W杯イヤーを経て、2月に開幕する2023シーズンのJリーグ。注目クラブのキャンプレポートを現地取材でお届けします。

 リーグ優勝を狙ううえで最も欠けていたものを、浦和レッズはようやく手に入れたのかもしれない。

 ひと言で言えば、継続性――。

 突き抜けた存在になるためのベース、と言い換えてもいい。

 浦和はこの十数年、フォルカー・フィンケ、ゼリコ・ペトロヴィッチ、ミハイロ・ペトロヴィッチ、堀孝史、オズワルド・オリヴェイラ、大槻毅……と監督が代わるたびに志向するスタイルがあちらへ行ったり、こちらへ行ったりして、なかなか安定しなかった。

 既存の戦力が新監督のスタイルと合わず、選手を大幅に入れ替えることも繰り返してきた。

 そうしたもったいない状況に終止符を打ち、スタイル構築とタイトル獲得を託すべくスペイン人のリカルド・ロドリゲス前監督を招いたものの、わずか2年で決別することになったときには、歴史はまた繰り返されるのかと思われた。

 だが、こうした悪しき慣習をいよいよ断ち切れそうなのだ。

気鋭のポーランド人指揮官は前体制のベースを…

 2023年シーズンの新監督として招かれたのは、ポーランド人のマチェイ・スコルジャ監督。ポーランドのヴィスワ・クラクフとレフ・ポズナンでリーグ優勝を4度経験し、自国の代表監督就任も期待される新進気鋭の指揮官である。

 新監督たるもの、自身のカラーを前面に押し出そうとしてもおかしくないが、沖縄キャンプでは前体制のベースをうまく引き継ぎ、チームを着実に前進させている。

 その引き継ぎ方は、まるで内部昇格の監督のようにスムーズだった。

「人の配置や人の動くタイミングは少し異なるところもありますが、ビルドアップを放棄せず自分たちがボールを保持して前進する姿勢は、これまでと変わらないですね」

 そう語ったのは、新体制でもチームの中心となりそうな、ボランチの岩尾憲である。

「まったく新しいサッカーをしている感覚はないです。ここは良いけど、ここは改善しないといけないっていうところを、監督は非常によく理解されていると思います」

「リカルド監督が良い仕事をしていたことが感じられた」

 なぜ、スコルジャ監督はスムーズにチームを引き継げたのか――。

 その理由は、指揮官自身が明かしている。

「日本に来る前に浦和の試合映像をたくさん見て、いろいろなアイデアを準備してきた。リカルド監督が良い仕事をしていたことが感じられた。その良いところは残していきたいと思っている」

 さらに、「レフ・ポズナンでやっていたことと同じルールを持ち込んでいるが、Jリーグに合わせていく部分も出てくる」という言葉を聞けば、柔軟さを備えた指揮官であることが分かる。

 スコルジャ監督の言う「良いところ」――それは、前任者が最もこだわりを持っていたビルドアップの部分だ。

 後方からのビルドアップは、ゴールキックも含めて昨シーズンまでの手法を取り入れており、例えば、ボランチが最終ラインに落ちてビルドアップをヘルプするサリーダ・ラボリピアーナを行うかどうかの判断も、状況に応じて選手たちに委ねられているようだ。

「練習ではビルドアップにも取り組んでいますけど、去年と重なる部分がかなりあるので、チーム全体としてその財産でやれているのは大きいですね」

 トップ下を務める小泉佳穂は、そう証言する。

 外国人の新監督は、若手の抜擢を含めて思い切った選手起用を行う傾向があるが、昨季のポジション内の序列が踏襲されている点からも、スコルジャ監督がこれまでのベースをいかに大切にしているかが窺える。

“準備してきたアイデア”で入念に取り組んでいるのは?

 一方、上積みとして真っ先に取り組んだのが、ハイプレスだった。「ハイプレスの回数を増やしたかった。早い段階で、ハイプレスをかけるときのルールを選手たちに伝えた」と指揮官自身も話しているから、“準備してきたアイデア”のひとつがハイプレスだったのは間違いない。

 さらに、入念に取り組んでいるのが、相手陣内での攻撃の形である。

 ハーフウェイラインまでは安定してボールを運べるが、その先はどうするのか――。

 それが、前体制が抱えていた課題だった。アタッキングサードではウイングの突破力頼みという側面もあったが、スコルジャ監督は前体制が築いたビルドアップに攻撃のアイデア、狙い、規律、パターン、精度といったものを加えようとしている。

 例えば、1月29日に行われたサガン鳥栖との練習試合で生まれた3つのゴールは、チームの狙いが体現されたものだった。

 3ゴールともすべて右サイドを攻略した酒井宏樹のクロスが、ブライアン・リンセンの2ゴールと興梠慎三のゴールに繋がっている。

 ボールを繋ぎながら相手を動かして生まれたスペースに素早くボールを運び、走り込んだ酒井のクロスから生まれたゴールもあれば、狭いスペースでボールを奪って広いスペースに展開し、酒井のクロスから生まれたゴールもあった。

 酒井のクロスからという形は同じだが、クロスに至る過程は異なっており、いずれの場合も今季のチームが狙っている形だったのだ。岩尾が説明する。

「まず広いところを見つける、みんなで広いところにボールを持っていこう、というところからスタートしている。もともと広いスペースさえ与えられれば、個で違いを作れる選手がたくさんいる。昨年は狭いスペースでもそれを発揮しようとして奪われ、カウンターを受けるシーンが散見されましたけど、今年は意図的にスペースを作ってそこにボールを運んで、クオリティのある選手でスピードを上げるということがスマートにできている」

選手たちの言葉から探る新指揮官の目指すスタイル

 ほかにもキャンプ中に発せられた選手たちの言葉を聞けば、指揮官の目指すスタイルがより鮮明にイメージできるかもしれない。

「ペナルティエリアの角のところを取りにいくのが、チームとしての狙いのひとつ」(岩尾)

「奪ってから早くゴールに向かいたいというのがコンセプト」(岩尾)

「特に裏に抜けることを要求されている」(小泉)

「ボランチは前に出ていけ、とよく言われている」(伊藤敦樹)

「サイドチェンジは強調されているし、サイドにボールが入ったときに誰かが裏に抜けるということは練習でもよくやっている」(伊藤)

「相手が4バックなら、相手のセンターバック、サイドバック、ボランチ、サイドハーフの四角形の中央に誰かが立って、相手を混乱させろと」(馬渡和彰)

「去年よりも後ろのスライドが早くなっているし、前から行くときに全体がコンパクトな状態で一体感を持って行けている」(大久保智明)

 重要なのは、どこにボールを持っていきたいのか、どのスペースを使いたいのか。

 そのイメージをチームとして共有したうえで、選手それぞれが意図的にポジションを取っている。それを岩尾は「規律がある」と表現した。

 そして、こうした狙いはすべてゴールから逆算して仕込まれているのだ。

どのアイデアが浸透し、合っていないかの吟味を

 この鳥栖戦で、浦和は沖縄キャンプを打ち上げた。

 スコルジャ監督は「キャンプが終わったタイミングで練習や練習試合を細かく分析して、どのアイデアが浸透しているのか、どのアイデアが合っていないのか吟味したい。チームに合わないなら別のことも考えなければならない」と、より細部に着手していくことを明かした。

 例えば、ハイプレスを仕掛ける際に前線の選手の運動量に頼っている場面があるので、もっと呼吸とメリハリを合わせていかなければならないし、アタッキングサードの崩しのパターンやアイデアがチームとして共有されたからこそ、狙うスペースや精度をより磨いていかなければならない。

 地元・浦和に戻ってから練習試合を2試合行うが、非公開となる予定。2月18日に味の素スタジアムで開催されるFC東京との開幕戦で、スコルジャレッズはどれだけ進化しているか。

 振り返れば2年前、リカルド・ロドリゲス体制における初陣の相手もFC東京だった。今回は当時ほどの目新しさ、新鮮さはないだろう。しかし、随所に上積みされた要素が見られるはずで、それこそ、タイトル獲得を目指す浦和レッズが継続性を手に入れた証でもある。

文=飯尾篤史

photograph by Atsushi Iio