがウォーカーにしてみれば

 NPBに来る新外国人選手の主なルートは、MLB、マイナーリーグ、KBO(韓国プロ野球)、キューバ国内リーグの4つ。独立リーグ経由で来る選手もいるが「元メジャーリーガー」が多い。昭和の時代はともかく、メジャー昇格がなく独立リーグで直前までプレーしていた選手がNPBと育成ではなく、本契約するのは珍しい。しかも毎年のようにMLBの有名選手を獲得する巨人ではなおさらである。

 年俸3400万円は外国人選手としては格安だが、それでもウォーカーにとっては2012年のドラフトで49万ドルの契約金を受け取って以来の大金だった。

 無印に近かったウォーカーだが、4月12日、4回目のスタメンとなった那覇でのDeNA戦で5打数3安打1打点と活躍してから評価が変わった。17日の阪神戦ではガンケルから決勝の3ラン、以後もしり上がりに成績を上げると6月には7本塁打11打点、打率.330をマーク、最近は2番に座って初回から好機をつくることも多くなった。

 問題は外野守備だった。

可愛げのある性格だったから亀井コーチも……

 ジャクソンビル大時代は一塁と外野を兼ねていたが、プロ入団後、いろいろなチームを渡り歩いたウォーカーは、コーチの指導を本格的に受けることがなかった。しかも独立リーグでは野手コーチは1人しかいない。実質的に素人同然でNPBにやってきたのだ。

 巨人のコーチ陣は「守れない」というだけで、失格の烙印を押すこともできたはずだ。

亀井コーチ(右)に見守られながら、送球の練習をするウォーカー ©Sankei Shimbun

 しかし昨年まで現役外野手だった亀井善行コーチは、ウォーカーに飛球の追い方、守備のポジションの取り方から送球までを手取り足取り教えた。ウォーカーが手を差し伸べたくなる素直で可愛げのある性格だったからではないだろうか。

 その甲斐あって、ウォーカーは6月28日の中日戦で2度も本塁で走者を刺した(うち1回はショート経由)。打撃だけでなく、守備でも長足の進歩を見せている。

 同じ巨人の新外国人選手だが、ポランコとウォーカーでは見えている景色が違うはずだ。MLBで823試合に出場したポランコにとって巨人は、自身が経験した中では「上から2番目のリーグのチーム」だ。ロッカールームや様々な設備、待遇についても比較しながらプレーしていることだろう。

 しかしアメリカでは「ハンバーガーリーグ」と言われるAAAしか知らないウォーカーにとって、巨人は「夢のリーグ」のはずだ。独立リーグ時代、お客は入って数千人。3万人もの観客の前で野球をするのはおそらく初めてだ。

奇跡のような幸運で「ジャパニーズドリーム」を

 しかも移動はグリーン車、モーテルではなく一流ホテルに宿泊し、自分で用具を持つことなく球場入りすることができる。ウォーカーは奇跡のような幸運で「ジャパニーズドリーム」を手にしたと思っているのではないか。

 角中勝也や又吉克樹など、日本の独立リーグからNPBに入って活躍する選手が出ると、スカウトは独立リーグに目を向けるようになった。同様に――ウォーカーの活躍によって、アメリカの独立リーグは「新たな鉱脈」としてスカウトたちに注目されるかもしれない。

©Hideki Sugiyama

<NPB第15週の成績 2022年6月27日〜7月3日>

〇セ・リーグ
ヤクルト6試5勝1敗0分 率.833
DeNA6試4勝2敗0分 率.667
巨人5試2勝3敗0分 率.400
中日5試2勝3敗0分 率.400
広島6試2勝4敗0分 率.333
阪神6試2勝4敗0分 率.333

 ヤクルトの独走が続き、7月2日にマジック53が点灯。これは7月6日にマジックが点灯した1965年の南海を抜き史上最速である。

・個人打撃成績10傑 ※RCは安打、本塁打、盗塁、三振、四死球など打撃の総合指標
塩見泰隆(ヤ)27打11安3点5盗 率.407 RC7.10
マクブルーム(広)23打8安2本7点 率.348 RC6.27
小園海斗(広)23打11安1本3点 率.478 RC6.19
中野拓夢(神)27打11安1本1点 率.407 RC5.98
ソト(De)19打8安2本7点 率.421 RC5.82
村上宗隆(ヤ)22打5安3本7点1盗 率.227 RC5.81
阿部寿樹(中)20打10安2点 率.500 RC5.55
坂倉将吾(広)22打9安1本3点 率.409 RC5.51
坂本勇人(巨)20打8安2本7点 率.400 RC5.30
宮崎敏郎(De)23打10安2点 率.435 RC5.06

 ヤクルトの切り込み隊長、塩見が絶好調。5盗塁は最多。村上は今週も最多の3本塁打をマーク。打点も広島マクブルームやDeNAソト、巨人・坂本と並ぶトップタイの7だった。

・個人投手成績10傑 ※PRはリーグ防御率に基づく総合指標
森下暢仁(広)1登8回 責0率0.00PR3.06
菅野智之(巨)1登7回 責0率0.00PR2.68
原樹理(ヤ)1登1勝6回 責0率0.00PR2.30
濱口遥大(De)1登7.9回 責1率1.17PR1.94
才木浩人(神)1登1勝5回 責0率0.00PR1.92
サイスニード(ヤ)1登7回 責1率1.29PR1.68
大貫晋一(De)1登1勝7回 責1率1.29PR1.68
藤嶋健人(中)2登1H4回 責0率0.00PR1.53
石川雅規(ヤ)1登6回 責1率1.50PR1.30
青柳晃洋(神)1登6回 責1率1.50PR1.30
アンダーソン(広)1登6回 責1率1.50PR1.30

 広島の森下は7月2日の巨人戦で8回零封、同じ試合で投げ合った巨人の菅野も7回零封の好投を見せたが、ともに勝ち星つかず。救援ではDeNAの山崎康晃が2セーブ。阪神の浜地真澄ら14投手が2ホールドだった。

パで好調だった選手は誰だった?

〇パ・リーグ
ロッテ4試3勝1敗0分 率.750
ソフトバンク3試2勝1敗0分 率.667
西武4試2勝2敗0分 率.500
オリックス5試2勝3敗0分 率.400
楽天5試2勝3敗0分 率.400
日本ハム5試2勝3敗0分 率.400

 ソフトバンクで新型コロナの新規陽性者が18人確認されため、29日のロッテ戦と1日の西武戦が中止となった。ロッテが3勝1敗と復調している。

・個人打撃成績10傑
銀次(楽)21打10安2点 率.476 RC5.74
島内宏明(楽)21打8安2本7点 率.381 RC5.57
森友哉(西)14打8安5点 率.571 RC5.51
小深田大翔(楽)22打8安2点2盗 率.364 RC5.25
吉田正尚(オ)20打8安1本6点 率.400 RC5.09
浅村栄斗(楽)16打5安1本1点 率.313 RC4.49
周東佑京(SB)11打6安1本3点 率.545 RC4.20
安達了一(オ)12打5安1本3点 率.417 RC3.96
荻野貴司(ロ)13打6安2点1盗 率.462 RC3.91
鈴木大地(楽)15打5安1本3点 率.333 RC3.63

 楽天は7月3日のロッテ戦で14対1と大勝。楽天の選手が数字を荒稼ぎした。本塁打、打点は楽天・島内が最多。盗塁も楽天の小深田が2でトップ。

・個人投手成績10傑
石川柊太(SB)1登1勝9回 責0.00率0PR3.57
伊藤大海(日)1登1勝9回 責0率0.00PR3.57
山岡泰輔(オ)1登1敗8回 責0率0.00PR3.17
ロメロ(ロ)1登1勝7回 責0率0.00PR2.78
エンス(西)1登1勝5回 責0率0.00PR1.98
則本昂大(楽)1登1勝7.1回 責1率1.23PR1.91
田嶋大樹(オ)1登1勝7回 責1率1.29PR1.78
早川隆久(楽)1登1勝7回 責1率1.29PR1.78
上沢直之(日)1登1勝6.9回 責1率1.35PR1.64
佐々木朗希(ロ)1登4回 責0率0.00PR1.59

 ソフトバンクの石川は7月3日の西武戦で1安打完封。コロナ陽性から復帰して早々の快挙。日本ハムの伊藤は2日のオリックス戦で山本由伸に投げ勝っての完封勝利。佐々木朗希は1日の楽天戦で4回10奪三振の快投もマメをつぶして降板した。救援ではロッテの益田直也が2セーブ、楽天の西口直人が3ホールドだった。

ヤクルト石川の「3000投球回」も大記録

<達成記録>
打者
・大山悠輔(神)100本塁打

7月3日中日戦 史上305人目

投手
・石川雅規(ヤ)3000投球回

6月30日広島戦 史上27人目

 3000投球回は過去に26人いるが、平成以降のデビューでは現DeNA監督の三浦大輔(最終3276.0回)についで2人目。ローテーションが確立される中で、42歳の今季まで元気に投げ続けた勲章だ。

文=広尾晃

photograph by Nanae Suzuki