“流しのブルペンキャッチャー”として全国各地、数多くのアマチュア選手を取材してきた筆者。「ちょっと早すぎるドラ1候補ベスト3《社会人編》」として、来秋ドラフトで注目される3選手をレポートする。【全2回/大学生編も】
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「ちょっと早すぎる2023年ドラフト1位候補報告」社会人編は、主にこの秋の「社会人野球日本選手権」からのレポートになる。
10月のドラフトで1位指名を受けた社会人投手は、ヤクルト1位の吉村貢司郎投手(東芝)だけ。しかし2位で、楽天が小孫竜二(鷺宮製作所)、ソフトバンクが大津亮介(日本製鉄鹿島)、横浜DeNAが吉野光樹(トヨタ自動車)を指名したのを皮切りに、それ以降も、8人の社会人投手が指名され、めぼしいところは獲り尽くされてしまったか……とも思ったが、来季2年目、3年目を迎える社会人ルーキーたちが何人も、頼もしく台頭してきている。
スカウト「今年だって2位指名はありえた」
■社会人編【1】三菱重工West・竹田祐投手(23歳)
JFE西日本を6回2死までパーフェクトに抑えて、結果、2安打1四球で完封してしまった【1】三菱重工West・竹田祐(23歳・184cm90kg・右投右打・明治大)は、学生当時から「勝てる投手」の要素があった。
先発のスタートから持てる実力をフルに発揮して、危ないボールをほとんど投げない。この試合でも、そのまんまの彼の特性に、学生時代、「あればいいのにねぇ……」とスカウトたちが残念がっていた「スピード」のアベレージが5キロほど上がっていた。150キロ超も出るようになり、一気に社会人有数の存在にレベルアップしている。
打たれない理由は2つ。
まず、リリースまでボールを見せない「意地悪さ」。「大学生の部」の東北福祉大・後藤凌寿投手と同じ、体の右側線に沿ったテークバックとリフトアップから、半身の姿勢を維持したまま踏み込んで、体の左右を一気に切り返すフォームのメカニズム。右投手で、こんなにリリースの見にくい投手もいないだろう。
併せて、140キロ後半の速球、カットボール、スライダー、カーブにフォーク系……持ち球のすべてをコンスタントな球威と精緻なコントロールで投げ続けられる再現性の高さ。ピンチの場面で、打者の目から最も遠いポイントにビシッときめる150キロ前後は、すでにしてもう、立派に「プロのボール」に違いない。
「明治(大)の時だって、上位ならプロでしたから。今年(のドラフト)だって、2位ぐらいはあったでしょう(※)。社会人の強豪相手に3球か4球で、簡単にアウト取ってますよね」(※指名条件を満たすのは2023年ドラフトから)
ドラフト後だから、スカウトの「評価」もなまなましい。
「清宮を悔しがらせたピッチャー」
■社会人編【2】トヨタ自動車・松本健吾投手(23歳)
社会人球界の老舗・パナソニックを相手に1安打完封したのが【2】トヨタ自動車・松本健吾投手(23歳・180cm80kg・右投右打・亜細亜大)。内野安打と四球が1つずつ……結果として、ほとんどパーフェクトゲームに近い快挙といってよい。
私にとって、松本健吾といえば「東海大菅生の松本健吾」だ。
当時、おそらく東・西東京合わせてNo.1右腕。同期・清宮幸太郎(早稲田実業、現・日本ハム)と3年夏の西東京大会で対決した試合の投げっぷりは、今でもはっきり私の記憶の中に刻まれている。
内角を巻き込むようにして打つ清宮選手のクセを見抜いているように、速球とスライダーで懐をきびしく突いて一塁方向にファウルを打たせてカウントを稼ぎ、一転、外に速球かツーシームのようなボールを配して打ちとる。描いた「ストーリー」通りに打ちとって、そのたびに、清宮選手が悔しがる。
もう5年も前の情景がそっくりそのまま、目の前の京セラドームのグラウンド上で展開される。
アベレージでほぼ140キロ後半。翌日の報道では自己最速150キロを2キロ更新したという。高校時代は140キロ前半がアベレージだったから、亜細亜大で4年、トヨタで1年、共にアマ球界の最高峰で薫陶を受けた成果は絶大だった。
「亜細亜では、先発で2年秋から投げてましたが、故障やら何やらで『ドカン!』といった実績らしいものはなかった。でも、あのバランスでしょう……変化球も上手だし、社会人で良くならないわけがないと思ってました、投手としての形がいいですよ」
こうしたスカウトの見方に共感する人は多い。
この春の社会人野球東北大会。早めの勝負で打ちとろうとした松本健吾投手。ストライクを集めすぎて、TDK打線に打ち込まれ5回途中4失点で降板も見ている。しかしその2カ月半後、今度は都市対抗野球の本番で、同じTDK打線を後半の4イニング、わずか39球で4奪三振のパーフェクトリリーフ。
この時の投球テンポとコントロール、ホームベース上の速球、変化球の鋭い動きが素晴らしかった。試合後半で、ボールの動きに慣れてきたはずの打者12人、誰一人としてジャストミートできた者はいなかった。
この試合が「ターニングポイント」になったのではないか。
“ヤクルト1位指名”に続けるか?
■社会人編【3】東芝・藤村哲之投手(23歳)
この秋、マウンドでの立ち姿が変わった。何かをつかんだ投手は、打席に入ってくる打者をマウンドから見下ろせるようになる。打者の様子をジッと見つめて、文字通り、打席に迎え入れている。
マウンド上の支配感。投手としてのステイタスが、1つ上がったように見える。
日本選手権、鷺宮製作所を8回途中まで4安打無失点に抑えた【3】東芝・藤村哲之投手(23歳・180cm86kg・左投左打・横浜商科大)のピッチングには驚いた。
べつに初めて驚いたわけじゃない。
夏の都市対抗、初戦・北海道ガス戦で0対1の緊迫した後半7回にリリーフ登板。もう1点もやれない状況で、3イニングを6奪三振のパーフェクトリリーフをやってのけたその試合だって、立派になったもんだなぁ……と嬉しかったものだ。
試合途中まで好投しながら、後半に崩れてなかなか勝てなかった大学時代を知っているからだ。
素質を見込んで手元に置いただけに、横浜商科大・佐々木正雄監督(当時)の期待は大きく、応えようとする藤村投手は、ここ一番の場面で気迫が空転することも少なくなかった。
「自分の力が足りないからです……」
それしか言わずに、泣いていた。
社会人球界の大舞台で快投を繰り返せるようになった今でも、「150キロ」みたいな凄いボールはない。その代わり、滑ってくるような独特のクロスファイアーに、学生当時から切れ味鋭かったスライダーにチェンジアップ。
「これでどうだ!」と自信を持って投げ込める熱い心意気が、そのピッチングに満ちる。
気迫で打者を圧倒できるようになったのは、積み重ねてきた苦しい記憶があったからだろう。こうなったら、人間は強い。
3日後のトヨタ自動車戦では、劣勢の9回のリリーフで、今度は3安打を浴びて2失点。ちゃんと「宿題」も持って帰った。
東芝は、3年目のエース・吉村貢司郎投手がプロに進む(ヤクルト1位指名)。そのあとを継いで、来季は東芝投手陣の屋台骨を支えながら、藤村哲之自身もプロを目指して、正念場の「3年目」を迎える。
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今回、このコラムに挙げた3人の快腕たちは、社会人投手としては、まだ「かけ出し」の若者たちに違いない。
この先、プロ球界から確かな信頼を得るために彼らに必要なのは、1年間ムラのない実績を残せるための「コンスタントな実戦力」であろう。
唯一無二ぐらいの存在になっている来春、盛夏を、心から楽しみにしている。
<大学生編から続く>
文=安倍昌彦
photograph by Sankei Shimbun