ファンが置いてきぼりではないだろうか。

 一連の巨人のコロナ禍による試合の延期の中で、ある球界OBからのこんな指摘に核心を突かれた思いが走った。

 巨人の菅野智之投手、丸佳浩外野手、岡本和真内野手ら主力選手を含む38人のコロナ陽性が分かったのは7月20日、神宮球場でのヤクルト戦の試合後だった。すでに19日には二軍の高橋優貴投手ら選手、コーチ、スタッフ17人が陽性判定を受けていて、この日の試合前にもドラフト1位の守護神・大勢ら2選手の感染が判明していた。これで2日間合計57人が陽性判定を受けたことになる。

 さらに翌21日にも山口俊投手ら10人が陽性判定を受け、一軍の試合に出場可能な支配下登録選手の約半数となる34人が感染して、試合に出場できない状況となっていた。

 クラスター発生を受けて12球団は21日に臨時実行委員会を開催。そこで22日から予定されていた中日3連戦の延期が決定した。一方、巨人では22日に原辰徳監督ら6人の新たな感染者が分かるなど感染は広がり続けていた。

©︎Naoya Sanuki

 その後はオールスターブレークの期間を含めて1週間余りの時間があり、無症状の選手は規定の7日間を経て練習に復帰。しかし体力的な問題があって、29日からの後半戦開幕のDeNA戦の2試合がまず延期決定。さらに31日のカード3戦目も前日に延期が決まった。

「なぜ巨人は6試合も延期できるのか」というモヤモヤ感

この間にファンの間からは、オールスター期間を挟みながら6試合も延期となったことに対して、「なぜ巨人だけこんな長期に試合が延期されるのか?」という疑問の声が上がっていたのは事実だった。

 背景にはヤクルトの事例があったと推察される。

 ヤクルトでは7月9日に山田哲人内野手、青木宣親外野手らの主力選手に高津臣吾監督ら首脳陣とスタッフ合わせて18人がコロナ陽性となっている。

 このときは9日と翌10日の阪神戦の2試合だけを中止にして12日からの中日3連戦はファームの選手を呼び寄せて試合を行なっている(うち1試合は雨天中止)。そうして山田が復帰した7月24日の広島戦まで9試合をやりくりしながら戦ったが、結果的には2勝7敗と大きく負け越すことになってしまった。

 なぜヤクルトは2試合しか延期にならず、巨人はオールスター休みも挟んで6試合も延期にできるのか。そこにファンのモヤモヤ感の大きな理由があったと想像できる。

 もちろん延期決定そのものは致し方ないものだった。しかし最初に中日戦を延期した際の説明が、全く具体性を欠いていたことでファンの不満が増幅された可能性は高いと思う。

 というのも中日戦3試合の延期が決まった際は、NPB(日本野球機構)の井原敦事務局長が会見で中止決定の経緯を説明している。その時に個別具体的に試合をできない理由が明示されず「チーム編成ができない」という、大枠の理由しか明らかにしなかったからだ。

試合ができない理由と曖昧な説明

 巨人が試合ができない具体的な理由は、感染による内野手不足だった。クラスターが爆発した7月22日時点で、感染を免れて一軍の試合に出場できる支配下登録の内野手は5人だけ。しかもそのうち坂本勇人内野手と若林晃弘内野手はコロナとは関係ない故障での戦線離脱で、試合出場は不可能だった。実質的には内野手が3人(翌日に菊田拡和内野手も陽性が判明し2人)しかいなくなったことが、試合をできない最大の理由だった。

©︎Nanae Suzuki

 ところが延期が決まったときに、内野手の絶対数が足りないということを示さずに、「チーム編成ができない」と非常に曖昧な言葉の説明しかなかった。ファンは支配下登録の内野手が何人残っているなどということは、あまり調べないし、「チーム編成ができない」という言葉には、どこがどうできないのかという疑問しか残らない。そこで、「ヤクルトはあれだけ中心選手が離脱しても、やりくりして試合を行なったではないか」という声が出てしまうのは仕方ないことだった。

 一方、オールスター明けのDeNA戦について、練習復帰はできても、ほぼ1週間、ほとんど強めのトレーニングをしていなかった選手の筋力低下などの問題は、想像以上に深刻だということには頷ける。

全力疾走や全力投球の機会が全くなく…

 DeNA戦の延期決定の際には、2度にわたって延期決定に至った理由をホームページなどでファンに説明。3試合目の延期が決まった際にも、次のようにホームページでファンに状況を説明している。

「復帰した内野手11人全員、1週間〜10日の自宅隔離期間中、全力疾走や全力投球をする機会が全くなく、自室での器具を使ったトレーニングや素振り程度しか体を動かすことができていませんでした。このうち、最も早い27日に復帰した3人について、29日夕方の時点で、この3日間のトレーニングの結果を確認したところ、3人とも上半身及び下半身の筋力が公式戦に出場できる水準に戻るにはまだ数日かかり、このまま31日の試合に出場させた場合、大きな故障につながりかねないことから、3人とも31日にベンチ入りさせることは不可能と判断いたしました。残る8人についても、コンディションの回復状態はこの3人以下の状態です」

 つまり練習には戻っているが、試合に出られるコンディションではないので延期せざるを得なかった、ということだ。

 実際問題としてヤクルトでも山田は陽性判定が出た7月9日から、実際に試合に復帰した24日まで15日かかっている。そこから判断しても巨人が説明した延期理由は、決して特異なものではなく、延期決定も仕方ないものだったと考えられる。

一連の巨人の対応で引っかかること

 ただ……1つだけ、一連の巨人の対応の中で引っかかるのは、ファンに対する“謝罪”が、ひと言もないことだった。

 新型コロナウイルスへの感染は、誰が責められるものでもなく、不可抗力の部分が大きいと思う。特に巨人はこれまでも感染予防にはかなり神経を使って取り組んできていた。沖縄キャンプ中には現地医療に負担をかけないために、独自にPCR検査施設を立ち上げ、野球だけではなく他のスポーツの競技者らにも、検査場所を提供してきている。

 そういう意味では新型コロナウイルスへの対策、感染予防では意識高い系の球団で、チーム内でクラスターが起こったことも、防ぎようもなかったものかもしれないと想像できる。

 だから試合の延期やその理由を問うことはない。

 しかし現実としてクラスターが発生し、中日とDeNAの試合が合わせて6試合延期になったことについて、ファンに向けて球団としてメッセージはないのか? 巨人ファンだけでなく相手チームのファンに対して、不可抗力とはいえ試合延期という事態を招いたことへの謝罪は絶対に必要だと思う。

選手にとっては、シーズン中の1試合かもしれないが…

 中日戦は子供たちが夏休みに入った直後のカードだった。DeNA戦もオールスター明けの後半戦がスタートする最初のカードである。この6試合のチケットをファンは、どんな思いで手に入れただろうか。楽しみに待っていた試合が突然、延期になってしまった。そのときの失望感はどれくらいのものだったか、巨人の球団幹部は想像できないのだろうか。

「選手にとっては毎日続く、シーズンの中の1試合かもしれないが、スタンドに観戦にくるファンにとっては、その日、その試合しか来ることができない貴重な1試合かもしれない」

 元巨人の松井秀喜さんが、師と仰ぐ長嶋茂雄巨人軍終身名誉監督から言われた言葉だ。それが松井さんが連続試合出場にこだわった理由の一つだった、というのは有名な話だ。

©︎BUNGEISHUNJU

 そうしてそういう今日の1試合に対する考え方は、長嶋終身名誉監督や松井さんだけでなく、巨人の伝統として受け継がれてきているものでもあるはずだ。

 今回の中日戦とDeNA戦の6試合はあくまで延期であり、代替試合は新たに日程に組み込まれることになる。チームにとっては代わりのある試合かもしれない。しかしチケットを握りしめて、夏休みの1日を待っていたファンにとっては、これでもう生で試合を観戦できるチャンスはなくなったかもしれない。

ファンへの謝罪の次に、巨人が球団としてやるべきこととは

 コロナ禍は不可抗力だった。

 それでもそんなファンに向かって、巨人はやはり球団として丁寧に謝るべきだし、NPBももっと丁寧に延期理由を説明すべきだろう。

 そしてもう一つ、次にやること、やるべきこともある。

 巨人は今回のクラスター発生の検証を行ない、どこでどうこれほどまでに爆発的な感染拡大が起こったのかをきちんと公にすることが必要である。日本ではいま、オミクロン株BA.5種で爆発的に感染が広まり、新たに”ケンタウロス”の蔓延も危惧されている。検証の結果を明らかにすることは、巨人だけでなく他の11球団の今後の感染対策ともなるはずだ。そしてそれを球団内部やNPBだけで共有するのではなく公にすることで、他のスポーツの競技団体や競技者、あるいは人々が集団で行動する際の1つの重要なデータにもなるはずだ。

 ファンを置いてきぼりにしないためにも、日本のスポーツ界がコロナ禍を乗り切るためにも、ぜひとも巨人にはこの2つの姿勢をしっかりと示して欲しい。

文=鷲田康

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