ドイツ戦に続きスペイン戦でも劇的な逆転勝利をあげ、サッカー日本代表が2大会連続で決勝トーナメントに進出した。ベスト16で対戦するクロアチアは、前回大会で準優勝を果たした東欧の強豪だ。
ルカ・モドリッチをはじめ、確かなクオリティと経験を兼ね備えた相手に、日本はいかに立ち向かうべきなのか。元日本代表MFの中村憲剛氏が、クロアチアとの戦いを展望する。(全2回の2回目/前編へ)
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川崎フロンターレ勢の活躍と同様に馴染み深いのが、森保一監督の5-4-1(3-4-2-1)です。サンフレッチェ広島を指揮していた当時のシステムで、現役時代に対戦相手として何回も戦った僕にとっては既視感を覚えるものです。
守備時は5-4-1で自陣にブロックを作り、密度を濃くして中を締め、プレッシャーが届かないところ、つまり相手のどこを捨てるのかもはっきりしていた。プレスの肝になる1トップの守り方も、しっかりと落とし込まれていた。
かつて苦しめられた“森保流”の緻密なブロック
フロンターレ在籍時に対戦相手としてよくやられた戦い方だったので、スペインの選手たちの気持ちは想像できます。とくに逆転された後にやりにくさを感じつつも、緻密に築かれたブロックに突っ込んで攻め続けなければならない感覚は、僕にはとてもよく理解できるものです。
逆転した日本からすれば、自分たちの守備網にかかってくるスペインの攻撃は、ほぼ想定内だったと思います。
逆転後の森保監督のベンチワークも見事でした。日本がリードしたことでスペインが交代カードを切ってくると、69分に鎌田大地を下げて冨安健洋を入れ、5バックの右ウイングバックに置きました。直前にスペインの左サイドバックはジョルディ・アルバに代わり、左ウイングにはアンス・ファティが入ってきたのを見たうえでの冨安の起用だったと思いますが、完璧にフタをすることができました。冨安の守備力と戦術理解度の高さに脱帽でした。
左サイドの三笘薫の守備も、特筆に値するものでした。ディフェンスの1対1でもほとんど対応できていたので、非常に頼もしかったのと同時に、少し驚きました。フロンターレでは鬼木達監督に守備のところはつねに言われていましたし、昨シーズン所属したユニオン・サンジロワーズでウイングバックを任されたことが、彼のプレーの幅を広げ成長を促し、今回のW杯で生かされていると感じます。
強豪国でも5バックはなかなか崩せない
振り返ればドイツ戦とコスタリカ戦のシステム変更は、ギャンブル的な要素があったと思います。ドイツ戦は前半に圧倒されたことで、その劣勢をひっくり返すためにリスクを冒してシステムを変更して勝負に臨みました。追加点を奪われかねないシーンをどうにかしのぎ、スキをついて得点をして勝負に勝った感覚でした。
スペイン戦は前2試合の反省を生かし、出た課題を修正し、チームで守備のスタートラインやメリハリの効いたプレスなど、「こうなったらこうしよう」というイメージが共有できていたと思います。
今大会で各国の戦いぶりを見ていると、5レーンやポジショナルプレーの概念を標準装備したクラブでプレーする選手が、各国に多く存在します。その選手たちをベースに監督がシステムと戦術を決め、采配をふるうチームが増えています。
ただ、クラブチームほど練習時間を確保できない代表チームの場合、5バックでしっかりとブロックを組んできたチームを崩すことに苦戦しているチームが多い印象があります。コスタリカと対戦した日本がそうでしたし、日本と対戦したスペインもそうでした。もちろん、すべての試合がそうではありませんが。
言い方を変えると、意志の強い5バックによる守備が攻撃の質を上回っていると思います。スペイン戦の日本は、先制されたもののパニックにはならなかったと思います。チームとしても、個人としても、この3試合で戦い方の成長と積み上げを読み取ることができました。
強力な中盤と多彩な攻め手を持つクロアチア
さて、素晴らしく衝撃的なグループリーグの結果、ラウンド16ではクロアチアと対戦します。
ルカ・モドリッチやイバン・ペリシッチをはじめとした前回大会準優勝のメンバーが残っていて、経験豊富なチームです。グループステージの最終戦ではベルギーにかなり押し込まれましたが、しぶとく戦い抜いてドローへ持っていきました。
大会4試合目になります。互いに分析をして臨みますが、想定外のことは起こるでしょう。ただ、ドイツ、スペインと対戦した日本は、ヨーロッパの国との対戦に慣れている。それはプラス材料にあげられると考えます。
クロアチアは4-3-3のシステムでロジカルに攻めてくる部分と、アドリブを高レベルでつなぎ合わせて崩してくる部分の両方を持ち合わせています。その中心であり、肝なのはモドリッチ、マルセロ・ブロゾビッチ、マテオ・コバチッチの中盤3人です。
彼らが相手を見てボールをしっかりと動かし、攻め筋を柔軟に変えて、前後の選手たちをうまく動かしていきます。3人を中心としたパスワークは非常に巧みですが、それだけに縛られず、前線にいるマルコ・リバヤ、アンドレイ・クラマリッチら強さのある選手を活かしてシンプルに長いボールやサイドからのクロスを入れてくることもあります。
基本的にはボールを保持したいチームですが、相手にボールを渡した上でのハイプレスからのショートカウンターや、自陣でしっかり守ってのカウンターも繰り出します。戦い方はとにかく多彩です。スペイン戦とはまた違う集中力を求められると思います。
日本は板倉滉が累積警告で出場できません。彼の欠場は残念ですが、冨安、吉田麻也、谷口彰悟の3バックでも十分に対応できるはずです。
クロアチアは4-3-3なので、スペイン戦のように5-4-1で臨んで前半は我慢をして、後半勝負へ持っていくか。あるいは4バックで臨むのかは、メンバーリストを見るまでは分かりません。どの戦い方で臨むにしても、ノックアウトステージは延長戦があるので、交代選手を送り込むタイミングが非常に繊細で大事になってくると思います。
グループステージでジョーカーとなった堂安律、三笘、浅野拓磨らを、どのような状況で、どの時間帯に起用するのか。森保監督のベンチワークが、さらに重要になると思います。
「現代表は26人全員が当事者意識を持っている」
いまの日本には一体感があります。スタメンの選手が頑張り、途中出場の選手が試合を動かす。一人ひとりが献身性と犠牲心を胸に宿し、勤勉にタスクを遂行する。みんなでバトンをつないで、リレーをして、勝利を手繰り寄せています。26人全員が、当事者意識を持って戦っていると感じます。
僕が出場した2010年の南アフリカW杯のチームに似ているな、と感じます。あのチームも川口能活さんや楢﨑正剛さん、中村俊輔さんらの経験者がベンチからチームを盛り上げて、全員で戦う雰囲気が作られていました。
ここまでベスト16が最高成績の日本ですが、このクロアチアとの一戦が、まだ見ぬ景色、新しい景色を見るための大一番となりました。あの厳しいグループステージを抜けた自信と勢いをそのままクロアチアにぶつけ、総力戦で勝利し、歴史を塗り替えて欲しいと心から願っています!
みなさんもこれまでで一番の応援を送り、日本代表を後押ししましょう!
頑張れ! 日本代表!
<前編から続く>
文=中村憲剛+戸塚啓
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