これは、あるかもしれない。

 昨年25年ぶりにパ・リーグ優勝を果たしたオリックスの、リーグ2連覇の芽が膨らんだ。

 9月17〜19日にホーム・京セラドーム大阪で行われた首位・ソフトバンクとの今季最後の3連戦に、3連勝。3に開いていたゲーム差を一気に0とした。まだ勝率1厘差でソフトバンクが首位に立っており、残り試合数もソフトバンクのほうが多いが、大きく勢いづく3連勝となったことは間違いない。

 3連戦初戦の17日はエース・山本由伸の日だった。9回にこの日最速157キロの剛球を見せつけるなど、気迫あふれる投球で4安打完封勝利。圧巻の投球内容でチームを鼓舞しただけでなく、完投したことが大きかった。あとの2試合に、惜しみなくリリーフ陣を注ぎ込むことができた。

 2戦目の18日は、初めて中5日で先発した宮城大弥が5回1安打無失点の好投を見せ、6回以降は宇田川優希、山崎颯一郎、阿部翔太、ジェイコブ・ワゲスパックが完封リレー。打っては、この日一軍復帰したばかりの1番・福田周平が決勝点をたたき出した。

 そして3戦目の19日は、宗佑磨の日だった。台風14号が近畿地方にも迫る中で行われた試合は荒れ、5−5で延長戦に突入。10回裏、4時間47分に及んだ熱戦を、宗がサヨナラ打で締めくくった。

「絶対に全員で優勝したいと思います!」

 ベンチを一斉に飛び出した選手たちに水を浴びせられ興奮に浸った宗は、一息つくと感極まって涙した。

 自称「泣き虫」の26歳は、お立ち台で照れくさそうに言った。

©︎Sankei Shimbun

「いやーなんか、年齢を経るにつれて泣きやすくなってきてて(苦笑)。なんかすいませんでした。人生いろいろありまして、つらい時も楽しい時もあると思いますが、そんな時でも、僕たちも全力でやりますので、最後までついてきていただいて、絶対に全員で優勝したいと思います!」

 宗にとって、まさに「人生いろいろ」が詰まった試合だった。

 1回裏、2番の宗がライト前ヒットで出塁すると、4番・吉田正尚の2点本塁打で先制。3回にも中川圭太、吉田の適時打で4−0とし、ソフトバンクの先発・東浜巨をノックアウト。3連勝を大きく引き寄せたかと思われた。

 だが4回表に暗転する。無死一、三塁の場面で、先発の田嶋大樹はソフトバンクの4番・柳田悠岐をゴロに打ち取ったかに見えたが、三塁手の宗がホームへ悪送球。三塁ランナーが還ってピンチが拡大し、流れが一気に変わった。その回は3失点し、6回には4−5と逆転を許した。

 1点差のまま迎えた9回裏の攻撃では、無死一、二塁の場面で、宗がバントを試みるが失敗。

 それでも、頼れる主砲・吉田がチームと宗を救った。2死一、二塁となってから、この日4打点目となるタイムリーを放ち、崖っぷちで5−5と追いついた。

 そして延長10回裏、2死満塁の場面で、宗にこの日6度目の打席が回ってきた。

「絶対に回ってくると思ってました。エラーがあって、バントのミスがあって、そういうポイントポイントで回ってくる日。『良くも悪くも、今日はオレの日だな』と思っていました」

「打席では“無”でした」

「ミスを取り返したい」という思いは、なかったという。

「打席では“無”でした。取り返す、というのは、終わった後に言えることであって、その場で『取り返してやる』と考えると、前のめりになって、空回りしてしまうところがあると思うので。エラーも、バントミスも、全部過去のこと。それを試合中に振り返っても仕方がない。その場で自分がどうするか、ということを、打席の中で表現できたかなと思います」

 好投していた田嶋への申し訳なさや、ミスのあと声をかけてくれた先輩、追いついてくれたチームメイトへの感謝の思いの分、ベンチの最前列で声を張り上げながらも、ミスを引きずってはいなかった。

「引きずりかけましたし、いつもなら引きずっていた。何度も、エラーして引きずって、というのを繰り返していましたから。でも今日、下手くそだなと改めてわかったので。下手くそは考えてもしょうがない。練習するしかないなって」

 “9”と“10”の境界線が、いい意味で開き直りのきっかけになった。

「エラーの数を自分の頭の中で計算しちゃっていたんです。エラーが一桁と二桁じゃ全然違うよな、とか考えて。でも今日エラーして(今年のエラー数が)10個になったことで、もう余計なことを考えなくなりました。もう関係ない。9個と10個は違うけど、10個と11個は変わんねーなと思って。

 やっぱり一桁にとどめたいというのはありました。でもそんな消極的な気持ちじゃダメですよね。今日の4回のあの場面も、正直飛んでくると思ってなかったんです。柳田さんだったし、引っ張りだろうと思っていたから。そういうところもまだまだだなと思いましたね。ワンバンで投げなきゃいけなかったし、バックホームかゲッツーか、ちょっと迷ったところもある。まだまだ、下手くそです」

 昨シーズン、三塁手として初めてレギュラーに定着し、優勝に貢献した。素早い反応と柔らかいグラブさばき、そして三塁ベース後方からでも、一塁への糸を引くような送球でアウトにしてしまう強肩は、強いインパクトを残し、昨年初めてゴールデン・グラブ賞を受賞した。

 今年はその肩書きを背負い、それにふさわしいプレーをしなければというプレッシャーもあったかもしれない。その中で今年も数々の好守備で投手やチームを救ってきたが、ミスを引きずることもあった。だが今年10個目のエラーで、「自分は下手くそ。練習するしかない」と原点に立ち返り、目の前のプレーに集中できた。

昨季はゴールデン・グラブ賞に初選出された(2021年日本シリーズ) ©Hideki Sugiyama

「野球は助け合いのスポーツなんだなと」

 後悔も欲も封印し“無”の境地で立った10回裏、2死満塁の打席。コリン・レイの155キロのストレートをセンター前に弾き返し、三塁ランナーの太田椋がサヨナラのホームを踏んだ。

 試合が終わると、封じ込めていた感情が湧き出し、涙があふれた。

「長かったー」と息を吐き出しながら、こう続けた。

「本当に今日はみんなに助けられた。田嶋には、僕のエラーで点が入って迷惑をかけてしまったし、そのあと投げてくれたピッチャーもなんとか抑えてくれた。9回は僕がバントミスをしたあとに正尚さんがしっかりランナーを返してくれたし、本当にいろんな人に助けられた。そういうのが1つでも欠けていたら、最後ああならなかったと思うので、本当に野球って助け合いのスポーツなんだなと、改めて思いました」

 1敗でもすれば優勝は厳しくなっていたソフトバンクとの直接対決3連戦に3連勝。苦しみながらも、優勝へ勢いづく勝利を勝ち取った。

 今季のオリックスは、新型コロナウイルス感染による選手の離脱や、昨季主役に躍り出た選手の不振などが重なり、序盤は借金を背負い5位に沈んでいた。しかし、失敗を失敗のまま終わらせない選手たちのたくましさが、この終盤戦、勝利を呼び込んでいる。

 若いリリーフ陣は、失点を重ねたこともあったが、その経験を糧として、この終盤戦で頼もしい活躍を見せている。

 打撃の不調に走塁ミスが重なり、登録抹消となっていた福田は、最短の10日間で一軍に復帰した18日のソフトバンク戦で決勝打を放ち、再びリードオフマンとしての存在感を発揮している。

 そして宗が、失敗に折れることなく、サヨナラ打で取り返した。

 中嶋聡監督はこの終盤戦、「ド必死にやっていくしかない」と繰り返す。選手もド必死に食らいつき、ついにソフトバンクを捕らえた。

「本当にこの(ソフトバンクとの)3つ、なんとか取って(優勝への)挑戦権というふうに思っていたんで、やっと始まりぐらいな感じですかね。これで終わりじゃないんでね」と指揮官は気を引き締め直した。

 翌20日のロッテ戦にも勝利し、オリックスは4連勝で貯金は今季最多の10。日本ハムに勝利したソフトバンクにぴったり並走している。

 残り5試合は毎試合がヤマ。“ド必死”な戦いが続く。

文=米虫紀子

photograph by KYODO