日本サッカーの価値を、Jリーグの価値を、そして自らの価値を、国内組の選手たちがピッチ上に示した。7月に行なわれたE-1選手権で、9年ぶり2度目の優勝を飾ったのだ。
カタールW杯のメンバー入りを懸けたラストチャンスとも言われた大会で、多くの選手が存在感を発揮した。2008年と10年開催の大会に出場した元日本代表の中村憲剛氏も、チームのパフォーマンスを高く評価する。前編では、短期間でチームにまとまりが生まれた理由や、右膝前十字靭帯断裂の重傷を負った宮市亮へのエール、そして大会MVPに選ばれた相馬勇紀のプレーについて話を聞いた。(全2回の1回目/後編へ)

 今回のE-1選手権に臨むにあたって、森保一監督には目標がふたつあったと思います。ひとつは優勝すること。もうひとつは9月の欧州遠征への選手の見極めです。終わってみれば、そのどちらの目標も達成されたのではないかと思います。

 香港と中国は力が落ちる相手で、韓国はいまひとつの出来でした。とはいえ、招集された選手たちにとっては国際経験を積むことができ、W杯へのアピールができる貴重な機会です。それを無駄にすることなく優勝という結果につなげたのは、評価していいと思います。

 選手たちはこの大会で成長するきっかけを得たのではないでしょうか。のちに振り返ったときに、「あのE-1選手権をきっかけに伸びた」と言われるような選手が、出てくるかもしれません。

チームに一体感を生んだ谷口、水沼らの振る舞い

 僕自身はJリーガーのプライドを見ることができたと感じています。「海外組だけじゃない、オレたちもいるんだ」という心の叫びが、ピッチから聞こえてくるようでした。

 優勝を後押ししたのは、チームの一体感でしょう。

 キャプテンを任された谷口彰悟と、年齢が上の佐々木翔や水沼宏太らが、ピッチの内外で果たした役割は大きかったと思います。とりわけ谷口は守備を統率するだけではなく、短期間で「チーム」にまとめ上げました。水沼はプレー中もベンチでも、絶えず声を出していました。

31歳の谷口彰悟はキャプテンとしてチームを牽引した ©Getty Images

 カタールW杯の代表入りへ向けて、個人的なアピールに走ってもおかしくないなかで、短期間でとてもしっかりとまとまっていたように見えました。試合に出る、出ないに関わらず、チーム全員が同じ思いを抱いて戦っていくことは、優勝するためにはとても大切な部分です。そこで大きな役割を果たしていたのが谷口であり水沼だったと、トレーニングや試合後のコメントや振る舞いを見ていて感じました。もちろん、選手たちのピッチの内外での姿勢は、森保監督もチェックしていたでしょう。

中国戦メンバーを「少し気の毒」に思ったワケ

 森保監督は香港との第1戦に、横浜F・マリノスの選手を中心としたメンバーを起用しました。続く中国戦はサンフレッチェ広島の選手が多く出場し、第3戦は第1戦とほぼ同じメンバーが起用されました。

 F・マリノスは4-2-3-1を基本システムとしていて、森保監督は3試合を通じていつもの4-3-3ではなく、4-2-3-1を採用していました。それは広島の選手たちが多く出た2戦目の中国戦でも同じでした。広島の選手たちは、普段は3-1-4-2で戦っています。その結果、不慣れなポジションでプレーする選手が出ていました。

 森保監督はしっかりとした狙いを持って、システムを決めたのだと思います。日本代表に選ばれた選手なら、所属クラブと違うシステムに適応しながら、自分の武器を出して勝利に貢献しなければならない。それはもう十分に分かっているのですが、いつもどおりのパフォーマンスを見せられなかった中国戦のメンバーの胸中を察すると、少し気の毒に思えてしまいました。

10年前、日本代表でともに戦った宮市亮へのメッセージ

 韓国戦で負傷交代した宮市亮には、果たしてどんな言葉をかけてあげればいいのでしょうか。彼が代表にデビューした12年5月のアゼルバイジャン戦に、僕も出場しました。彼にとって代表2試合目となった同年10月のブラジル戦でも、ともに戦いました。

2012年5月、アゼルバイジャン戦でともにプレーする宮市亮と中村憲剛氏 ©Miki Fukano

 若い時から知っている彼が、約10年ぶりに日本代表に招集されたのです。この10年の間は怪我が続き、本当に辛いこと、悲しいことがたくさんあったに違いなく、それでも懸命に前を向いて、今シーズンの横浜F・マリノスで好調さをアピールして、チャンスを引き寄せました。そして、全力で戦う姿を見せるんだという強い覚悟が彼のプレーから感じられていただけに……。僕もショックです。

 僕自身も同じ膝のケガを経験しているので、宮市が負傷したあの瞬間は胸騒ぎがしました。大きなケガではないことを祈っていたのですが、前十字靭帯断裂とは……。いまはとにかく、焦らずにしっかりと治してほしい、という思いです。

 亮、待っています。

注目に値するMVP相馬勇紀の「ファーストプレー」

 話をE-1選手権に戻します。

 多くの選手がインパクトを残しましたが、まず触れるべきは大会MVPにも輝いた相馬勇紀でしょう。彼のプレーからは、色々な意味で覚悟を感じましたし、「何が何でも次へ」という思いを見せてくれました。

 香港戦では開始早々に直接FKを蹴り込みましたが、実はその前のファーストプレーが良かった。プレスでボールを奪って、FKを獲得する流れを作っていたのです。そして、FKを決めてみせた。チーム全体がグッと前のめりになるきっかけというか、大会優勝へ向けてチームを勢いに乗せたのは、間違いなく相馬のあのプレーでした。

香港戦で直接FKを決めた相馬勇紀 ©Getty Images

 今回のE-1選手権のメンバーに選ばれたフィールドプレーヤーで、東京五輪に出場しているのは相馬ひとりです。オーバーエイジとして出場した吉田麻也、酒井宏樹、遠藤航をはじめ、五輪世代で日本代表に選出されている選手たちとともに戦い、彼らがW杯アジア最終予選でどうなっていったのかを、相馬はチームの外側から見てきた。悔しさをかみ殺した場面もあったでしょうし、純粋にすごいなと感じることもあったかもしれない。

 いずれにせよ、「E-1選手権でこれまで以上にやらないと、日本代表には残れない」という線引きが明確になっていたと思います。海外組を含めた日本代表の現在地を「可視化」できていたからこそ、覚悟のレベルが他の選手より高かったのではないでしょうか。

 とくに守備の強度と迫力は、意識していたと思います。それについては、名古屋グランパスでウイングバックとしてプレーしていることがプラスに働いたと思います。

 ウイングは攻撃がメインになりますが、ウイングバックは名前の通りサイドの攻守両面をひとりで担います。昨シーズン、ベルギーのユニオン・サンジロワーズでプレーした三笘薫が、ウイングバック起用で守備力を磨いていったのと似ていますね。東京五輪の当時よりも、プレーの幅が広がったことを印象づけました。<後編へ続く>

文=中村憲剛+戸塚啓

photograph by AFLO SPORT