イタリアでの2シーズン目が閉幕しました。

 10月の開幕から順位決定リーグまで、すべてを戦い切れた。僕にとっては、成長できたと実感することができたシーズンになりました。

 初めてイタリアへ渡った昨シーズンは、セリエAがどんなリーグで自分がどれだけできるのかを知りたかった。でも今シーズンは自分が強くなることを目的に、イタリアでプレーする1人の選手として勝負する気持ちで臨んだので、気持ちの入り方も全然違いました。1試合1試合、自分がチームの軸となって世界を相手に戦い続ける覚悟を持っていたので、メンタル面もフィジカル面も総合的に強くなることができました。

練習からピリピリ「かなりしんどかった」

 振り返ればいい時ばかりだけでなく、苦しいこともたくさんありました。

 開幕はモデナ、ルーベという強豪相手に連勝スタートすることができましたが、11月は全く勝つことができず、かなりしんどかった。僕だけでなくチーム全体がストレスをためて、練習からピリピリした空気で、切り換えるのが難しい時期もありました。

 でも僕はストレスがかかっていたり、しんどい時ほどバレーボールに集中したほうがいいタイプなので、苦しいからこそ明確な目標を立てて臨むだけ。イタリアで挑戦する以上、壁にぶち当たらないわけがないですし、その壁を乗り越えられた先には成長した自分がいる。次の試合で結果を出して乗り越えるしかないと思っていました。

 そんな状況もあったせいか、結果的にプレーオフへ進出することはできませんでしたが、最終成績を7位で終えたことには満足しています。5位決定リーグに出場したパドヴァは、来シーズンを見据えたメンバーを中心に戦っていたので、僕はなかなか出場機会がなく、途中から試合に出ることも多い立場でした。でも、それも新しい経験です。

 何より、1シーズンを最後まで戦い切れたことは自信を得られたし、周りからも「すごかった」という言葉をいただきました。一歩ずつ成長を重ねて、期待値よりはるか上に行けたのではないかと自分でも満足しています。

 文化の違う国で生活して、バレーボール選手としてプレーする。1つ1つの技術や戦いに臨むメンタルはもちろんですが、プロチームに所属する1人の選手としてもたくさんの経験を通してさまざまな学びがありました。

 イタリアでは、シーズン中もクラブスポンサーが主催するイベントに積極的に参加します。ありがたいことに僕は毎回そのメンバーに選ばれていたので(笑)、ピザをつくったこともありました。もちろん生地はすでにできあがっていて、具をのせるだけですが初めての経験なので楽しかったです(笑)。

 何より嬉しいのは、そういった活動を通していろいろな方に認知していただく機会が増えたこと。コロナ禍でファンの方々と直接触れ合える機会がなかったので、練習や試合会場でファンの方々とお話ができるのも貴重で、おしゃべり好きな僕にとってはリフレッシュの時間でもありました。

 パドヴァの方々にも自分という選手を知ってもらえるきっかけになっていたら嬉しいし、自分を通して現地の方々には日本人選手のイメージもつくられる。たくさんの方々とコミュニケーションを取って応援してもらえる存在になるのは、まさに自分がやりたいことでもあるので、楽しい経験でした。

日本語を勉強する台湾のファン

 そしてイタリアだけでなく、日本からもたくさんの方々が応援に来て下さったことも、僕には大きな力になりました。中には「藍選手と話したいから日本語を勉強した」という台湾の方もいて、わざわざ来てくれるだけでも嬉しいのに、言葉まで勉強してくれるなんて、とすごく嬉しかったし、熱心な思いや愛を感じました。ありがとうございました。

 今年は日本でも多くの試合が開催されます。イタリアでたくさん応援していただいた分、日本でプレーする姿を見ていただき、影響や勇気、感動を与えられることが僕にできる恩返しだと思っています。「日本へ帰ったらもっと強くなった姿を見せたい」と思いながら戦ってきたイタリアでの経験を、少しでもお見せすることができたら、これ以上の幸せはありません。

 イタリアにいる間も日本のVリーグや、同じ日本代表でプレーした選手の活躍はいつもチェックしていました。特に大塚(達宣)選手は大学での試合を終えてすぐパナソニックに合流し、(ミハウ・)クビアク選手と対角を組んでプレーしている。ものすごく経験値が上がり、得られるものがたくさんあっただろうな、と思いながら見ていました。

 一緒に戦う仲間であり、ライバル。大塚選手の活躍にたくさんの刺激を受けていましたし、僕ももっともっと努力しなければいけない。パドヴァでの経験を少しでも形にして、これまでとは違う姿を日本代表でお見せできるように、僕も頑張ります。

「バレーボールの魅力を伝える、絶好の機会」

 日本だけでなく世界を見渡せば、イタリア代表の(アレッサンドロ・)ミケレット選手やブルガリア代表の(アレクサンダル・)ニコロフ選手のように、自分と同世代や年下の選手も活躍しています。自分はまだ若いほうだと考えるのではなく、試合に出る以上年齢は関係ない。日本代表でも軸となって、周りを引っ張っていけるような選手になりたいと、これまで以上に強く思うようになりました。

 まずは、6月に名古屋で行われるネーションズリーグから1試合1試合、目の前の目標に集中して臨むことが第一。そして、秋にはパリオリンピック出場がかかったオリンピック予選(OQT)も日本で開催されます。メンバーに選ばれたら、僕にとっては初めてのOQT。どれほどの緊張感やプレッシャーが伴うか、想像もつかないですが、僕たちの目標はオリンピックに出場することではなくメダルを獲ることです。ここで結果を残すことができれば選手としての価値を高めるだけでなく、日本代表のレベル、認知度も上がるチャンスだと思っています。

 サッカーW杯やWBCでも証明されている通り、スポーツの世界は結果がすべてであり、結果を出すことで見られ方も変わる。バレーボールの面白さを伝える、絶好の機会だと思うので、常に全力で自分のプレーを出し切ることを意識して臨む覚悟です。

 最後に。これまでの連載をまとめたフォトエッセイ『髙橋藍 カラフルデイズ』が発売されました。撮影は約1年前なので、改めて見返すと顔つきも身体つきも違う。文章を読み返しても、考え方の変化も自分自身で感じます。少しは成長したし、大人になったかな(笑)。

 1年で人間がどれだけ成長できるか。高橋藍という選手がどんな人間か。この本から感じ取っていただけると思うので興味を持っていただけたら嬉しいです。

(構成/田中夕子)

文=高橋藍

photograph by Tomosuke Imai