中日の根尾昂にとって5度目のスプリングキャンプは、投手転向後、初めて迎える球春でもある。すでに発表されている一、二軍の振り分けでは、沖縄県読谷村での二軍キャンプからのスタート。ただし、それはまったく悲観材料ではない。立浪和義監督は「あえて」だと説明した。

「先発でやる以上、必要なことはたくさんある。二軍でじっくりとやって、よければ候補となるので」

 野手からシーズン中に転向した2022年は25試合、29イニングを投げ、22三振を奪った。防御率は3.41。ただし、先発はシーズン最終戦だった10月2日の広島戦(マツダスタジアム)のみ。それも3イニングでとどめたのは、長いイニングを投げたことがない根尾の故障リスクを考えたためだ。高校時代も野手に比重を置いていた中で、入団4年目での新境地。十分に一軍クラスの打者にも通用することは証明できたが、今シーズンは第2章が始まる。

 投球の9割以上をストレートとスライダーで占めるスタイルは、リリーフだからこそ。先発では少なくとも100球、5イニング以上は投げなければならない。必然的に球種を増やしたり、ペース配分、駆け引きを覚える必要がある。投手としての経験値が絶対的に不足しており、まずは二軍で先発投手としての足場を固めるのだ。

動作解析に投げ込み…超精力的な自主トレ

 投手・根尾の第2章は、沖縄から始まるわけではない。もう始動済みである。昨年12月には米国シアトルに飛び、メジャーリーガー御用達のトレーニング施設「ドライブライン」で投球動作を徹底解析。年明けには山本昌や岩瀬仁紀といった中日のレジェンドが通い詰めた、鳥取市のトレーニング研究施設「ワールドウィング」にも足を運んだ。その後は名古屋市内の球団施設を中心に自主トレを継続しており、屋内とはいえブルペンでの100球以上の投球練習を何度もこなしている。通常の投手よりはるかに早いペースであり、投球数だ。

「球数が増えていっても、しっかりと腕を振れるようになっていると思います。キャンプでもたくさん投げることだけが目標ではないですが、かなりの数はいけるんじゃないかなと思っています」

 昨今の春季キャンプでは「投げ込む」という練習や選手がすっかり減ってきてはいるが、投球の基本は再現性にある。同じフォームで質の変わらない球をいかに投げ続けられるか。先発ならなおさらである。肩や肘の故障リスクに配慮することは当然としても、ある程度は「投げること」が再現性を高めるトレーニングとなる。それをこなせるフィジカルの強さこそが、根尾のストロングポイントでもある。

 球種ももちろん増えそうだ。150kmのストレートにスピン量が球界トップクラスのスライダーを軸に、カーブ、ツーシーム、スプリットを練習中。特にツーシームは食い込むシュートと沈むシンカーの中間のように変化する。昨シーズンの大谷翔平を例にとるまでもなく、先発投手にとっては打者を1球で打ち取るための必須アイテムである。

 くわえて注目すべきはブルペンでの投球テンポだ。捕手からの返球を受け取ると、すぐさまセットポジションに入る。隣で投げる同僚より先に終えても、数は根尾の方が多い。

「テンポはしっかり意識しています。相手に考える時間を与えないことにもつながると思うので」

 上原浩治がそうだったように「間」を支配できる投手を目指しているようだ。打者が思わず「待った!」と言ってしまいそうなほどのハイテンポは、立派な投球術であり武器となる。

同い年のドラ1・仲地の存在も刺激に

 新たな球種、意図的なテンポが打者との対戦ではどれくらい有効なのか。沖縄キャンプ中から始まる実戦は、いわば投手・根尾の第3章となる。その中で配球面など新たな課題も出てくることだろう。

 今シーズンのドラゴンズ先発陣は、大野雄大、柳裕也、小笠原慎之介を中心に、侍ジャパンにもチームでただ一人招集された高橋宏斗に加え、松葉貴大、移籍組の涌井秀章らが有力視されている。ここにドラフト1位の仲地礼亜を筆頭に、実力未知数の若手グループが割って入るという図式だろう。

 根尾と仲地は同い年。プロとしては根尾が先輩だが、先発投手として積んできた経験は現時点では仲地が上。しかし二軍戦で登板を重ね、投球術と勝負勘を養っていくことで、根尾は成長する。4年間をプロでもまれ、野手から投手となったことは、決して回り道でも無駄でもない。打者が嫌がる投手とは。ある意味で、それを最も知っているのが根尾の強みなのだから。

文=小西斗真

photograph by Shigeki Yamamoto