藤井聡太五冠、渡辺明名人、羽生善治九段など、将棋界は様々な話題にあふれています。夫婦ともども“観る将”になったというマンガ家の千田純生先生に今月も「ファン目線での将棋ハイライト」マンガをNumberWebで描いてもらいました!
2023年に入って将棋界の2大スーパースターが激突する王将戦、将棋ファンの僕らだけでなくニュースでも大々的に扱われるなど、盛り上がっているようですね……! まずはその王将戦からイラストを描いていければと思います。
1)藤井−羽生の王将戦、さすがの大熱戦
第72期王将戦は第1局、第3局を藤井聡太王将(竜王、王位、叡王、棋聖と五冠)、第2局を羽生善治九段が勝利し、藤井王将から見て2勝1敗となっています。
この2行だけだと「やっぱり藤井王将が強いのか」と思われるかもしれませんが、中継を見ていると熱戦の連続なんです。特に第1局、第2局は棋士や識者の方から「名局」だった、という声が多くあがるほど。そして羽生先生がこの王将戦では藤井王将に対して自分の戦いたい形をぶつけているようです(第1局:一手損角換わり/第2局:相掛かり/第3局:雁木)。しかし戦型が各局で違うのは、さすがオールラウンダーといった趣……。
第2局では羽生先生が最終盤に藤井王将の10連続王手をかわしきって勝利をものにしました。1つでも間違えると「頓死」と言われる逆転負けを喫しかねない綱渡り状態でも、キッチリと渡り切る姿はまさに円熟の名棋士、といったたたずまいでした。
その一方で第1局と第3局は「藤井曲線(※AIが示す評価値において、中盤から徐々に上昇し、終盤一気に急上昇する様子)」を描いた完勝でした。第1局の解説などを見聞きしていると、羽生先生も人間的に見てミスがほぼなかったというのに快勝するのだから凄まじいです。2人のハイレベルな攻防には「はにたん最中」などカワイイおやつも驚いているのではないでしょうか(笑)。
うっかり第3局の金沢旅行してみたところ…
盤から離れた王将話題も。
編集担当さんは第1局の前日記者会見に行ったそうです。で、会見前に行われた「こども将棋大会」を見学したそうで、「2人の将棋を見つめる表情が印象的でした。柔らかな表情で子どもたちの様子を見つめる羽生九段と、それぞれの将棋の局面をじっと考える藤井王将という感じで、それぞれの“らしさ”が垣間見えた気がしました」とのこと。
僕ら夫婦は――先々月のハイライトでも描きましたが――第3局の会場である金沢へと旅行しました。ただし大盤解説会の予約をし忘れるうっかりで(倍率が凄かったそうなので当選してなかったかな……)行けなかったので、サッカー好きとして建築中のJ2ツエーゲン金沢の新スタジアムを目にした収穫はあったものの、ほぼ王将戦を肌で感じることができなかった金沢旅行でした(笑)。
ただ、2つほど王将戦をほのかに感じることができた機会がありました。
まず、泊まったホテルの4階が対局場だったのですが、エレベーターの4階のボタンがフタで覆われていて、押せないようになっていたのはビックリしました。やはりそれだけ特別な空間なのだなと。
それとともに旅行後、自分たちの部屋で対局者2人が頼んだ「和音」などのおやつを、ABEMA師弟トーナメントを見ながら食しました。この時点で十分、将棋を味わっている説がありますね……。
2)藤井五冠でも勝ち抜けない?ABEMA師弟トーナメント
先ほどABEMA師弟トーナメントの話に少し触れたので、こちらで詳細を振り返ればと。その名の通り、師匠と弟子がタッグを組んで早指しフィッシャールールで戦う非公式戦ですが、対局とチーム動画、相変わらずどっちも面白い!
公式戦勝率が8割オーバーと圧倒的な強さを見せる藤井五冠ですが、初参戦となったチーム杉本(杉本昌隆八段/藤井五冠)で臨んだ今大会、1勝2敗で予選リーグ敗退に終わりました。
久々のフィッシャールールで木村一基九段相手に敗戦を喫するなど、さすがの藤井五冠でも対局ルールが変わると慣れるまでズレを感じるんだなあ、とも。ただチーム動画では運転シミュレーションを体験して「次は三重です」という車掌姿(実際のアナウンスで観たいくらい)、対局では師匠・杉本八段の対局を無言で見続ける「20分動画」など、やはり絵になる……妻氏は「ずっと見てられる」と大絶賛でした。
マンガ的にとてつもなく描きやすいのは、チーム中田(中田功八段/佐藤天彦九段)の動画。ファッショナブルな着こなしの「貴族」こと天彦九段プレゼンツで、ガチの「貴族体験ツアー」をしていました。
天彦九段は中世ヨーロッパ文化に造詣が深く、フランス城主会会長にも認められた「コーマル城」(関東近郊にそんなところあるのか!)へと足を運ぶと、本格的な貴族の衣装をまとうという。これだけでも貴族ファンと漫画家の僕は大歓喜かと思いますが(笑)、チェンバロを優雅に演奏したり、鷹狩りをしたり……想像以上にガチな貴族っぷりの天彦九段に「すごすぎるんですけど」と畏敬の念の師匠・中田八段の構図があまりにも微笑ましかったです。
チーム動画、対局ともに胸を熱くさせてくれたのはチーム豊川(豊川孝弘七段/渡辺和史五段)です。準決勝で惜しくも敗退となりましたが、渡辺五段の獅子奮迅の活躍には“推し”である妻氏も大興奮。さらにはチーム動画で豊川七段の地元・博多の料亭を訪れた際の“感動シーン”を見たことで、こちらも推しである浦和レッズが「福岡遠征する際にこの料亭絶対行くからね」とやる気満々になっています(笑)。
そのチーム豊川との熱戦を制したチーム深浦(深浦康市九段、佐々木大地七段)が決勝進出を決めました。仲良し師弟で知られる2人は、チーム動画で楽しそうに高尾山登山を敢行したように――頂点へと上り詰めるのか、それとも? 目が離せません。
3)藤井五冠の「1分将棋で大逆転」にシビれた
2023年に入り、藤井五冠は王将戦/朝日杯将棋オープン/NHK杯とさまざまな公式戦に臨んでいます。2日制の王将戦、早指し戦の朝日杯とNHK杯とそれぞれで存在感を放っています。特に藤井将棋の凄みを見たのが、15日に開催された朝日杯本戦、増田康宏六段戦でしょうか。
増田六段の素晴らしい指し回しもあって、藤井五冠は1時間にも及ぶ「1分将棋」(1手を1分以内に指さなければならない状態)となりながらも、大逆転勝ちを果たしました。近年は〈序・中盤の研究が素晴らしい質となっている〉との評判を目にしますが、詰将棋で培い、10代の頃から圧倒的だったとされる終盤力をこう目の当たりにできるとは。この解説を務めた永瀬王座が「59秒まで考えたら詰まない」という言葉も印象的でしたね……。
さらに朝日杯本戦から3日後、順位戦A級で豊島将之九段に勝利しています。こんな過密日程の中で、どうやって研究したり心身を切り替えているんだろう? 対局以外の日々の過ごし方についても、観る将としては興味の範囲が広がります。
初の優勝を目指すNHK杯では天彦九段(ここ2、3カ月、常に対局している印象がありますね)に勝利し、準々決勝ではオシャレでダンディーな姿で知られる中川大輔八段との対局となります。中川八段は今週の『将棋フォーカス』で山登りして意気込みを語っていただけに、ベテランの味も楽しみです。
そして冒頭で取り上げた羽生先生との王将戦です。
王将戦と言えば、今やコスプレなどで世間的にも有名になった「勝利の記念撮影」。第1局後には藤井王将が鳥たちと戯れ、第2局は羽生先生がたこ焼き屋になり、第3局は藤井王将がカニと楽しそうに……対局日の翌朝は「朝刊買ってこなきゃ」と妻氏がダッシュするのが定跡となっています(笑)。あと、個人的には対局後の感想戦にも注目しています。藤井王将も羽生九段も、とても楽しそうな表情を浮かべているのがグッときます。
王将戦は今月も第4局の立川(2月9、10日)、第5局の島根(25、26日)と2局が予定されていて、注目度マックスですね。さらには現在行われている永瀬拓矢王座との順位戦A級は、最年少名人挑戦に向けてまた一歩近づくか、それとも永瀬王座がストップをかけるのか非常に大事な一局。
そして名人位を持つ渡辺明棋王が待ち受ける棋王戦第1局と前述したNHK杯(ともに5日)、朝日杯(23日)は15歳にしての初優勝を皮切りに、通算4度目の制覇を目指す戦い――ほぼ毎週にわたって大勝負が続く中、寒さを吹っ飛ばす熱戦に期待します!(構成/茂野聡士)
文=千田純生
photograph by Junsei Chida/日本将棋連盟