侍ジャパンの劇的なWBC優勝に、ヨーロッパのあの国からも祝福のメッセージが届いている。東京ドームの1次ラウンドで話題を集めたチェコだ。
チェコも祝福「おめでとう、ジャパン」
「王者のタイトルは、相応しいチームの手に渡った。おめでとう、ジャパン。文句なしだ。あなたたちと東京ドームで同じフィールドに立てたことが、本当に幸せだった」
チェコ代表チームの主将を務めたペテル・ジーマ内野手はツイッターでそうたたえた。
1次ラウンドの日本戦に先発し大谷翔平投手から三振を奪って大喜びしたあのオンジェイ・サトリア投手はインスタグラムのストーリーに「SAMURAI」の文字とトロフィー、神社の絵文字を添えて優勝を祝った。日本戦の3番手で登板したヤン・トメク投手は侍ジャパンが優勝した瞬間の画像とともに「こういう瞬間のために、僕らはプレーしている!」の言葉を添えて感動を伝え、チェコ打線の中軸だったマチェイ・メンシク外野手は、大谷が決勝前に「憧れるのをやめましょう」と語ったスピーチの画像に拍手の絵文字を付けて投稿した。
大谷効果でチェコ帽子が完売に…
1次ラウンドが終わった後も日本とチェコの心温まる交流は続いている。大谷が決勝トーナメントを戦うためにマイアミ空港に降り立った際、チェコのロゴと国旗が入った帽子を被って現れたことも、さり気ないリスペクトのメッセージとなった。チェコ帽子はたちまち話題となってあっという間に売り切れ、WBCが行われたマイアミの球場売店でも、MLBの公式オンラインショップや専門ショップのサイトでも品切れ状態。
もちろんチェコでも大騒ぎとなり、チェコ野球協会の公式ツイッターは「ショウヘイ・オオタニがマイアミに到着してから、チェコ帽子の全サイズが完売した。ザッツ・クレイイイイイジィィィィ」と興奮を投稿し、ジーマは「チェコ帽子が似合っているよ、ショウヘイ。ありがとう」と感謝。サトリアは「最高だ、オオタニサン。#respect #honor(光栄)」と賞賛した。
朗希&エスカラの「その後」
佐々木朗希投手とウィリー・エスカラ内野手(24)との心温まる交流にも「続き」があった。エスカラは日本戦で佐々木から膝にデッドボールを受けるアクシデントがあったが、その2日後に佐々木から宿泊先ホテルに訪問を受け、お詫びに2つの袋いっぱいのお菓子を贈られ感激していた。チェコに帰国後、そのときの佐々木とのツーショット写真を、「Respect」の言葉、そして日本とチェコを握手でつなぐ絵文字を添えて投稿し、決勝ラウンドに進む佐々木にエールを送っていた。
チェコ代表チームのパベル・ハジム監督は大会中「今回の代表メンバーは、野球にかける情熱、ハードワーク、人柄を重視して集めた」と明かしていた。侍ジャパンもそうだがチェコ代表は、プレーだけでなくフィールド内外で垣間見せる選手たちの人柄が、これほどまでに人の心を動かすのだということを示してくれた。
3月下旬から国内リーグ開幕
先述した佐々木との交流で話題になったエスカラは、実はアメリカのフロリダ州マイアミ生まれ。父がキューバ、母がチェコの生まれであることからチェコ代表入りの資格があり、今回初めてチームに招かれた。昨年までマイアミ大学に所属しNCAA(全米大学体育協会)の最上位レベル「ディビジョン1」でプレーし、卒業後は米独立フロンティアリーグに所属。そのため代表チームに入るまで、チェコでは誰にも知られていない存在だったが、WBCでの懸命にプレーする姿や、デッドボールで膝を痛めても必死にこらえながら何でもない顔をしてプレーを続けたその気持ちの強さで、チェコでも一躍人気者になったという。
「母からチェコで盛り上がっていると聞いた。たくさんの人からメッセージももらったと言っていた。日本戦のあの満員の観客の中でプレーした雰囲気は本当にクレイジーだったけど、遠く離れたチェコの人たちも、その雰囲気を感じてくれていたんだ」
エスカラはそう話していた。
この大会がきっかけでチームメイトとの親交も深まり、SNSにはチェコでジーマ主将と名物のビールで乾杯する姿も投稿されている。3月下旬からはチェコ野球リーグのエクストラリーガが始まるが、エスカラは今季、プラハに次ぐ第2の都市ブルノのチームと契約しプレーすることが決まったそうだ。米独立リーグでのプレーも継続するためフルシーズンの参戦とはいかないが、リーグの序盤と終盤に出場する予定だという。
唯一のメジャー経験者も「超謙虚」
チェコ代表にはアメリカ生まれの選手が他にも数人おり、エリック・ソガード内野手もその1人だった。母方がチェコにルーツを持ち、大会前にチェコの市民権を取得して代表入りを果たしたのだが、チームでは唯一の元メジャーリーガーで、しかもメジャーで11年の経歴を誇りポストシーズンも4度出場した実績もある、代表チームの中では別格の選手だった。
それでも決して気取ることもエゴを出すこともなく、チームメイトからは「いつもニコニコしている」「守備の動きを見るだけでも勉強になる」と評され、慕われていたという。
そのソガードも「このチームの選手たちの、試合に向かう真剣な姿勢や練習熱心さは本当に目を見張るものがある。世界の中で比べても恵まれた環境でプレーしているとはいえないが、WBCという最高峰の舞台までこられた。チームとしても最高のグループ。彼らを見ていれば、結束の強さを感じると思う。こんなチームの仲間になれたことに感謝したい」と話していた。互いにリスペクトする精神が浸透したチーム。だからこそ、日本との心の交流も続いているのだろう。
WBC後、東京を楽しんでいた…
余談だが、チェコ選手たちは戦いを終えた後、東京を満喫した様子だった。ダビド・メルガンス投手は帰国後に神社やお寺、昭和な雰囲気を醸し出す狭い路地の飲食店街などの写真を投稿し、それらに日本の国旗とハートの絵文字を添えていた。ソガードも1次ラウンド終了後に家族で浅草寺を訪れおみくじを引いて楽しんだ様子を投稿したり、コンビニで見慣れない総菜を食べてみるというチャレンジ動画をアップして「いかの炙り焼き」を食べたりしていた。
「僕らは東京で最高の時間を過ごした」
エスカラはそんなメッセージも投稿している。
約9000km離れた“愛すべき男たち”との交流。この先語り継がれるであろう侍ジャパンの劇的世界一とともに、チェコとの物語もずっと続いてほしい。
文=水次祥子
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