準々決勝の相手が大阪桐蔭に決まる。

 秋の明治神宮大会と今春のセンバツを制した、絶対的な優勝候補。どのチームもひとつでも勝ち上がるためには対戦を避けたがるはずだが、下関国際の坂原秀尚監督は違った。

「大阪桐蔭」より「やってきたこと」を意識

 動揺はない。去来したのは高揚感だ。

「あくまで想定のなかではあったんですが、目標である準々決勝を突破するためには、必ず強いチームとの対戦があるわけです。そのなかでも『トップにいる大阪桐蔭を倒すためにはどうするか?』と、選手たちはこの2年4カ月、常にミーティングしてきましたし、練習もしてきました。ですから、さほどバタつくことはなかったと言いますか、準々決勝で戦えることになってワクワクしました」

 対戦相手の多くは、大阪桐蔭を強烈に意識して試合に臨んでしまう。

 旭川大のように初回にセーフティバントで出鼻をくじき、自分たちのペースに引き込めるチームは稀で、聖望学園も二松学舎大附もチームで掲げる野球を後手に回してしまったことで、結果的に飲み込まれ、敗れた。

©Nanae Suzuki

 坂原の言葉にもあるように、下関国際も当然、大阪桐蔭を意識していた。

 ただし、基準は常に自分たちだ。

 相手打線をどう抑えるか? 豊富な投手陣をどう攻略するか? という難題に頭を悩ませるのではなく、ただただシンプルに「やってきたことをやれば勝てる」という意識を、それこそ呪文のように唱えチームの根っことし、浸透させてきたのである。

 3回戦まで4本のホームランを記録する、相手の破壊力にもひるまない。1回に2点を先取されても、エースの古賀康誠は冷静に自分のピッチングと向き合う。

「真っすぐではアウトが取れないなか、スライダーだったり、落ちるボールをうまく使えました。ヒットを打たれても次のアウトを辛抱強く取れました」

 6回途中4失点。エースからバトンを受け継いだ、「二枚看板」のひとりでショートも兼務する仲井慎も、欲を出さず腕を振った。

「配球のことはあまり考えず、『インコースとアウトコースにボールを散らして』と監督さんに言われたことだけを意識しました」

 その下関国際のディフェンスで脚光を浴びたのが、3-4の7回に出たトリプルプレーだ。

三重殺が必然だった理由

 無死一、二塁の場面で、相手のバントが小フライとなる。ピッチャーの仲井が捕球すると躊躇なくセカンドへ送球し、さらにファーストへボールが渡った。大会史上9度目というビッグプレーではあるが、下関国際からすればある意味で必然的なプレーでもあった。

 監督の坂原が解説する。

「ただ送らせて1アウト二、三塁は考えていませんでした。フィルダースチョイスでもいいから三塁で刺しにいく練習をしてきましたから。ピッチャーの方向にバントをさせた配球が、あの結果を生んだんだと思います」

 トリプルプレーを成立させ、仲井は「絶対勝てる」と確信にも似た感情を抱いたという。

「自分たちのやってきたことを出せていましたし、『終盤をしのいでいこう』とベンチでも言ってきたので」

7回、大会史上9度目となるトリプルプレーが成立 ©Hideki Sugiyama

 守備が粘り、打線が応える。攻守の相乗効果もこの試合では光った。

 150キロに迫るストレートを投げる大阪桐蔭投手陣に対し、バッターはとにかくバットを短く持ってタイミングを早めに取り、低い打球を心がけることを徹底した。

 下関国際打線は、先発の別所孝亮や2番手で登板した前田悠伍に対し、必要以上の対策は講じなかった。4番の賀谷勇斗が明かす。

「個人対個人で勝負しても勝てる相手ではないというか。とにかく練習でやってきた低い打球を打っていこうということは、全員で徹底していました」

 松本竜之介が、0-2の3回にレフト線へしぶとくライナーを放つ。1-2の5回には、別所の高めのボールを叩きつけセンター前に転がした。2-3の6回には、橋爪成が前田の変化球を三塁線へ弾き返した。打点を挙げた全ての打球が低かったことからもわかるように、下関国際打線の首尾一貫した攻撃姿勢がはっきりと伝わる。

下関国際ベンチ「やってきたことを信じろ!」

 攻撃中の下関国際ベンチには、打席に入る選手にベンチから常にこんな声が飛んでいた。

「練習でしてきたことをやろう!」
「やってきたことを信じろ!」

 1点を追う9回、先頭の赤瀬健心がライナーのセンター前ヒットで出塁すると、2打点の松本が外角のボールをバスターからバットを止めながら合わせ、レフトにしぶとく運ぶ。送りバントで二、三塁。この逆転の絶好機で打席が回ってきた賀谷は、前田から低い打球を打つための準備をしていた。

「ストレートに力があるので、振り負けないよう早めにタイミングを取るために、右足の上げ幅を小さくしたりしました」

 カウント1-1からの3球目のストレートを叩きつける。高いバウンドが前田の頭上を越え、センター前に到達する。打球の勢いが失われたことが奏功し、セカンドランナーも生還。下関国際が土壇場で試合をひっくり返し、そのまま5-4で逃げ切った。

9回表、勝ち越しの走者が生還 ©Hideki Sugiyama

 優勝候補を撃破。試合後、監督の坂原は誇らしげにチームを称えた。

「ひるむことなく立ち向かっていけた。選手たちが頼もしかったです」

 辛抱強く、我慢強く、粘り強く。

 これは大阪桐蔭が標榜する野球だが、この試合で下関国際が貫いた野球がこれだった。

 絶対的な優勝候補に飲み込まれず、勝利できたわけ。

 それは、常に大阪桐蔭との対戦を想定していたこと。攻撃、守備ともに愚直に、やるべきことを徹底したことだった。

坂原秀尚監督にウイニングボールを渡す下関国際ナイン ©Hideki Sugiyama

文=田口元義

photograph by Hideki Sugiyama