2022年の上半期(対象:4月〜8月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。スポーツ総合部門の第1位は、こちら!(初公開日 2022年5月1日/肩書などはすべて当時)。

 平野歩夢が金メダルを獲得した北京五輪・スノーボード男子ハーフパイプ。日本人審判として採点を行った橋本涼氏が初めてメディアの取材に応じた(全2回の1回目/後編へ)。

 あの平野歩夢2本目採点…日本人審判はどう見た?

 北京五輪のスノーボード男子ハーフパイプで平野歩夢が悲願の金メダルを獲得してから約2カ月半が過ぎた。五輪史上初となるトリプルコークを成功させて頂点に立った平野の勇姿は、今もなお記憶に鮮明だ。けれども一方で、平野の2本目の点数がスコッティ・ジェームズ(オーストラリア)より低かったのはおかしいのではないか、という疑念も人々の心にモヤモヤとしたまま残っている。

 なぜ、あの採点になったのか。ジャッジルームで何が起きていたのか。北京五輪でジャッジを務めたFIS(国際スキー連盟)公認審判の橋本涼氏が自身の見解を明かした。

「平野選手の2本目の採点については、実際に僕が選手だったとしたら納得できないと思います。ただ、スコッティ選手の方に高い点を出した審判の判断も理解できます」

 橋本氏はそのように語り始めた。橋本氏は高校卒業後からスノーボードの選手として競技会に出場し、26歳で引退。約15年前、30歳頃から審判を志し、ライセンスを取得した。現在はSAJ(全日本スキー連盟)で審判のトップを務めている。これまでに「USオープン」や「DEW TOUR」をはじめ、多くの国際大会で審判を務め、五輪のジャッジは2018年平昌五輪に続いて今回の北京五輪が2度目だった。

スノボ採点は「トータルでの評価」と「相対評価」

 ハーフパイプで採点を行なう審判は6人。北京五輪ではスウェーデン人、フランス人、カナダ人、米国人、日本人、スイス人の6人が務めた。採点は100点満点で、最高点と最低点を除いた4人の平均が点数となって出る。

 FISが定める採点基準は「完成度」「難度」「振幅(高さ)」「バラエティ」「新規性(将来性、オリジナリティ)」。これら5項目をトータルして見たうえで、100点満点で評価をする。理解しておきたいのは、トリックの一つひとつに基準点があるのではなく、あくまでトータルでの評価とすること。そして、相対評価であることだ。

 こういった前提を踏まえたうえで、問題となっている北京五輪の2人の2本目をそれぞれ検証した。

疑惑の2本目…橋本氏は“スコッティ93、平野95”

 まずは、スコッティ・ジェームズの2本目(12人中11番目滑走)のランについて。彼が繰り出した5つのトリックの内訳はこのようなものだった。

1:スイッチ・バックサイド1260
2:キャブ・ダブルコーク1440
3:フロントサイド900
4:バックサイド1260
5:フロントサイド・ダブルコーク1440

 橋本氏はスコッティに93点をつけた。その理由は、「高さはそこそこあり、技のバラエティという面では異なる4方向の全てに回している。全体の完成度も非常に高かった」というものだ。他の5人のジャッジは92点、93点、94点、91点、92点。この中から91点と94点がカットされ、スコッティのスコアは92.50点となった。

 続いて、最終12番目に滑った平野の5つのトリックの内訳を挙げるとこのようになる。

1:フロントサイド・トリプルコーク1440
2:キャブ・ダブルコーク1440
3:フロントサイド・ダブルコーク1260
4:バックサイド・ダブルコーク1260
5:フロントサイド・ダブルコーク1440

 なんと言っても評価が高いのは、五輪史上初の「フロントサイド・トリプルコーク1440」をメークしたことと、そこから2つ目のキャブ・ダブルコーク1440へ初めてしっかりとつなげたことだった。平野は北京五輪前の「X Games」や「DEW TOUR」でもトリプルコークをメークしていたが、ランディング(着地)で失速するなど、完璧ではなかった。そこで橋本氏は、スコッティにつけた93点より高い、95点をつけた。

ジャッジルームの“平野2本目評”

 ところが、平野に対する6人の採点が出そろうと、他の5人は96点、92点、90点、89点、90点。この中から89点と96点がカットされ、平野のスコアは91.75点となった。この瞬間、橋本氏は複雑な心境になっていた。実は、橋本氏の目にも、平野のランには評価を下げる要因となった箇所がいくつかあると映っていた。特に4つ目のバックサイド・ダブルコーク1260で高さが出ず、「ニーグラブ」をしたことと、ランディングがクリーンではなかったことだ。

「ニーグラブ」とは膝を抱えることを意味し、完成度が低いと見なされる。しかもこの時の平野は、膝ではなく太ももを抱えており、よりマイナスの印象になったという。

 さらには着地もずれていた。橋本氏の目には、完成度が極めて高かったスコッティとの差はほとんどないと映り、「ジャッジの判断は分かれるだろうな」と思ったという。

 採点が出そろうと、スコッティを上にしたジャッジが4人で、平野を上にしたジャッジは2人だった。大型スクリーンに平野の順位が「2位」と映し出された瞬間、会場では大ブーイングが起きた。テレビの解説者、視聴者も世界中でブーイング。ネット上では採点に対する不満が噴出した。橋本氏はジャッジルームでとっさに「(スコッティの3つ目のトリックは難度が低い)フロント900だけど、大丈夫?」と他の審判に投げかけた。すると、「でも、アユムのニーグラブは酷かったよ」という声が返ってきた。

 結果として橋本氏ともう1人のジャッジは平野を上にしたが、他の4人は、平野の「ニーグラブ」、高さ不足、ランディングがクリーンでなかったことを、スコッティの完成度の高いランと天秤にかけ、スコッティを上にしたということだ。スコッティは、板の回転方向や踏み切りの向きにより、「バラエティ」という部分も高く評価されていた。

平野の提言に橋本氏も「変えていかなければ」

 橋本氏はこのように語る。

「僕は、平野選手の減点箇所を考慮しても、スコッティ選手は3つ目に“900”があったため、平野選手を上にしましたが、スコッティ選手を上にするジャッジもいるだろうとは思いました。ただ、スコッティ選手の3つ目が1260だったら、僕もスコッティ選手を上にしていました」

 ここで言えるのは、2本目の採点で平野が2位になったのは、完成度の差で順位をつけたジャッジが多かったことが理由だということ。あくまで採点基準にのっとった評価であるが、平野がこの判定について「怒りもあった」と語ったのも事実だ。平野は試合から一夜明けた現地での会見で、「スノーボードは自由であることも魅力だが、高さや技を測れるようなものを整えていくべきだと思う。そういう時代になってきたのではないか」という提言をしている。

 これについては橋本氏も「僕自身、変えていかなければいけないことがあると思っている」と語った。

 後編では今後に向けての改善案と、北京五輪のドラマにもつながっていくことになった2018年平昌五輪のショーン・ホワイト(米国)と平野の3本目の採点を紐解いていく。

<後編へ続く>

2022年上半期 スポーツ総合部門 BEST5

1位:平野歩夢“あの2本目”不可解採点…北京五輪・日本人ジャッジが初めて明かす“審査員たちが話していたこと”「僕は平野選手を上にしましたが…」

https://number.bunshun.jp/articles/-/854626

2位:「本当の“怪物”は桑田なのでは?」PL学園・同級生が見たKKドラフトの真相。清原にはなかった圧倒的な才能「こいつ、オレたちと同じ人間なんか…」

https://number.bunshun.jp/articles/-/854625

3位:「大食いはスポーツに近い?」「やっぱり男性有利?」“大食い女王”魔女菅原(58)に聞いてみた「女性選手への偏見をギャル曽根さんが変えた」

https://number.bunshun.jp/articles/-/854624

4位:人気Mリーガーが明かす麻雀界の“性差”と誹謗中傷問題…青学卒・岡田紗佳28歳「批判に耐えられなくなる時もあった。でも…」

https://number.bunshun.jp/articles/-/854623

5位:東大野球部は大阪桐蔭・根尾昂を誘っていた「彼が本気で勉強すれば、東大合格していた」東大の“新スカウト戦略”で甲子園経験者が増加中

https://number.bunshun.jp/articles/-/854622

文=矢内由美子

photograph by Asami Enomoto/JMPA