準々決勝のイタリア戦で先発投手を務め、珍しいセーフティバントでもチームに貢献した大谷翔平。「Number」「NumberWeb」に掲載された、本人とチームメートの「4つの証言」から、大谷の“チームプレー”への考え方を紐解きます。
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〈証言1〉
バントヒットもたまにするからおもしろい
大谷翔平/Number1048号2022年3月31日発売
3月16日のイタリア戦では驚きのプレーが飛び出した。3回の第2打席で、日本の先制点につながるセーフティバントを決めたのだ。大谷は試合前日の会見で、このように語っていた。
「負けたら終わりなので、とにかく全員で。僕だけで試合をするわけでもないし、全員でつないで最終的に1点でも多く取っていればいいかな」
大谷が狙っていた、バントの「オモロさ」
意表を突くバントは、まさに有言実行のチームプレーだったのだ。昨年のインタビューの際、大谷はバントについてこのように持論を展開した。
「ホームランを打つ人がたまーにバントをして一塁へ走るから、その姿が『オモロイな』となるわけで、それが毎試合になってしまったら“オモロク”ない」
WBCという“短期決戦”だからこその決断。ホームランバッターであることへの自負とともに、野球というスポーツへの大谷の考え方が窺える、興味深いコメントだった。
伊藤大海を労った大谷…「リリーフ陣には必ず感謝」
〈証言2〉
「僕らリリーフ陣が登板して抑えた時、必ず感謝してくれる」
ジミー・ハーゲット(エンゼルス投手)/NumberWeb 2022年10月6日配信https://number.bunshun.jp/articles/-/854850
イタリア戦では5回表に大谷が2失点。降板した大谷から、伊藤大海がその後を継ぐ形でマウンドへ。そして見事に後続を抑えると、大谷は誰よりも大きなリアクションでベンチを飛び出し、伊藤を出迎え労っていた。その姿に、大谷の人間性を感じ取ったファンも多かったのではないだろうか。
大谷のチームメートへの“感謝の気持ち”は、侍ジャパンでもエンゼルスでも変わらないようだ。エンゼルスのリリーフとして大谷を支えるハーゲットは、以前こう明かしていた。
「僕らリリーフ陣が登板して抑えた時、必ず感謝してくれる。ナイスガイで、いいチームメートだよ」
昨シーズン、投手としてメジャー自己最多の15勝を挙げた大谷。しかし実は、9回を一人で投げ切った試合はない。二刀流のためのコンディション調整という面はもちろんあるだろうが、大事な場面で必ず大谷は中継ぎ陣に後を任せ、その結果として積み上げた15勝だった。
中継ぎ陣が重要な役割を担うのは、球数制限のあるWBCではなおのこと。今大会ではイタリア戦が最終登板と言われているが、チームメートを信じ、感謝の気持ちを忘れない大谷は、何の心配もなく、今後も打席に集中することだろう。
大谷は、他人に対して決して“イラッ”としない
〈証言3〉
「怒られたことは一度もない」
岸里亮佑(大谷の後輩)/NumberWeb 2022年12月28日配信https://number.bunshun.jp/articles/-/855833
チームメートへの気遣いを忘れない大谷だが、同時に人間関係についてはこのような証言も。花巻東高校、そして北海道日本ハムファイターズで長年にわたり大谷の後輩だった岸里は、その素顔をこう明かす。
「いい意味で捉えてほしいのですが、翔平さんってあまり人に興味がないんですよ。だから他人に対してイラッとすることもないのかなって。怒ったとしても、自分に対してのように思います」
岸里は時にイタズラをされたり、本を貸してもらったりと、上下関係を気にしない性格で後輩に対しても優しかったという大谷。高校時代から変わらないフランクな性格で、大谷は侍ジャパンの“和やかな団結”の中心としても存在感を発揮している。
ヌートバーが明かす「ショウヘイが、いいね!って」
〈証言4〉
「ショウヘイが、いいね!って」
ラーズ・ヌートバー/NumberWeb 2023年3月9日配信https://number.bunshun.jp/articles/-/856737
今ではすっかりおなじみになった、胡椒を挽く「ペッパー・グラインダー」。侍ジャパンの雰囲気の良さを象徴するポーズでもあるが、もともとはヌートバーが提案し、大谷が賛成したことで定着した、いわば二人の雑談から生まれたものだった。
ヌートバーはその秘話をこう振り返る。
「ショウヘイと、チームセレブレーションみたいなことを何かやらないか、って話していたんだ。でも、エンゼルスには特にそういうのがないんだ、って。それで、カージナルスにはこれがあるよ、って話したらショウヘイが『いいね! 先頭バッターなんだし、ヒットを打って出塁したらぜひやってよ』って言ってくれたんだよ」
初の日系選手としてやってきたヌートバーの“お世話係”を務めながら、チームに打ち解ける橋渡しをしていたのも大谷だったのだ。返答を考えるまでもなく、「いいね!」と即答するあたりに、大谷の明るく前向きな人柄が垣間見える。
侍ジャパンをプレーで引っ張り、若手には良き手本となりながら、おちゃめで分け隔てない人柄でムードメーカーにもなる。イタリア戦で見せた“まさかのバント”――。誰しもの意表をつくプレーではあったが、「チームのため」を常に考える大谷翔平という野球選手の“芯”からは、なにも外れていなかったのである。
文=NumberWeb編集部
photograph by JIJI PRESS