1月26日、3月に開幕するワールド・ベースボール・クラシック(以下、WBC)に出場する侍ジャパンのメンバー30人が発表された。
高橋宏斗(中日)、佐々木朗希(ロッテ)、宮城大弥(オリックス)など勢いのある若手が多く選ばれているが、その一方で実績のあるベテランは少ない印象を受ける。それを象徴しているのがこれまで球界を牽引してきた“88年世代”の選出がゼロだったという点ではないだろうか。
坂本勇人(巨人)、柳田悠岐(ソフトバンク)は現在の状態を考慮して自ら辞退したとも言われているが、代表入りを希望していた田中将大(楽天)には栗山英樹監督から直々に落選の電話があったことも大きく報じられている。
88年世代の選手が日本代表のトップチームに名を連ねたのは2008年北京五輪の田中が最初で、2010年代になると多くの選手が球界を代表する存在となった。主要な国際大会に選出された選手と昨シーズンの成績をまとめてみると以下のようになっている(所属は現在の球団)。
大卒、社会人組…層が厚かった“88年世代”
田中将大(楽天)
2008年北京五輪、2009年WBC、2013年WBC、2021年東京五輪
[代表通算]12試合 0勝0敗 20回被安打22失点7 防御率2.70
〈2022年の成績〉25試合 9勝12敗0セーブ0ホールド 防御率3.31
前田健太(ツインズ)
2013年WBC、2015年プレミア12
[代表通算]5試合 3勝1敗 27回被安打15失点3 防御率1.00
〈2022年の成績〉出場なし
大野雄大(中日)
2015年プレミア12、2019年プレミア12、2021年東京五輪
[代表通算]6試合 2勝0敗 9回2/3被安打9失点2 防御率1.86
〈2022年の成績〉23試合 8勝8敗0セーブ0ホールド 防御率2.46
澤村拓一(去就未定)
2013年WBC、2015年プレミア12
[代表通算]6試合 1勝0敗 5回1/3被安打5失点2 防御率3.38
〈2022年の成績〉49試合 1勝1敗0セーブ3ホールド 防御率3.73
石川歩(ロッテ)
2017年WBC
[代表通算]2試合 1勝0敗 7回被安打7失点6 防御率7.71
〈2022年の成績〉20試合 7勝7敗0セーブ0ホールド 防御率2.93
秋吉亮(千葉スカイセイラーズ)
2017年WBC
[代表通算]6試合 1勝0敗 4回1/3被安打2失点0 防御率0.00
〈2022年の成績〉2試合 0勝0敗0セーブ0ホールド 防御率13.50
會澤翼(広島)
2019年プレミア12
[代表通算]7試合 5安打0本塁打1打点0盗塁 打率.333
〈2022年の成績〉98試合 60安打3本塁打33打点0盗塁 打率.207
坂本勇人(巨人)
2013年WBC、2015年プレミア12、2017年WBC、2019年プレミア12、2021年東京五輪
[代表通算]32試合 37安打3本塁打18打点4盗塁 打率.294
〈2022年の成績〉83試合 87安打5本塁打33打点2盗塁 打率.286
秋山翔吾(広島)
2015年プレミア12、2017年WBC
[代表通算]12試合 12安打1本塁打5打点2盗塁 打率.267
〈2022年の成績〉44試合 41安打5本塁打26打点0盗塁 打率.265
柳田悠岐(ソフトバンク)
2021年東京五輪
[代表通算]5試合 5安打0本塁打2打点0盗塁 打率.250
〈2022年の成績〉117試合 120安打24本塁打79打点2盗塁 打率.275
石山泰稚(ヤクルト)、増田達至(西武)、松永昂大(元ロッテ)、梶谷隆幸(巨人)なども強化試合や予備登録メンバーで侍ジャパンに選ばれた経験があり、いかにこの世代が日本球界を牽引してきたかがよく分かるだろう。
田中、前田、坂本のように高校から高い評価を得てトップを走り続けてきた選手だけでなく、大学卒の大野、澤村、秋山、柳田、社会人出身の石川、秋吉も名を連ねているところも世代としての厚みを感じさせる。
88年世代の選出ゼロは妥当?
短期決戦や国際大会では経験豊富なベテランの力が必要という声も多いが、今回のWBCに88年世代の選手は本当に必要なかったのだろうか。
優勝を狙う上で大きな壁の1つとなるアメリカ代表のメンバーを見ても、カーショー(ドジャース/88年早生まれ34歳)、ウェインライト(カージナルス/81年生まれ41歳)といった実績のあるベテラン選手が多く選ばれている。
しかし結論から先に述べると、今回のメンバーに88年世代が不在なのは妥当と言えるだろう。一昨年の東京五輪でも田中、大野、坂本、柳田の4人が出場したが、主力として十分な働きを見せたのは坂本だけである。その坂本も昨シーズンは度重なる故障で成績を大きく落としており、他にも打撃が期待できる選手が多いということを考えても守備力がより高い源田壮亮(西武)をレギュラーとして考えるのは当然と言えそうだ。
坂本以外の3人も昨年の成績は決して悪いものではないが、全盛期と比べると力が落ちているのは明らかである。彼らよりも年齢が上で、WBCでの優勝経験もあるダルビッシュが選ばれたことで、経験枠が埋まったという影響もありそうだ。
88年世代で最も選出の可能性が高かったのは柳田だと考えられるが、冒頭でも触れたようにコンディションの問題から本人の意思で辞退したと言われている。この4人以外を見ても、昨シーズンの成績とプレーぶりを考えると、間違いなく代表チームに選ぶべきだという選手は見当たらない。メジャーで実績を残した澤村をリリーフでというのも考えられなくはないが、今シーズンの去就が決まっていない状況で選出するというのは現実的ではないだろう。
88年世代が侍ジャパンから姿を消したことに対して寂しさを感じているファンは多いかもしれないが、新たな世代が台頭してきたことは確かであり、日本球界の未来ということを考えると悲観する必要は全くないように感じられる。
山田哲人(ヤクルト)、甲斐拓也(ソフトバンク)らがいる“92年世代”が最多の4人の選出となったが、年齢的に今が旬な大谷翔平(エンゼルス)、鈴木誠也(カブス)に代表される“94年世代”、その下には山本由伸(オリックス)、牧秀悟(DeNA)、宇田川優希(オリックス)などの“98年世代”、村上宗隆(ヤクルト)、大勢(巨人)、湯浅京己(阪神)などの“99年世代”もここ数年存在感を増している。
そして今後さらなる台頭が期待できるのが佐々木朗希(ロッテ)、宮城大弥(オリックス)が牽引する“01年世代”だ。奥川恭伸(ヤクルト)、石川昂弥(中日)は怪我に苦しんでいるが、紅林弘太郎(オリックス)、西純矢(阪神)はチームに欠かせない存在となり、昨年は岡林勇希(中日)、長岡秀樹(ヤクルト)が大ブレイクを果たした。また今年のドラフト対象となる大学4年生は大豊作と評判で、投手では細野晴希(東洋大)、常廣羽也斗(青山学院大)、西舘勇陽(中央大)、松本凌人(名城大)、上田大河(大阪商業大)、野手では進藤勇也(上武大・捕手)、廣瀬隆太(慶応大・内野手)、上田希由翔(明治大・内野手)などが早くから高い注目を集めている。
88年世代のところでも触れたが、高校時代から評価が高かった選手だけではなく、大学や社会人で急成長する選手が多いのも豊作と言われる世代の特徴であり、そういう意味では01年世代が今後の球界を引っ張っていく可能性は高いだろう。少し気が早いが、3年後のWBCは世代間による出世争いにも注目が集まっている。
文=西尾典文
photograph by Yohei Osada/AFLO SPORT