三笘薫(25歳)が止まらない。レスター戦での衝撃ゴールから1週間後……今度はFAカップ・リバプール戦、後半アディショナルタイムに決勝点となるスーパーゴール。三笘本人にロンドン在住の筆者が直撃取材した。

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 試合終了のホイッスルが鳴ると、英テレビ局のカメラマンが真っ先に三笘薫の元へ駆け寄っていった。

 英国のサッカー中継番組では試合後、テレビカメラマンが最も活躍した選手を画面に捉えようと追いかけ回すのが恒例。この日は、殊勲の決勝弾を挙げた三笘を執拗に追いかけていた。画面の中心にいるのは、少し照れくさそうにカメラマンと距離を取りながら、味方選手たちとハグを交わしていく三笘の姿だった。まさに主役の扱いである。

 ブライトンのホームに強豪リバプールを迎えたFA杯4回戦。1−1の同点で迎えた後半アディショナルタイムに、三笘のスーパーゴールが生まれた。

 フリーキックからペルビス・エストゥピニャンのクロスボールが入ると、日本代表MFは右足のアウトサイドでボールを足元に落とした。リバプールのDFジョー・ゴメスがブロックに入ったと察知すると、三笘は瞬時にキックフェイントを入れ、最後は右足のアウトサイドで押し込むようにしてボールを流し込んだ。決勝弾を叩き込むと、三笘は珍しく感情を爆発させて自軍のベンチ前まで疾走。タッチラインで待つ控え選手に抱きつこうとして地面に倒れると、そのままチームメートにもみくちゃにされた。

 そしてフィールドに戻った三笘は、固く握りしめた両手の拳を何度も上下に振り、喜びを噛みしめるように控え目なガッツポーズを繰り返した。

 劇的な決勝ゴールが生まれてから約1時間後、取材エリアに姿を見せた三笘は得点場面を次のように振り返った。

「キックフェイントを入れたら(相手が)跳ぶと分かっていた。集中したのはコントロールだけという感じですかね。(シュートしたところは)狭かったので、セカンドタッチで打てれば良かったんですけど、相手が来ていたのが分かったので、キックフェイントに変えました。その後はもう時間がないので、咄嗟に蹴った感じですね。あのタイミングでなければ、もうシュートは打てないので。コントロールが良かったかなと思います」

 得点は、主戦場の左サイドではなく右サイドから奪った。得点の起点となったFKは、チームとして練習で繰り返してきたパターンだったという。

「フリーキックはあの形をずっと狙ってやっているんですけど、なかなか自分にボールが来なくて。やっと来たので、落ち着いて決められて良かったです。ゴールセレブレーション? ゴールが決まったら勝ちのシチュエーションだったので、あんな感じになりました」

「ミトマはベルカンプのようだった」

 試合後の英メディアでは、日本代表への賛辞が溢れた。1855年創刊の英紙デーリー・テレグラフは次のように記した。

「三笘はピッチ上で最高の選手だった。対峙したトレント・アレクサンダー=アーノルドの能力に疑問を抱かせた。三笘の素晴らしい決勝ゴールは、98年W杯フランス大会の準々決勝アルゼンチン戦で、オランダ代表FWデニス・ベルカンプが決めた得点に似ていた。ゴールは三笘のパフォーマンスを要約していたし、彼がどんな選手であるか凝縮されていた」

 ベルカンプの場合は、背後からのロングボールを綺麗にトラップし、3度のボールタッチから優雅に決めた。「W杯史上、最も美しいゴールのひとつ」と謳われるオランダ代表レジェンドのゴールとは少しタイプが異なるが、英紙の指摘としてそのような称賛の声が上がった。

 さらに1785年創刊の世界最古の日刊紙である英紙タイムズで、サッカー部門の主筆を務めるヘンリー・ウインター記者は「三笘が見せた魔法の瞬間が、リバプールとクロップの苦悩をさらに深めた」と見出しを打ち、次のように記した。

「三笘は筑波大学でドリブルの研究をしていたが、この試合で見せたスリータッチ・トリックは、プレーへの洞察力が深い選手であることの証だ。今回は、さらにアクロバティックで独創的だった。キックフェイントでかわしたジョー・ゴメスは優れたDFであるため、このゴールはさらに評価に値する」

 地元ニュースサイトのサセックス・ワールド、そして同ニュースサイトのサセックス・ライブも、三笘にチーム単独最高点となる9点の高評価。同じく9点の最高評価をつけた英紙デーリー・メールは次のように伝えた。

「三笘は、ブライトンのスカウティングチームにおいて最新版の掘り出し物。見事なバランス、並外れたハードワーク、完璧な技術を備えている。ブライトンはハゲタカ(=強豪クラブからのオファー)を寄せ付けないようにしなければならない」

 英メディアでも、その扱いはやはり主役級だ。

イングランド代表DFに“再び”完勝

 2週間前の国内リーグ戦でブライトンに0−3の惨敗を喫したリバプールは、今回の対戦にあたり少しばかりアプローチを変えてきた。顕著な違いはサイドバックの攻撃参加。右SBアレクサンダー=アーノルド、左SBアンドリュー・ロバートソンとも攻撃に参加する回数を極端に減らし、最終ラインに留まった。SBの攻撃参加はリバプールの持ち味だが、4人のDFが最終ラインに残ることで、ボールポゼッションに長けるブライトンにスペースを与えないようにした。

 ところが、三笘はマッチアップしたアレクサンダー=アーノルドを翻弄した。

 立ち上がりの前半4分には、三笘がイングランド代表DFの股を抜いて突破。後半10分には三笘が静止した状態から急発進し、アレクサンダー=アーノルドを置いてきぼりにしてラストパスを出した。

「(アレクサンダー=アーノルドが自分への対応を)どう変えてくるかなと見ながらやっていたんですけど、あまり変えてきてないかなって感じだったので。行けるとこは行ってと考えてました」と三笘が語ったように、前回と同様に今回のマッチアップも日本代表が圧勝した。

 そして、もともと守備をあまり得意としていないイングランド代表の右SBは、後半14分の早い時間帯に交代を命じられたのだった。

「いや、褒めてくれないですよ(苦笑)」

 三笘との質疑応答で、取材エリアが笑いに包まれた瞬間があった。「試合後、ロベルト・デゼルビ監督からお褒めの言葉はありましたか?」。そんな質問が飛ぶと、三笘は表情を緩めた。

「いや、何も褒めてくれないですよ(苦笑)、いや全然で(笑)。ただチームとして、ベンチスタートの選手をよく褒めています。チーム全体として、士気をうまく取っている(高めている)監督なので、個人的に褒めるというのはあまりしないですね」

 リバプール戦のゴールで今季6点目となるが、「シチュエーション的には一番嬉しいです。チームの勝利に一番貢献したっていうところは嬉しいです」と述べ、本人としてはチームを勝利に導いた今回のゴールが一番嬉しいと明かした。

 さらに、視線をその先へと向けた。直近6試合で4ゴール、1アシストの量産体制に入っているが、これからも貪欲に結果を求めたいと力を込めた。

「(記者:ゴールの数は気にするか?) できるだけ取りたいっていうのはあるので、全試合取れるなら取りたい。自分の中で何点っていうと目標を定めてもいいんですけど、それで意識しすぎても良くないので、毎試合取れるようにはしたいなと思います」

「(記者:監督が目標は10ゴールと言っているが?) その数は、プレミアで10ゴールだと思うので。そこはやっぱりまだまだ遠いかなっていうのと、チームが良ければ、いいボールが来るので。そういうところの最後の仕上げってところをこだわっていかないといけない。これだけいい形でボールが来るチームもないので、ここで取れないと逆に他では取れないかなと思います」

6カ月前は無名だった三笘薫

 試合後、英テレビ局のカメラマンに追われる三笘の姿を眺めて、思い出したことがあった。昨年7月に行われたプレシーズンマッチでの一コマだ。

 今シーズンの開幕前、ブライトンは英2部のレディングまで遠征して練習試合を行った。調整試合に近い位置づけで、会場となったレディングのスタジアムも随分のんびりした雰囲気に包まれていた。

 レディングを率いるポール・インス監督がテクニカルエリアに現れると、メインスタンドにいた子供たちがセルフィーとサインを大声で懇願していた。指揮官が快く応じると、ブライトンのグレアム・ポッター前監督も同じ様に写真撮影に応えていた。

 プレシーズンマッチの特別ルールで、この試合のベンチ枠は15名。だがベンチに控え選手たちが入り切らず、急遽メインスタンドの前にパイプ椅子を設置し、ブライトンの控え選手たちが客席の前で試合を見守ることになった。

 大興奮したのは、レディングサポーターの子供たちだった。練習試合というのどかな雰囲気でありながら、サッカー大好き少年である彼らの目の前に、代表クラスの選手たちが座っているのだ。子供たちはレアンドロ・トロサール、マルク・ククレジャ、アダム・ララーナ、ダニー・ウェルベックらに声をかけてはセルフィーをお願いしていた。

 だが、この試合でベンチスタートの三笘に声をかける者は誰もいなかった。入団時点で、三笘はまだまだ無名の存在。もちろんブライトンの熱心なサポーターは三笘の存在を知ってはいたが、全国的に名前はほぼ知られていなかった。

 いつかイギリスの子どもたちからもサインをせがまれるようになればいいなと、6カ月前の筆者はそんな思いで三笘の姿を眺めていた。

英紙「真のスターが誕生しようとしている」

 その三笘が今、英国のテレビカメラに追われ、英紙でも大絶賛されるようになった。さらにリバプール戦の観戦プログラムで三笘は表紙を飾り、4ページにわたってインタビュー記事が掲載された。英紙デーリー・テレグラフは、三笘について「デゼルビ監督のブライトンは格上にも怯むことなく戦い続けている。その中でイングランドサッカー界における真のスターが誕生しようとしている」とまで記している。

 しかしブライトンの顔になっても、三笘の真摯な姿勢はまったく変わっていない。プレミアリーグで2週連続のベストイレブンに選ばれたことへの感想を聞いてみると、三笘には浮かれた様子がまるでなかった。

「いや、点取ってるだけで、他のところは別にそんな良くないので、ちょっと過大評価かなと感じています。チームが勝ってることで、あの評価を得られているので。そこがついてきてるだけで、選手として見ると、まだまだビッグクラブの選手には全然足りないと思うので。そこは全然俯瞰してみてます」

 日本代表MFは、間違いなく好サイクルに突入している。結果を残すことでさらなる自信が生まれ、ゴールを狙う積極性が増している。さらに結果を残すことで、チームメートの信頼が増し、これまで以上にパスが集まるようになっている。今回のリバプール戦でキックフェイントを入れてからシュートしたように、三笘の心に余裕が生まれているように見える。本人としても、周りがよく見えているのだろう。

 もしベンチ要員で結果を残さなければならない立場なら、変に力んでしまってキックフェイントを選ぶ余裕はなかったかもしれない。

「結果が付いてくることでスタメンもずっとキープできると思う。さらに勝つことが付いてくればもっと信頼も得られる。いい循環だなと思います」と三笘。ここから、どこまで飛躍できるか。今後も三笘のプレーから目が離せなそうだ。

文=田嶋コウスケ

photograph by AFLO