「(日本の得点が)決まらなくて良かった」
サッカーW杯カタール大会、インターネットテレビ局『ABEMA』で解説を務める本田圭佑が話題を呼んでいる。日本が決勝トーナメント進出を決めた12月2日(現地は1日)のスペイン戦では他の解説者なら四面楚歌に追い込まれそうな発言もあったが、なぜ本田は炎上せずに絶賛されているのか――。同試合の『本田語録』を取り上げながら、その理由を複合的に解き明かす。

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個人名を挙げて注意も…必ずフォロー

<名言1>
「スライディングいらんねんな、今の」(前半25〜26分)

 昨今のサッカー中継で、個人名を挙げて厳しい指摘をする解説者はほとんど見受けられない。その一因として、正当な理由から批判をしても、SNS上の有象無象が感情に任せて抗議してくる可能性があるからだろう。著名人も人の子だ。いくら相手の反論の根拠が薄くても、その数が大きくなれば萎縮してしまう。しかし、本田は他人に何を言われようが、正しいと思えば発する。

 前半26分、プレスをかけて相手DFを追い詰めたFWの前田大然が滑り込むと「スライディングいらんねんな、今の」と注意した。一方で、自身の影響力を理解しているためか、厳しく叱咤した選手には必ずフォローを入れている。この場面でも、「頑張ってるのは評価しますよ。前田さんさっきからすごい走ってくれてる」と褒めている。後半12分にも「前田さんのこのプレス!」と称賛した。本田は、コスタリカ戦でも遠藤航のミドルシュートの精度を悔やんだ後に「あいつ、どこでもおんねん」と縦横無尽に顔を出す運動量の豊富さを讃えていた。

イニエスタに直接「日本人の本音」…漂う緊張感

<名言2>
「日本勝ってる時にちょっと冗談やめてもらっていいかな」(後半13分)

 本田の本音はピッチ外にも向けられる。ピッチ解説の槙野智章(ヴィッセル神戸)が途中出場のフェラン・トーレスについて、「ルイス・エンリケ監督の娘と付き合ってるんですよ。そういう意味では、絶対にゴール決めたい、いいプレーしたいと思ってるんじゃないですか」という情報を伝えると、「冗談やめてもらっていいかな?」と引き締めた。槙野は「すみません、すみません」と慌てて謝罪。通常であれば、放送が終わった後にダメ出しをしそうだが、本田は生放送中に注意。この緊張感も視聴者を惹きつける1つの要因だろう。

<名言3>
「(イニエスタに)スペインには負けてほしいと思ってます」(ハーフタイム) 

 後輩に直言するだけでなく、スペインの至宝であるイニエスタにも遠慮はない。ハーフタイムに対面すると、はっきりと「スペインには負けてほしいと思ってます」と言い切った。ただし、会えた喜びと尊敬の意を表したり、「(ヴィッセル神戸の選手として)日本に来てくれてありがとうと思ってます」と感謝を示したりした後に、この言葉を伝えている。決して非礼でもなければ、挑発でもなかった。

サポーターも戒める…本当のプロ意識

<名言4>
「(サポーターに)まだ泣くの早いって」(田中碧のゴール認定直後)

 日本では金を払って足を運んでくれる観客に必要以上に気を遣う文化がある。だが、本田は誰にも忖度しない。田中碧の逆転ゴールがVARで認められた後、画面に涙を流すサポーターが映った。すると、本田は「まだ泣くの早いって」と戒めた。まだ勝負は終わっていないからだ。スポーツ選手はよく「ファンと一緒に戦う」と口にする。その点、本田はおべんちゃらを言うのではなく、ファンを戦力の一員と本当に考えているからこそ、真剣に向き合って気持ちを引き締めるように促したのではないか。

ズバズバ指摘…卓越した察知能力

<名言5>
「ちょっと嫌なのが、プレス行く時が全然定まってない。単発なんですよね」(前半3分)

 今大会、本田は瞬時に相手のフォーメーション変更を察知して日本の対応策を提示している。他にもズバズバと的確な指摘を連発し、視聴者を驚かせている。スペイン戦でも前半3分に実況の寺川俊平アナに「日本のディフェンスラインが5人並ぶような形でかなり高く設定しているようですが、どうなんでしょう?」と聞かれると、「ちょっと嫌なのが、プレス行く時が全然定まってない。単発なんですよね」と即答。その直後、久保建英がプレスに行くも、ボールを横に受け渡されるプレーが……。「そのままサイドチェンジされるだけなんで、(プレスが)無駄なんですよね」とわかりやすく解説した。

ギャグを混ぜて…緊張と緩和のギャップ

<名言6>
「オフサイ! 遅いね、オフサイ。 俺がラインズマンやろうか?」(前半23〜24分)

 サッカーは約90分間の戦いだ。全てのシーンを集中して見続けるのが困難な視聴者もいる。専門的な話だけではサッカーファン以外は飽きてしまうかもしれない。そこで思い出してもらいたいのが学校の先生だ。授業中に時々冗談を混ぜる先生は生徒から人気があった。その点、本田も90分の“サッカー講義”で戦術やフォーメーションなどを真面目に話しながら、たまにギャグを放つ。スペイン戦では副審に対して「オフサイ! 遅いね、オフサイ」と怒った直後に「俺がラインズマンやろうか?」と冗談を言った。緊張と緩和のギャップで視聴者の心を掴んでいた。

<名言7>
「7分!? これ前も同じこと言った気がするわ。ウソやん! 長いって」(後半45分)

  アディショナルタイムの分数を聞くと、本田は絶叫しながら自分に突っ込んだ。グループリーグ初戦のドイツ戦でも「7分!? 7分もある??」と声を裏返していた。スペイン戦では驚いた4分後、「根性や、こっから。(アナウンサーの「もう完全に気持ちですね?」に対して)そりゃそうでしょ、ここまできたら」と発言。この情熱さと普段の冷静さが本田解説の1つのキーポイントになっている。

<名言8>
「ちなみに、次どことやるんですか?」「出れへんの誰?」(試合終了直後)

 勝てば喜び、負ければ悔やむ。一喜一憂するなと言っても、人間誰しも感情がある。本田も試合中、時に「ナイス!」「イエス!」と情緒を溢れさせている。しかし、勝っても負けても試合が終わると、すぐに感情を消す。スペイン戦でも「よし! よっしゃ〜」と喜んだのも束の間、10秒ほどで次戦を気にした。何があっても、すぐに前を向いて切り替える姿勢はサッカー選手だけでなく、数多の日本人に好影響を与えるだろう。

論理性×誰に対しても本音×ギャグ=本田解説

<名言9>
「(伊東純也の惜しいシュートに)決まらなくて良かった。早過ぎます」(前半7分)

<名言10>
「(日本2点目のVAR中に)決まってないほうがいいという考え方もできます」(後半5分)

 日本のゴールが決まらなくて良かった……その言葉だけを切り取れば大騒動に発展しそうな発言なのに、どうして本田は炎上しないのか。

 ここまで見てきたように、視聴者を唸らせるだけの論理的な解説がベースにある。「本田さんが言うなら、そうなんだろう」と思わせるバックボーンがあるのだ。そして、自分の損得を考えず、誰にも忖度せずに本音でぶつかり合うので、信頼される。それらの基本線があった上で、時折ギャグを混ぜるため、親しみを覚えられる。この3要素が複合的に絡み合っているからこそ、炎上しないのではないか。

ほかにも…「また聞きたくなる」理由

<名言11>
「拓磨! おまえ、サイドいけって! 真ん中じゃなくって」(後半46分)

 本田の解説には7の論理に対して、3の感情がある。スペイン戦では「よしよしよし!」など喜びを爆発させるだけでなく、FW浅野拓磨に「ファールもらえ! 相手引きずりながら」(後半50分)と叫ぶこともあった。喜怒哀楽をハッキリ表現するため、視聴者の心に響くのだ。理論的な語り口が反響を呼んでいるが、3割の感情が戦術解説をより聞きやすくしている。

<名言12>
「監督って、我慢大事なんだなと改めて勉強になりました」(試合後)

 試合後に日本のスタジオとつながると、本田は5バックでスタートした作戦がハマったことについて、「1試合目、2試合目、僕は割と森保(一)さんの采配に否定的だった」と話した上で、「この3試合目は認めざるを得ない。本当に素晴らしい。しかも、三笘(薫)さんを前半から使わずに、やっぱり後半から使う。僕だったら(三笘をスタメンで)頭から行ってたんで。でも我慢した」と森保監督を称えた。「采配に否定的だった」と触れなくてもいい部分にあえて言及し、「勉強になりました」と総括した。

悲鳴→歓喜「クロアチア戦の解説が本田さんに変わってる!」

 日本が決勝トーナメント進出を決めた当初、クロアチア戦(1回戦)のABEMAの放送概要に「本田圭佑」の記載はなかった。それに対してSNS上では「本田さんの解説じゃない……」という悲鳴が相次いでいた。そうした反響の大きさからABEMAが急遽変更した(!?)のか、3日朝に「解説:本田圭佑」の名前が出現! この一連の事態に「解説が本田さんに変わってる!」「ABEMAありがとう」といった歓喜の声が挙がっている。

 日本サッカー史上初のW杯ベスト8へ――サッカーの奥深さを教えてくれるケイスケ・ホンダの『サッカー講義』に耳を傾けながら、熱い声援を送りたい。

文=岡野誠

photograph by Getty Images