この11月で35歳になった大和は、横須賀で行われている秋季トレーニングで若手選手たちに混じり汗を流していた。その一切無駄のない所作や動きは、遠くから見ていてもキャリアを滲ませるものだった。

 練習後に大和は、プロ17年目のシーズンを振り返り次のように語った。

「自分なりにはできたかなって思っています。最低限のことをすることはできた。とにかく一番は大きなケガをせず、シーズンを終えられることができてよかった」

 実感のこもった声の響き。今季は夏場に新型コロナの陽性判定で約2週間チームを離れたが、それ以外は一軍に帯同され91試合に出場した。スタメンでの出場はもちろん、時には代打から守備へ、ベンチではチームメイトのバックアップに奔走する1年間だった。

気持ちの持って行き方は、今季はすごく良かった

 すでに人生の半分近くを過ごしているプロ野球の世界。「なにか新しい発見はありましたか?」と尋ねると、大和はニヤリと笑い首をひねった。

「うーん、さすがに発見はないですねえ」

 そう言うと、次のようにつづけた。

「ただ発見はないけど、本当の勝負どころでの気持ちの持って行き方っていうのは、今季はすごく良かったと思うんですよ」

 メディアから“得点圏の鬼”と称されることの多かった大和の今季の得点圏打率は.290。シーズン250打席以上の打者では牧秀悟の.331に次ぐチーム2番目の数字だった。そんな大和が真骨頂を見せたのが、10月9日、クライマックスシリーズ(CS)での阪神との第2戦だろう。0対0の同点の5回裏、ノーアウト、二、三塁のチャンスで打席に入った大和は、フルカウントの末、伊藤将司が投じた低めのストレートをセンター前に弾き返し待望の先制点を奪った。これが決勝点となり、CSでの星を五分に戻す値千金のタイムリーとなった。

 打席での心構え。たとえばランナーがいてもいなくても“一打席”と捉え、普段と変わりないバッティングを志す者もいるが、大和は「ランナーがいるときと、いないときの打席はまったくの別物」と断言する。

“得点圏の鬼”が打率を残す秘訣とは

「ランナーを返さなければいけないケースは、どんなカタチでもいいのでまずは“前に飛ばす”ことを意識していますね。一方でランナーがいないときは、極端に言えばピッチャーに球数を多く投げさせること。ここが一番の大きい違いだと思います」

 集中力を極限まで研ぎ澄まし、「イケる!」と体と心が感知したボールを積極的に振っていく。

「若いカウントから行くときは(球種やコース)決めて行くことが多かったですね。けど、それが違っていたときに果たしてどうするのか。今でも考えさせられることは多いし、ここは難しいところでもあるんです」

 そんな状況にあっても高い得点圏打率を残すことができたのは、長い経験による読みや状況判断が礎になっているのだろうか。

「それは間違いないでしょうね」

 大和は確信を込めた口調で言った。多くの蓄積が、今の自分を支えている。

守備で忘れかけていたものを取り戻せたのは大きかった

 それは守備においても同様だ。今季は本職であるショートをメインに81試合で守備についた。昨年は同等の試合数、守備機会で自身ワーストタイとなる11失策を喫していたが、今季はわずか4失策に抑えることができた。また守備率は.986と、これはDeNAに移籍をして5シーズンで最もいいアベレージとなっている。

「昨年11個のエラーをして、自分のなかで減らさなくてはいけないと、キャンプからずっと基本の動作の練習を繰り返してきたんです。それによって雑だった部分を見直すことができて、いい方向に働いたと思いますね。特に打球に対しての入り方や足運び、そしてスローイング。忘れかけていたものを取り戻せたのは大きかった」

 昨年の守備不安の要因として、ベンチで控えることも多くなり、試合間隔が空くことによる調整の難しさを語っていた大和だったが、そこに関してはようやく慣れてきたという。結果的に今季、スタメンでの出場の間隔が空こうが、代打からゲーム途中に守備に入ろうが、その安定感は揺らぐことはなかった。

 以前、大和は「(守備力が)落ちてきたと思われるのは嫌だ」と語っていたが、正直に言えば守備範囲の広さや送球のスピードなどは全盛期とくらべれば落ちてきたように感じられる。そう問うと、大和は嫌な顔ひとつせず、静かに、そして力強く言うのだ。

自信ありげに語った“伸びしろ”

「守備範囲を問われると、やっぱり自分でも『以前までは追いついていたのにな』と思う場面もあるんですよ。ただ自分が捕れる範囲に関しては確実に仕事ができたし、その結果が今季の数字だと思っています。どうしても落ちてくるところはあるとは思うのですが、それをいかに修正するかが年齢を重ねていく上の課題ですし、僕としては諦めずその部分を追求していきたいんです」

 そういう意味から、まだまだ自分に“伸びしろ”があると感じているのか。

「もちろんです」

 そう言うと大和は自信ありげに微笑んだ。

「守備に関しては本当に一度も簡単だと思ったことはないですし、ただ事実として昨年よりコンディションも含めて安定してプレーすることができました。そこが来季に向け、一番心強いところなのかなって」

 勝負強い打撃と確実性のある守備。DeNAにとって大和は、まだまだ必要な存在であることは間違いない。

大和が感じたチームの変化「自分たちの野球ができるように」

 さて今季のDeNAは昨年のリーグ最下位から2位へとジャンプアップしたわけだが、豊富な経験を持つ大和はグラウンドやベンチからチームの変化をどのように感じていたのだろうか。

「出だしこそ厳しい戦いがつづいていましたが、交流戦前に三浦(大輔)監督から『切り替えて行こう』という話があって、それで吹っ切れたのか、自分たちの野球ができるようになっていきました。三浦監督も2年目ということで、やりたい野球への理解も深まっていましたし、自分たちがどういう準備をすればいいのかわかっていたので、本当にやりやすかったですよ」

 またウォーミングアップ前に連日行われた石井琢朗コーチを中心とした密なミーティングもチームメイトと意識や狙いを共有する上で大きな力になったという。

「前日の振り返りであったり、また今日の相手ピッチャーの対策など、意気込みも含め細かく説明をしてくれて、ゲームに入りやすい状態ではありましたね。僕からすると、何て言うか新しい感覚でしたよ」

 阪神からFAで入団した2018年以降、大和はよく「このチームに来て初めての経験ですよ」と言うことが多い。例えば野球をエンジョイしてプレーするベイスターズらしい姿勢や、ラミレス前監督時代にはプロ野球人生初の1番打者を任されるなど、そのたびに新鮮な刺激を受けてきた。

牧秀悟、森敬斗ら大和を刺激する若い選手たち

「いやもう新しいことしかないですよ(笑)。でもそれがいいモチベーションになっているし、本当に環境的に恵まれているなと思っているんです」

 また大和を刺激する若い選手たちも数多くいる。例えば二遊間を組む牧秀悟の存在には驚きを隠せない。

「普通1年目がよくても、2年目にガタンと落ちることがプロの世界ではありがちなんですけど、牧はそれを一切感じさせませんでしたね。もちろん苦しんでいた時期もあるし、その様子も見ていたんですけど、我慢しながら切り抜けたそのメンタルは年齢を考えれば本当にすごいなって」

 同じショートのポジションを争う森敬斗は、まだまだ大和の安定感や勝負強さには及ばないが、彼だけにしかできない光るプレーを何度も見せてきた。

「僕よりも数十倍、能力のズバ抜けた選手ですよ。僕が高卒3年目のときは、まだ一軍の試合には出られていませんでしたからね。森は、これからの選手。よく肩の強さについて注目されますが、僕から見れば脚力がすごいので守備範囲が広いんですよ。だからピッチャーもかなり助けられていると思いますよ。あとはもう本人次第じゃないですかね」

 森のためにも大和にはまだまだ高い壁として立ちはだかってもらわなければいけない。そして今季10年ぶりにDeNAに戻ってきた自分より5歳年上の藤田一也の存在も、大和のいい道標になったという。

「この数年間、自分より年上の選手と接することがなかったので、コンディショニングやケアの面で見習う部分が多かったし、本当に助かりました。一也さんとは野球の話ばかりしているんですよ。守備のことやチームのことなど結構細かい話をしますし、本当に野球が好きな人なんだなって」

プレーヤー大和を支えているモチベーションとは

 40歳になっても真摯に野球に取り組む藤田の姿を見て、大和は目に見えない力をもらったような気がした。

 とはいえ大和も現役として晩節を迎えている。この先のことを考えたりすることはあるのだろうか。そう問うと沈思黙考し、ゆっくりと口を開いた。

「どうなんでしょうね。けど本当に体が動かなくなるまでやりたいなとは思いますね。そろそろかなと思う自分とやりたいと思う自分がいたら、やりたいと思う自分を選ぶでしょうね」

 今このチームでリーグ優勝すること、そして日本一になること以外で、プレーヤー大和を支えているモチベーションは何だろうか。

「うーん、そうですね。じつは長男(7歳)が野球を始めたんですけど、いろいろ話してくれるなかで、その言葉に力をもらって、まだまだやらなきゃいけないなって思ってはいますね。えっ、息子は誰のファンか? いや、わからないんですけど『パパは大谷(翔平)選手と対戦したことあるの?』とか訊かれますよ(笑)。あと次男(4歳)が野球に少しずつ興味を持ち始めたので、僕が野球選手だったってわかるぐらいまでは頑張りたいなと思います」

「じゃあ藤田選手ぐらいまではやらないとダメですね」と投げかけると、大和は「まだまだ先は長いですね」と言って笑った。

 先日発表のあった京田陽太の加入によりポジション争いはこれまで以上に激化するが、大和は家族のため、チームのために来季も必要不可欠なピースとしてチームを支える。

「とにかく大きなケガをしないこと。そして個人と言うよりもチームの勝利にどれだけ貢献できるか。これがすべてだと思います」

 プロ18年目へ向け視界は良好だ。“得点圏の鬼”は、つかの間のオフを愛する家族とともに過ごし、年が明ければDeNAに来て6年目の勝負へと挑む――。

文=石塚隆

photograph by Sankei Shimbun