藤井聡太六冠、渡辺明名人、羽生善治九段など、将棋界は様々な話題にあふれています。夫婦ともども“観る将”になったというマンガ家の千田純生先生に今月も「ファン目線での将棋ハイライト」マンガをNumberWebで描いてもらいました!

 WBC優勝、とてつもない盛り上がりでしたね。普段はサッカー応援の僕ら夫婦ですが、僕は同郷(岩手県)の大谷翔平選手や佐々木朗希選手、妻は負傷しながらも奮闘した源田壮亮選手、打点を量産した吉田正尚選手の活躍に心打たれていました。さらにカタールW杯に沸いたサッカー日本代表の再出発の一戦も、三笘薫選手のゴールやドリブル、久々に聞いた6万人の声援もすごかった……。と、いきなり脱線してしまいましたが、WBCやサッカー日本代表戦と同時期に行われていた将棋界も、マンガみたいな神展開が連続だったので、今回もイラストで振り返っていきましょう!

1)誰もが“走り抜けた”22年度ラストの熱戦

 3月上旬、順位戦は各クラスで最終局を迎え、昇降級のドラマが決着しました。

<名人挑戦・来期昇級者の一覧>
名人挑戦:藤井聡太六冠※
A級昇級:佐々木勇気八段、中村太地八段※
B級1組昇級:大橋貴洸七段※、木村一基九段、増田康宏七段
B級2組昇級:石井健太郎六段、青嶋未来六段、渡辺和史六段※
C級1組昇級:斎藤明日斗五段、服部慎一郎五段、古賀悠聖五段※

 このイラストで取り上げたことがある棋士がズラリと並び、将棋ファンにとってお馴染みの人々ですが、今回目立ったのが「1期抜け」でした(※マークが1期での名人挑戦・昇級)。バックボーンもそれぞれです。

 破竹の勢いで駆け抜ける藤井六冠、その“藤井キラー”として着々と実力を身につけている大橋七段、さらに渡辺六段や古賀五段のような20代の新鋭はもちろん、太地八段も、昨期のB級1組昇級に続いて、ついにA級へ! 羽生善治先生との最終局に敗れた際には「絶望感」があったようですが……最高峰の舞台での活躍もぜひ見たいですね。一方、各順位戦では降級、さらにあと一歩のところで昇級ならずの棋士がいたのも事実。そんな皆さんの来期の雪辱も祈念しています。

新四段や渡辺名人、各女流棋士が見せる素顔も◎

 そんな激しい戦いに乗り込んでくる、新四段も決まりました。2023年4月1日付で昇段したのは小山怜央四段、小山直希四段、森本才跳四段、柵木幹太四段の4人。その中で、個人的に注目しているのは小山直希四段です。師匠はABEMA中継で分かりやすい解説をしてくれる戸辺誠七段(36歳)門下では初のプロとなりました。どんな新たな棋譜と盤上盤外での表情を見せてくれるのか!

 公式戦や昇級・昇段から離れた話題も2つ。1つ目は12日に行われた「Number Do EKIDEN」になんと、棋士の方々が参加したという。それも渡辺明名人、木村九段、佐々木八段、岡部怜央四段ってオールスターみたいな面々! さらに言えば渡辺名人がTwitterでガンガン告知するという(笑)。

 編集担当さんが駅伝の様子を観に行ったそうで――渡辺名人が「参加された皆さん速いですねえ」と笑顔で話しつつ記録を見せてくれたそうなんですが、1キロ5分切るか切らないかのペースだったとのこと……いやいや、十分速くないですか?

 渡辺名人は1週間前に棋王戦の激闘を戦い、佐々木勇気八段はマラソン前日に王将戦第6局の中継解説もしていました。オンとオフの切り替えの上手さは見習いたいなあと思うばかりです。

 女流ABEMAトーナメントについても。伊藤沙恵女流三段がリーダーのチーム伊藤(香川愛生女流四段、上田初美女流四段)が決勝戦でチーム加藤(加藤桃子女流三段、渡部愛女流三段、中村真梨花女流三段)とのフルセットの激闘を制して優勝しました。アベトナお馴染みのチーム動画では「カトモモ」こと加藤女流三段が豪快な釣りをしたり、伊藤女流三段と香川女流四段が「マイクロピッグ・カフェ」で子ブタちゃんに癒される様子がとてもキュートでした(笑)。

2)3月も藤井聡太竜王は快挙の数々

 3月は藤井竜王の「防衛・タイトル獲得ロード」がクライマックスを迎えました。

<藤井竜王の3月の対局結果一覧/対局相手の段位は省略>
3月2日:○順位戦A級/vs稲葉陽
3月5日:●棋王戦第3局/vs渡辺明
3月8日:○順位戦A級プレーオフ/vs広瀬章人(名人挑戦権獲得)
3月11、12日:○王将戦第6局/vs羽生善治(初防衛成功)
3月12日放送:○NHK杯準決勝/vs八代弥
3月19日放送:○NHK杯決勝/vs佐々木勇気(初優勝/グランドスラム達成)
3月19日:○棋王戦第4局/vs渡辺明(棋王奪取/六冠)

 ……すさまじいの一言です。王将戦防衛後にウナギと戯れたり、棋王戦勝利後にイチゴとともに写真に収まる姿は対照的にキュートなんですが(笑)。

 羽生九段、渡辺名人相手のタイトル戦勝利はもちろんのこと、収録日の関係で各タイトル戦と同じ日に放映されたNHK杯もついに初優勝。これで「朝日杯将棋オープン、銀河戦、JT杯日本シリーズ、NHK杯」という一般棋戦の4タイトルを全て制するというグランドスラムも達成しました。WBCやメジャーリーグで大活躍する大谷選手、サッカー日本代表やプレミアリーグでゴールを量産する三笘選手もそうですが、藤井六冠が描く物語は〈マンガでもありえないでしょ〉という既成概念を吹っ飛ばしてくれるドラマチックさで、本当に偉人だなと。そりゃ、大谷選手とともに教科書にも載るわけですね(笑)。

 3月は7局で6勝1敗という恐るべき成績……ですが、その1敗となった棋王戦第3局は、最後の最後まで形勢と評価値が二転三転する凄まじい展開でした。藤井竜王が勝ち筋を見落とし(そんなことがあるのか!)、渡辺名人が最後の最後で勝ちを拾った展開に、ただただ驚愕するばかりでした。編集担当さんいわく「現地解説だった高見泰地七段が対局終了後、凄まじく疲弊していた姿を見て戦慄しました」。高見七段がそうなのだから――対局者の2人はさらにキツかったんだろうなと、畏敬の念を感じるばかりです。

3)「藤井六冠」の先に待ち受ける砦

 さて王将戦防衛(ボクシンググローブのチャンピオン姿も意外と似合っていた)、棋王獲得で「藤井六冠」となったわけですが、20歳8カ月で迎える新年度は谷川浩司十七世名人が持つ「最年少名人」への挑戦が始まります(谷川十七世名人は21歳2カ月で達成)。とはいえ渡辺名人も「名人位」は言わば、最後の砦。過去3回タイトルを奪取された悔しさを、名人戦で必ずやぶつけてくるはず。棋王戦第3局のような大激闘が見られるのでは……と心待ちにしています。

 さらに防衛ロードでも、新たな挑戦者が。第8期叡王戦は「振り飛車」という戦法でのトップランナーである菅井竜也八段が藤井叡王に挑みます。

「平成生まれ初のタイトルホルダー」という肩書を持つ菅井八段は、デビュー直後の藤井四段に連勝し、2022年度の順位戦A級2回戦でも勝利しています。この叡王戦で「タイトル戦すべて防衛・奪取中」の藤井六冠に土をつけるのか――菅井八段との盤勝負で、藤井叡王がまた新たな進化を見せるのかを含めて、新年度も将棋を全方位で楽しみたいと思います!(構成/茂野聡士)

文=千田純生

photograph by Junsei Chida/JIJI PRESS