1月に開幕した米女子ゴルフツアーは、早くも今季4戦目となるLPGAドライブオン選手権を終えた。
中国で開催されるはずだったブルーベイLPGAはコロナのために中止となったが、それ以前の3試合はいずれも限られた選手のみが出場できるフォーマットで“予選落ち”がなかった。つまり、いよいよ今大会から本格的な戦いが幕を開けたのである。
開催コースのスーパースティション・マウンテンGC(アリゾナ州)には出場する144名が集結した。日本からは上原彩子(39歳)、渋野日向子(24歳)、古江彩佳(22歳)、笹生優花(21歳)、さらに昨年末の予選会で出場権を得た勝みなみ(24歳)、西村優菜(22歳)の計6名が出場した。
日本勢の中で気を吐いたのは19アンダーで首位と1打差の3位に入った古江。惜しくも米ツアー2勝目とはならなかったが、今後に期待を抱かせる存在感を示した。
「アヤカは速くて硬いグリーンと相性がいい」
2021年から古江のキャディを務めるマイク・スコットは、好成績を残せた要因を「パッティング」に挙げた。
「(昨季、古江が初優勝した)スコットランド女子オープンと似たような速くて硬いグリーンでした。アヤカはそういうグリーンと相性が良いのかもしれません」
WOWOWの中継レポーターとして今季ツアー初戦から現地入りする片平光紀(初代アマチュアランキング1位)は、スコットの意見に頷きつつ見解を明かした。
「スコットの言う通りですが、古江選手は“速くて硬いグリーン”だけではなく、どんなコースにも対応力が高いですね。印象深いのが、大雨が降った3月上旬のHSBC女子世界選手権(シンガポール)の最終日18番。グリーンが水浸しの中、長い上りのスライスラインを読み切ってバーディーパットを決めたんです。キャディのスコットが止めるほど、いつ中断になってもおかしくなかったのですが、古江選手は最後のパットだから打った方がいいと判断したのでしょう。当然、水浸しのグリーンで練習することはないので、どの程度の強さで打てばいいのかわからないはず。瞬時に状況判断した姿に驚きました」
その対応力は、今大会でも見受けられた。片平は続ける。
「今大会のコースはロングヒッターに有利。笹生選手が2日目2番パー5でアルバトロスを達成したように、ロングヒッターは4つのパー5で2オンが狙えるコースでした。それでも古江選手は、飛ばし屋たちに惑わされることなく、自分の出来ることに徹していました。
最終日18番パー5、絶対にバーディーが欲しい場面でも無理にピンを狙わず、グリーンの右サイドに乗せた。3打目、22mの長いイーグルパットは惜しくも外れるも、堅実にバーディーパットを沈めました。自分のゴルフをしっかり把握し、一打ごとに冷静に対応できるから初見のコースでも実力を発揮できるんだと思います」
自分で考えてゴルフをする。その姿勢を崩さす、米ルーキーイヤーだった昨季からヤーデージブックにはコースの知見を書き溜めてきた。今大会は初めてラウンドするコースだったが、今後は昨年の経験も活かせる試合が続く。そう遠くないうちにツアー2勝目の吉報が届いても全く不思議ではなさそうだ。
渋野は今季初のトップ10入り
古江と同期である渋野は16アンダーの7位タイでフィニッシュ。今季初のトップ10入りを果たした。
渋野はこのオフ、2020年末まで指導を受けていた青木翔コーチのもとに戻り、右方向に飛んでしまうシャンクを克服すべくスイングの修正に取り組んできた。
「昨年よりトップの位置を高くすることを意識し、クラブを縦に振っています。そうすることで、しっかりと上からボールを捉えることができ、前よりスピンが利いていますし、強い球が打てています」(片平)
また新たなスイングを活かすため道具も新調した。アイアンはより高くスピンをかけられるシャフトへ、ドライバーのヘッドはよりランを意識したものに変更した。
ただ2月下旬の「ホンダLPGAタイランド」では、右方向へ大きくそらしたり、理想のスイングができずフィニッシュで手を放すなど、まだ試行錯誤の最中にいる印象だった。
「(ホンダLPGAタイランドは)渋野選手にとって今季初戦だったので、オフでやったことを探りながら試していたように感じました。試合中もシャドースイングを繰り返すなど、戦う準備は整っていなかったと思います」
今大会も初日は2オーバー、126位タイとかなり出遅れた。しかし、片平はその様子を楽観的に見つめていた。
「スコアよりいい内容でプレーできていたのでそんなに心配はしていませんでした。初日の前半は、初めてのコースや硬いグリーン、新しいスイングやシャフトと慣れないことが多かったかもしれませんが、終盤でショットが噛み合ってきた。2日目以降は期待できそうな雰囲気があったんです」
片平の予想の通り、渋野は2日目以降にリーダーボードを一気に駆け上がった。ボギーなしで終えた3日目時点では日本人トップの7位タイ。最終日は3つのボギーを叩くなど波はあったが、後半は持ち直してトップ10入りを果たしている。
片平が最も大きな変化を感じたのは最終日17番パー3。ピンは左、風は右から。これまでの渋野であれば、右を向いてドローボールで攻める状況だった。
「風に負けない強い球を打てるようになったことで、ストレートボール系で左のコーナーのピンを攻めて、バーディーを取ることができていました。すごく器用ですよ。このオフ、わずか2カ月ほどで球筋がドローからフェードへ変わりましたから。こんな短期間で真逆のことができるの!? ってビックリしました」
4日間通じて1度だけ右へOBがあったものの、ミスの回数が減り、その幅も狭くなってきた。渋野は昨季の最終戦で「今は優勝できる自信がないです」と弱音を吐くほど、下降線をたどっていた。「全てにおいてもっとレベルアップしないといけない。マネージメントの勉強だったり、ウェッジの100ヤード以内の精度、グリーン上でももっと何とかできると思います」と口から出てくるのは課題ばかり。ただ、青木コーチと真摯に取り組んだ成果が形になってきている。
「新しいスイングを習得できれば、大きなミスは出にくい。去年以上に楽しみな感じがします」(片平)
昨季は国内ツアーも含めて優勝はゼロ。アメリカに拠点を移してからまだ頂には立っていないが、スイングの精度が徐々に上がってくれば、渋野らしい思い切りの良いゴルフが戻ってくるかもしれない。
ほろ苦いルーキー組、アメリカの洗礼
今季からアメリカを主戦場とするルーキーたちにとっては、ほろ苦いデビュー戦となった。西村はカットラインに1打足りず予選落ち。勝は初日こそ好発進したものの、終わってみれば3アンダー、74位に終わった。
「2選手とも米ツアーの洗礼を受けたと思う」とは、片平の見解だ。
「米ツアーの場合、新人選手は早朝や遅い午後など、予選ラウンドではあまり良い時間帯でプレーできません。今大会は、パー5で2オンを狙えるコースだったこともあり、前の組のプレーを待つなど進行に時間がかかったシーンも。そのため、予選通過ラインのプレッシャーがピークを迎えるころに日没の時間が迫ってきてしまった。
最終組でプレーした勝選手も、その1つ前の組でプレーした西村選手も、絶対にスコアを落とせない残り4ホール時点であたりはかなり暗くなっていました。“たられば”は禁物ですが、日中の明るい時間帯で回れていたら、もうちょっと気持ちに余裕を持って向き合えたかもしれないですね」
1打差ギリギリで予選通過した勝だったが、3日目は7時30分スタートと、今度は一番早い組でのエントリーになった。
「前日にコースを出たのが20時ごろ。夜ご飯を食べ終わったのが22時。それから支度して、5時間ぐらいしか寝られなかった、と言っていました。ホールアウトしてから10時間後にまたコースに戻って試合するというのは、国内ツアーだとあまり経験がないと思います。もちろん、結果を出せば試合時間も変わってくるのですが……」
さらに日本とアメリカの環境の差に戸惑う様子を片平は教えてくれた。
「練習日と大会中では、雨が降った影響でコースの状態がかなり違いました。水曜日(試合前日)のプロアマ戦に出場していれば、その違いを把握できたかもしれませんが、ルーキーの選手は人数の関係で出場できないことはよくあること。月・火曜でしっかりとコースを把握したつもりが、いざ試合でコンディションが全く違うとなると攻め方が大きく変わる。そのあたりで戸惑った部分もあるかもしれませんね」
ただ、そこは勝負の世界。
「過酷な状況でも、しっかりと実力を出していくことがルーキーに求められること。それは今も昔も変わらない。今後も厳しい環境は続きますが、その中でそれぞれの良さを発揮して着実に成績を積み重ねていってほしいです」
次戦のDIOインプラントLAオープンのディフェンディングチャンピオンは畑岡奈紗(24歳)だ。昨年からコースは変わるが、片平は「畑岡選手や笹生選手も調子がいい。今季の日本勢はすごく楽しみ」と大きな期待を寄せる。
最新の世界ランクでトップ10に日本人選手は不在。だが、今季は日本人が上位を席巻するような活躍を見せてほしい。
文=南しずか
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