「昨年のホーム最終戦、満員の横浜スタジアムのマウンドに上がったとき、すごく幸せだなって感じたんですよ。地元ですし、ずっと育ってきた街。ここで結果を出していかなければと強く思いましたね」
横浜DeNAベイスターズの石川達也は、少しだけやんちゃな表情を浮かべそう語った。
3年目のリリーフ左腕。神奈川県横浜市出身、名門の横浜高校から法政大学を経て2020年のドラフト会議で育成1巡目指名を受け入団をした“地元の星”。2年目の昨年6月に支配下選手登録を勝ち取り、またファームでは22試合に登板し2勝1敗2セーブ、防御率1.10という成績を挙げ、イースタン・リーグ優秀選手賞に選出された期待の若手投手である。
石川が悔しそうに振り返る“一軍の洗礼”
「支配下選手登録されたときは素直に嬉しかったですね。欲を言えば1年目で支配下に上がるのが目標でしたが、時間が掛かりながらも成長できた日々だったと思います。特に投球のテンポアップであったり配球の組み立てなど学ぶべきことは多くありました」
だが一軍の壁は厚く、昨シーズンは3試合に登板し、5回1/3、7四球、防御率8.44とプロの洗礼を浴びた。
「ファームの試合で出せていたことが、一軍では全然発揮できませんでした……」
負けん気が強そうな表情。悔しさをにじませる石川だが、7月に一軍に昇格するとブルペンの雰囲気を肌で感じることができた。そこで石川は百戦錬磨の先輩たちからプロとしてあるべき姿勢を学んだ。
ブルペンの山﨑からかけられた言葉
「オンオフの切り替えというか、名前が呼ばれるまで完全にオフモードなんですけど、名前が呼ばれた瞬間に目の色がガラッと変わる。また肩を作る準備をしていても、先発が抑えてしまうと『ナイスカバー!』の声掛けで終わることもあるんですけど、それを4〜5回繰り返して、いざマウンドに行くとしっかりと自分の仕事をして帰ってくる姿は本当にすごいなって。僕も見習わないといけない」
右も左もわからないルーキーのような状態で心強かったのが先輩たちの言葉だ。よくブルペンで声を掛けてくれたのは守護神である山﨑康晃だった。石川のプロ初登板は7月14日の広島戦(マツダ)だったのだが、当初登板予定だった東克樹の体調不良により、突然巡ってきた先発でのチャンスだった。
「ヤス(山﨑)さんからは『マイナスになることないし、もうプラスしかない。こういう経験はなかなかできないから思いっ切り楽しんで投げてこい』と言っていただけたのが心に残っていますね」
今永からのメッセージ“抑えても抑えなくてもそんなもん”
興奮と不安が入り混じったプロ初登板、ピッチングにおける心の置き所を指南してくれたのはチームのエースである今永昇太だった。
「今永さんは試合前に『“抑えても抑えなくてもそんなもん”という気持ちで行けばいい。例えばフォアボールを出して“俺はこんなもんじゃない”とか余計なことを考えることなく、“そんなもん”って思いながら投げれば自然といいピッチングができるから』と言われ、落ち着いて投げることができました」
自信になった秋山翔吾との対戦
この試合、石川は先発として2回1/3を2失点で終えている。「試合を壊さずよかった」と安堵の表情を浮かべたが、初回は切れのあるストレートを武器に野間峻祥、秋山翔吾、マクブルームを打ち取った。
「一番印象に残ったのは秋山さんとの対戦ですね。1打席目を真っすぐでセカンドフライに打ち取ることができ、メジャーを経験した方に通用したのは自信になりました。もちろん反省点もあって、これは普段と違うなと思ったのは、3回の菊池(涼介)さんの打席でした。1打席目の菊池さんは一度もバットを振ることなくフォアボールだったんですけど、2打席目は初球の真っすぐを一振りで仕留めてツーベース。変化球がいまいちだったのを見越した狙いすましの一撃でしたし、ファームではこういう経験がなかったので勉強になりました」
隙あらば刈られる。この世界は決して甘くない、と感じた菊池との対戦だった。
石川が今後、必要と感じた“ある能力”
その後、石川は8月7日の中日戦(バンテンリン)と10月2日の巨人戦(横浜)で登板。苦しい場面も散見したが、140キロ台半ばのストレートが冴え、しっかりと要所を抑えるピッチングを披露し、さらにビルドアップできれば十分に戦力になることを窺わせた。
特にストレートに関しては、法政大学の先輩であり同じ左腕の石田健大が「エグいボールですよ」と太鼓判を押す。しかしながら、もう少し出力があればと感じてもしまう。そう尋ねると石川は頷きながら言った。
「たしかにリリーバーをやるのであれば、もう少しスピードが欲しいかなと思いますが、昨年一軍を経験して理解したのは、もっと制球力が必要ということです。たとえば石田さんしかり、(田中)健二朗さんは、僕と球速はさほど変わらないのに、両コーナーをしっかりと突いて抑えてくタイプなので、僕もそこを目指すべきなのかなって」
1年間戦える体を作らなければいけない
与四球の多さを考えてもコントロールの改善は必須だ。また変化球はチェンジアップ、カーブ、カットボールが持ち球となる。特にチェンジアップはストレートとのコンビネーションが有効であることがわかったという。
「チェンジアップは真っすぐと上手く組み合わせればそう簡単には捉えられないと感じました。カーブもカットも十分使える手応えもありましたし、これもまた制球力が重要になってくるので、このオフはそこを徹底的にやってきました」
昨年10月に開催された『みやざきフェニックス・リーグ』では、課題を洗い出してマウンドに立ち、成果を得ることができたと石川は振り返る。
「フェニックス・リーグでは球数のマネジメントやテンポアップ、フルカウントから変化球でストライクを取ることを課題にしていたのですが、広島戦で西川龍馬さんから3打席ノーヒットで抑えることができ、そこは自信がつきましたね。あとは1年間戦える体を作らなければいけないと、オフはウェイト・トレーニングを頑張ってきました」
ドラフト同期&同い年の牧、入江はどういう存在?
石川はよく「テンポアップ」という言葉を口にするが、ファーム時代はもちろん、一軍に帯同されても木塚敦志投手コーチから「キャッチボールからテンポアップを意識していこう」と指導されてきた。
「相手に考えさせる時間を与えないのもそうですけど、僕は一軍では敗戦処理から入ると思うので、負けている場面こそテンポアップして、いいリズムで攻撃に繋げられればなって。今季はそういうピッチングを意識していきたいですね」
勝負の3年目。近くには頼りになる先輩たちに加え、ドラフト同期の牧秀悟や入江大生がいる。石川にとって同じ歳の彼らは、かけがえのない存在だ。
「同期の大卒3人のなかで僕だけが出遅れてしまったんですけど、やっぱり負けたくないし、しっかり追いついていかなければいけない。入江も牧も、僕が支配下選手登録される前は、会うたびに『がんばれ、がんばれ!』と励ましてくれたんですよ。一軍に上がってからも入江にはブルペンのこと、牧にはチーム全体の動きなどを教えてもらって早々に馴染むことができました。とにかく遅れを取り戻し、チームに貢献できるピッチングをしたいですね」
意気軒昂な様子で石川は語った。
いつか“石川がいれば大丈夫だ”と思われる投手になりたい
現在のDeNAのブルペンを見ると主なサウスポーはエドウィン・エスコバーと田中健二朗しかおらず、石川に掛かる期待は大きい。目標は50試合登板だ。
「昨年よりも成長していないと一軍では通用しませんし、決して調子に乗ることなく、上を目指して結果を残していきたいと思います。そしていつか先輩たちを超え『石川がいれば大丈夫だ』と思われるようなピッチャーになりたいですね」
1月の自主トレでは山﨑康晃や三嶋一輝、石田健大、伊勢大夢ら先輩たちの練習に参加し、多くを学び一軍で活躍するためになにが必要かヒントを得た。先輩たちから可愛がられる性格であり、またデビュー戦や初めてのハマスタ登板でもほとんど緊張しなかったという強心臓の持ち主。今季のブルペンのキーマンに果たしてなることはできるのか、この地元横浜出身の若き力に期待したい。
文=石塚隆
photograph by Sankei Shimbun