九州新幹線「つばめ」で博多駅からおよそ25分、3つ目の停車駅・筑後船小屋で下車して徒歩5分。そこにソフトバンクのファーム拠点「HAWKSベースボールパーク筑後」はある。

12年前に「三軍制」導入。そして…

 メイン球場のタマホームスタジアム筑後、すぐ隣にはホークススタジアム筑後第二もそびえ立ち、さらに同パーク内には巨大な屋内練習場、クラブハウス、そして若手選手のための「若鷹寮」も備わっている。

 現在、その若鷹寮の駐車場として使われていた敷地では大掛かりな工事が進行中だ。

 選手寮ならびにロッカールームの増改築が行われており、今夏にも完成する見込みとなっている。

 チームはかつて福岡市東区の雁の巣球場をファーム本拠地として使用し、そこから車を15分ほど走らせた同区西戸崎に選手寮や屋内練習場などを持っていた。しかし、2011年から三軍制を導入したことで手狭になり、移転先を公募した結果、16年3月より現在の筑後市に育成拠点を構えるようになった。

 まだ移転8年目。それなのに、巨大な筑後のファーム拠点もまた選手たちでギュウギュウになってしまった。

今季から「四軍制導入」の意図

 ソフトバンクは今季から、球界初の「四軍制」を本格導入する。

 それに伴い2年前の21年シーズンには約90名だった選手保有数を、四軍制準備期間だった22年に約105名、今季は122人見込み(球団発表)と、わずか2年で大幅に増やした。ちなみに今季は三、四軍の試合だけで229試合を組む予定だというから驚きだ。

 いまや育成大国ともいえるソフトバンクのチーム編成責任者である三笠杉彦GMは、傘下にトリプルA、ダブルA、シングルA、ルーキーリーグと段階式のマイナーチームを抱える米メジャーリーグ(MLB)の構図が念頭にあることを明かしている。そのうえで今回の四軍設立について「まずはレイヤー(階層)としてシングルAレベルの四軍をつくるということ。まだ拡大するかもしれないと思いつつも、それがチームの強化にもつながる」と説明した。

 もともと、ソフトバンクはMLBに強い対抗意識を燃やしていた。球団スローガン「めざせ世界一!」は、05年に前身のダイエーから親会社が移り変わった初年度から現在まで一貫している。今季の「鷹!鷹!鷹!(おう!おう!おう!)」や昨季の「もっと!もっと!もっと!」はあくまでシーズンスローガンであって、ソフトバンク球団としての骨太の方針は「世界一のプロ野球チームを目指し、メジャーリーグのチームに勝てるような球団を作る」こと。メジャーリーグ王者と真の世界一決定戦を行う夢は、今もずっと持ち続けている。

 球団運営や規模もメジャー流へ。

 その第一歩が三軍制だった。その三軍「1期生」だった千賀滉大や甲斐拓也、牧原大成はチームの主力へと成長し、球界トップレベルの選手へと大きく羽ばたいた。石川柊太や周東佑京、大関友久らその後の育成ドラフト出身選手もまた、現在のチームの骨格を担う存在となっている。

 ならば、今回の四軍制導入は、ソフトバンクが行うメジャー流チームづくりが「第2フェーズ」に突入した証だといえる。

 今オフの球界の主役とも言われた史上最大規模の大型補強もその一環だ。日本ハムからFAだった近藤健介を「7年総額50億円」とも推定される破格の条件で獲得したのをはじめ、守護神候補としてロッテのリリーバーだったロベルト・オスナ、先発候補では有原航平(前レンジャーズ)、ジョー・ガンケル(前阪神)と、いわゆる“計算できる”選手を次々に補強した。

育成選手多数…なのに大型補強はなぜ?

 大型補強についてはいつの世も非難がつきまとう。特にソフトバンクの場合、次のように指摘する声も少なくなかった。

 育成大国でありながら大型補強を行うのは矛盾するのではないか――。

 それに対して「今回の補強は改めて申し上げますが、育成のための補強でもあるということをぜひ申し上げたい」と真っ向から否定したのはオーナー代行兼球団社長の後藤芳光だった。年初の鏡開きの際に報道陣の取材に次のように応えた。

「ホークスは当初から10連覇を目標にしてきました。今季を起点に、それを達成できるチームにしたい。その観点から『10年の計』だと考えています。今年のルーキーは高卒ならば18歳。10年後に28歳です。その頃、彼らに主力になっていてほしい。また、現在の若手と呼ばれる『準・主力』の選手たちは必死に努力しているところです。彼らは今回の補強で入団した(近藤ら)選手を見ながら、その上を行かないとレギュラーになれないと考えるはずです。厳しいようですが、それを乗り越えないと本当に力があるレギュラーになれないわけで、つまり補強こそが選手の育成であるというのが私達の信念なのです。過去の歴史もそれを証明してくれていると思っております」

 たしかに、かつて千賀滉大が背番号128だったルーキー時代を振り返って、こんなことを話していた。

「僕の1年目には和田(毅)さんや杉内(俊哉)さん、攝津(正)さんとか錚々たる顔ぶれが一軍にいた。自分が支配下登録されて一軍で活躍するためには日本代表クラスの力をつけないと、このチームでは無理だと思った。だから僕は最初からそれ以上のレベルを目指して頑張らなきゃと思うことが出来ました」

 また、ソフトバンクの近年のドラフト戦略を改めて考察しても、この球団がメジャー流チーム作りを目指していることがうかがえる。

「即戦力が少ない」…今わかったドラフトの意図

 ファーム(マイナー)でじっくりと鍛え上げてから一軍戦力へ。

 そのため、四軍構想が持ち上がった20年以降の3度のドラフトはいずれも将来性重視だ。1位指名は井上朋也(内野手/花咲徳栄高)→風間球打(投手/ノースアジア大明桜高)→イヒネ・イツア(内野手/誉高)と高校生が並ぶ。昨シーズンの野村勇(21年ドラフト4位/NTT西日本)のようにルーキーイヤーで10本塁打、10盗塁と活躍したケースはあったが、即戦力は求めていないドラフト戦略に見える。

 今年のルーキーは特にその傾向が強い。2位入団の大津亮介は大学・社会人を経ての入団であるものの見るからに線が細い。ただ、ワンシームを操るなど本人曰く「細分化すれば、10種類以上の変化球を投げられる」という器用さを持つ。モデルケースは板東湧梧だ。

 3位の甲斐生海(登録名・生海/東北福祉大)は身内の不幸が重なるショックで大学生活の半分ほど野球から離れていたが、長打のポテンシャルを見込まれて指名された。5位の松本晴(亜細亜大)は大学3年春にトミー・ジョン手術を受けており、昨年は回復途上だったにもかかわらずスカウトの目に留まった。

 大津、生海、松本の3名は春季キャンプA組スタートが決定しており、開幕一軍の可能性も十分あるが、「ルーキーに働いてもらわないと困る」というチーム状況では決してない。

 桁違いの「本気度」は大型補強だけにとどまらないソフトバンク。未知数な四軍制、道半ばであるメジャー流がどんな成果をもたらすのか、それらの起点となる23年シーズンは球団の将来を左右する一年となりそうだ。

文=田尻耕太郎

photograph by JIJI PRESS