プレミアリーグで圧倒的なハイパフォーマンスを見せる三笘薫。その名前は徐々に世界各国に知れ渡りつつあるようだ。ブラジル在住の著者がフットボール王国の報道、そして三都主アレサンドロに「ドリブラー+対戦する相手SB視点」を聞き、NumberWebにレポートしてくれた。

「プレミアリーグで大きな注目を集める日本人選手は、ドリブルに関する学術論文を著した」

 ブラジル最大の総合スポーツ雑誌「プラカール」の電子版は1月31日、このような見出しでブライトンの日本代表FW三笘薫を写真入りで紹介した。

 筑波大学で体育学を学んだ後、22歳でプロ選手になった三笘が1月29日のFAカップ4回戦で強豪リバプールを相手に美しい決勝ゴールを叩き込んだこと、ブライトンのロベルト・デ・ゼルビ監督が「彼は驚異的な選手であり、さらに成長する」と称賛していること、直近11試合で6得点2アシストを記録していること(注:2月8日時点では直近12試合で7得点2アシスト)、日本代表の一員としてワールドカップ(W杯)カタール大会に出場し、スペイン戦で論議を呼ぶプレー(いわゆる「三笘の1ミリ」)の主人公となったことなどを事細かに伝えている。

ブラジルで大卒選手はソクラテスら限られるゆえに

 同じ日の「CNNポルトガル」も、「フェイントを授業で学び、リバプールを敗退させた日本人」の見出し。川崎フロンターレ時代の三笘と親友の田中碧(現デュッセルドルフ)が教室の黒板にそれぞれ「全試合ゴール」、「優勝」と書いた写真を掲載している。

 南米や欧州では、大学を卒業してからプロになる選手はほとんどいない(ほぼ唯一の例外は、若手プロ時代にブラジルの名門サンパウロ大学の医学部を卒業して医師免許を取得し、コリンチャンス、ブラジル代表などでMFとして活躍した“ドトール”ソクラテス)。それゆえ、大学へ進学し、なおかつドリブルに関する卒業論文を書いたことが非常に珍しく映るようだ。

 1月29日のアルゼンチンの日刊紙「エル・クラリン」は、「日本人ミトマがリバプール相手にゴラッソ(スーパーゴール)を決め、マクアリスターが所属するブライトンに勝利をもたらした」の見出し。アルゼンチン代表の一員としてW杯カタール大会で優勝したMFアレクシス・マクアリスターが三笘を祝福する写真を付けた。

 記事では、三笘が左からのクロスを右足でトラップし、ボールを跳ね上げてマーカーをかわしてから決めたゴールを「まるでビデオゲームのよう」と表現している。

三都主に三笘のドリブル、マーカーの立場を聞いてみた

 元日本代表左SBの三都主アレサンドロは、三笘のことを川崎フロンターレ時代から注目し、W杯カタール大会のアジア最終予選、そしてW杯カタール大会でも彼のプレーを高く評価していた。

 現役時代に優れたドリブラーとして活躍し、またSBとしても力を発揮した三都主に、三笘のプレーをどう評価するか、また自分なら彼をどうマークするかを聞いてみた。

――彼のドリブルの特徴をどう捉えていますか?

「爆発的なスピード、瞬発力があり、完全に止まった状態からトップスピードに到達するまでが異常なまでに早い。また、ドリブルのコースも、カットインする、カットインしてから切り返して外側へ抜ける、最初から外側へ抜ける、など非常に多彩。マーカーの様子を見てドリブルの種類と方向を決めるから、マークする側は非常に厄介だ」

「ネイマールの若い頃」とソックリ、違う点とは

――本人は、「ドリブルするとき、ボールを見ないでマーカーとその先のスペースを見る」と語っています。

「これは非常に難しい。限られた選手しかできない。よほどボールコントロールに自信があるのだと思う」

――彼のドリブルは、ネイマールに似ているという声があります。

「同感だね。右足のアウトサイドで細かくボールに触ったり、完全に止まった状態から急にギアをトップに入れてマーカーをひきちぎるところは、ネイマールの若い頃にそっくり。今のネイマールより三笘の方が上だと思う。

 でも、違いもある。僕もそうだったけど、ブラジル出身の選手はジンガ、つまり上体を揺する動きをしてマーカーを揺さぶることが多い。でも、彼は自分からは大きな動きはせず、マーカーの出方を見てからどういうドリブルをするか決めているみたいだ」

マークしなければならないとしたら?いやあ…

――もしあなたが彼をマークしなければならないとしたら、どうしますか?

「いやあ、難しいよ。ボールを持って前を向かれたら、1人でマークするのはほぼ不可能。外を切って中へ誘導し、チームメイトと2人がかり、3人がかりで対処するしかないだろう。一番いいのは、前を向いてボールを持たせないこと。そのために、最大の努力をすると思う」

――三笘は、ドリブラーとしてのみならずストライカーとしても急成長しています。

「その通り。多彩な得点パターンを持ち始めているね。先発で起用され、結果を出し、チームメイトからの信頼を得てボールがどんどん集まり、さらに良い結果を出す――。今は最高の状況にあるんじゃないかな。

 アーセナル、リバプールといったビッグクラブ相手にドリブルで決定的なチャンスを作り、自らもゴールを奪っているのは本当に素晴らしい」

――課題があるとすれば?

「現在のプレーには文句の付けようがないけれど、大切なのは長期間に渡って良い結果を出し続けること。今季が終わるまで、ぜひとも現在の調子を維持してもらいたい」

――彼には、多くの欧州ビッグクラブが興味を示しているようです。

「当然だろうね。ただ、ビッグクラブには世界トップクラスのアタッカーがひしめいている。競争の激しさは、中堅以下のクラブの比じゃない。そこで競争に打ち勝ってレギュラーポジションをつかむのは本当に大変だ。今後、ビッグクラブへ移籍したら、これまでとは別次元の争いになる」

三都主が注目する「18歳で大学進学」の選択

――彼は川崎Fのアカデミーで育ち、U-18を終えた時点でプロ契約をオファーされながら、自らの意思で大学へ進みました。そのため本格的なデビューが22歳となったわけですが、彼の選択をどう考えますか?

「JリーグのクラブのアカデミーにはU-20が存在せず、18歳でプロになったらずっと年上の選手と競争しなければならない。18歳や19歳ではなかなか試合に出られず、そのことが響いて成長のスピードが鈍ってしまう選手が少なくない。18歳でプロになるのと大学へ進むのとではそれぞれにメリットとデメリットがあるわけだけど、現在の彼の活躍を見ると、彼の選択は正しかったと思うよ」

 三都主アレサンドロは、現役引退後はブラジルに住み、2020年末に創設後、2年連続で昇格して今年はパラナ州1部で奮闘するアルコのCEOを務めるかたわら、生まれ故郷マリンガで選手育成専門クラブを運営している。

 彼にとっても、三笘薫のようにプレミアリーグで活躍するような選手を育てることは夢であり、のみならず現実的な目標でもあるに違いない。

文=沢田啓明

photograph by Jan Kruger/Getty Images