日本中を熱くするWBCの侍ジャパンを率いる、栗山英樹監督。大谷翔平やダルビッシュ有、ラーズ・ヌートバーら個性的なプレーヤーたちを結束させた指揮官が持ち続ける思いとは? 雑誌「Sports Graphic Number」「NumberWeb」に掲載された記事のなかから、「名言」や貴重な写真を紹介します。
<名言1>
ダルには本当に感謝しかないよ。久々にいい日だなと思えた。
(栗山英樹/NumberWeb 2022年12月14日配信)
◇解説◇
侍ジャパンは2月に宮崎で実施された強化合宿から名古屋・大阪と転戦した壮行試合、強化試合を経て、東京ドームで開催されたWBC1次ラウンドと準々決勝を戦いきった。WBC本番では世帯視聴率が軒並み40%を越え、準々決勝イタリア戦では同大会史上最高となる48.0%をたたき出すなど、まさに日本列島に熱狂を巻き起こす1カ月間となっている。
何かスゲェーな、と。本当に感謝しかない
強化合宿からダルビッシュ有が参加し、大会直前にはメジャー1年目の吉田正尚、今や大の人気者となったラーズ・ヌートバー、そして真打の二刀流・大谷翔平といったメジャーリーガーが合流したことでそのムードは日に日に高まった感があるが……彼らを軒並み招集に成功したのが栗山監督である。ダルビッシュの招集について、2022年末にこう語っていた。
「こちらの思い、細かいことを詰めないといけないと思っていたら、ダルの方から『ジャパンに協力します。できる限りのことはします』と言ってくれた。僕以上にこれからの日本野球のために自分が何をしなければいけないかを意識している。お子さんが(8月に)生まれたばかりで家族の負担もある中で決断をしてくれた。感動したというか、何かスゲェーな、と。本当に感謝しかない」
栗山監督との約束通り、ダルビッシュはメジャーで培った経験値を余すことなく若き投手陣に伝えつつ、強化合宿から野手陣とも分け隔てなく交流するなど大きな足跡を残してくれたのだった。
翔平って、大事な時にはそういう反応になるんだって
<名言2>
初めて翔平に二刀流の話をしたとき、アイツがあまりにも無表情だったことは今でも印象に残ってる。(栗山英樹/Number963号 2018年10月11日発売)
◇解説◇
栗山監督は日本ハム時代、監督として大谷の二刀流起用を明言し、その才能を最大限発揮し、チームの勝利に結びつけようと腐心し続けた。その試行錯誤が実ったのが2016年のパ・リーグ制覇と日本一、さらに大谷のMVP獲得だったと言っていいだろう。しかしそもそものスタート地点は“大谷が日本ハムに入ってくれるかどうか”という段階だった。
大谷は花巻東高時代、日本のプロ野球を経ずに直接メジャー挑戦を目指そうとした。そこにあえて真っ向勝負したのが日本ハムと栗山監督だった。ドラフト1位指名を公表して交渉権を獲得すると、大谷のために約30ページにも及ぶ資料を用意。そして、入団交渉で栗山監督が明言したのは投打の二刀流として育成する方針だった。そう告げた時の大谷の表情は栗山監督が語る通りだが、ともに戦っていくことで、わかったことがあったという。
「翔平って、大事なときにはそういう反応になるんだって。(中略)やらなければならない使命があるときほど、『はい』と言いながら、身体に伝わったな、という表情をするんだ」
WBC開幕前に語っていた“非情さというか…”
<名言3>
いつでも代える前提で選手には話をしているつもりですし、そうすることがすごく重要なことかなとも考えています。非情さというか……それが逆に、一流の選手に対する優しさなんだと思うんですね。
(栗山英樹/NumberWeb 2023年2月12日配信)
◇解説◇
今大会で侍ジャパンの切り込み隊長となっているのは、初めての日系選手となったラーズ・ヌートバーだ。大谷の通訳を務める水原一平氏を介して日本代表入りを打診した栗山監督だが、開幕前の段階から各メディアで〈100%好きになる選手です〉と話していた。この予言はまさに的中と言ったところだろう。
ただその一方で、選手の状態を見極めて采配を振るうことを大会前の「NumberWeb」のインタビューで明かしている。
「近ちゃん(近藤健介外野手、ソフトバンク)はセンターで使ったりもするし、どこでもできる。(ヌートバーが)ケガをしたら、すぐ代えられる。ケガをしたり、調子が悪いときに交代というのは考えなければいけない」
それはメジャーから呼んだヌートバーも含めて、だということだった。
この方針は準々決勝、村上宗隆の打順にも垣間見ることができた。1次ラウンドで安打がなかなか出ず苦しんだ主砲に対して、“打順を下げるべきでは”との世間の見立てがあったのは事実。それでも栗山監督は準々決勝の大一番で打順変更を決断したものの、村上を5番打者にしてクリーンアップの一角から外さなかった。そして村上は5回のチャンスにセンターオーバーのタイムリーツーベースを放って期待に応えたのだった。
野球のことで熱くなると「熱闘甲子園」を思い出す
<名言4>
野球のことで熱くなると、「熱闘甲子園」を思い出すんだよ。先人に感謝。大げさに言えば野球から人生、生きざまを教えられた。その原点が高校野球。
(栗山英樹/NumberWeb 2022年12月25日配信)
◇解説◇
今回のWBCで侍ジャパンは、斎藤佑樹や田中将大ら日本の高校球児に憧れを持ったヌートバーを含めて……まるでプロで一流になった選手たちが甲子園の舞台で輝くかのようなプレーを見せている。
考えてみれば、栗山監督自身が引退後、甲子園と縁があったのもその要因と言えるのだろう。
夏の甲子園の名物テレビ番組「熱闘甲子園」で2009年から11年までナビゲーターを務め、高校球児を取材し、その素顔を発信し続けた。そんな日本人プレーヤーのみずみずしい躍動をWBCの舞台でも……との思いがあったとしても自然だろう。栗山監督のもとで“野球を楽しむ姿勢”をチーム全体で表現しているからこそ、見ている人々をも巻き込む、大きなムーブメントになったのかもしれない。
文=NumberWeb編集部
photograph by Naoya Sanuki