107年ぶり、慶応の優勝で幕を閉じた今夏の全国高等学校野球選手権大会。これまで夏の甲子園を彩ってきた名投手の中でも「史上最強ピッチャー」といえば、あなたは誰を思い浮かべますか。そこでNumber Webでは、「あなたが選ぶ夏の甲子園“史上最強ピッチャー”」というテーマでアンケートを実施。8月8日〜16日にかけて、計747票が集まりました。
後編ではランキング5位から1位の結果を発表します。<#1では、10〜6位の結果を公開中です>
5位 斎藤佑樹 29票
6位は田中将大、そして5位にはその田中と「伝説の決勝再試合」を投げ合った斎藤佑樹(早稲田実/西東京)がランクインしました。
2006年夏の甲子園。投げた球数はじつに「948球」。涼やかにハンカチで汗を拭いながら投げる様子から、つけられた愛称は「ハンカチ王子」。夏3連覇を期す駒大苫小牧との決勝は延長15回で決着つかず、再試合へ持ち越されます。日本列島が注目した世紀の一戦も斎藤が好投。最後の打者・田中を三振で斬り、早稲田実に夏初優勝をもたらしました。
「お茶の間に広がった人気もさることながら、決勝再試合も含め、ほぼ1人で投げ抜き優勝に導いた大エース。今でも語り継がれるほど、高校野球史に残る激戦の多かった第88回大会の紛れもない主役です」(28歳・男性)
「高校野球を沸かせたといえばこの投手。画面から涼やかな風を送ってくれる、夏の清涼剤のような選手でした」(43歳・男性)
「田中投手と斎藤投手のおかげで、今でも高校野球が大好きです」(35歳・女性)
4位 吉田輝星 70票
夏の甲子園「100回記念大会」、メンバー全員秋田出身、強豪をつぎつぎに倒す農業高校……そんなマンガのような設定を“実現”した2018年の金足農(秋田)で、絶対エースとして君臨した吉田輝星が4位に輝きました。
美しい軌道で150キロに達する速球に加え、ピンチでギアを上げる投球術、巧みなバント処理の技術もあわせ持つ本格右腕。大垣日大、横浜、近江、日大三といった強豪を相手に快投をつづけ、秋田県勢として103年ぶりの決勝進出を果たしました。満身創痍の状態で臨んだ大阪桐蔭戦は敗れるも、県立校のエースとして、物語の主人公として、チームを躍進させた吉田の投球は、多くの野球ファンを生み出したようです。
「野球に一切興味のなかった私を、一気に“沼”に引き込んだのは甲子園で投げる吉田輝星くんでした。絶対的エースという言葉は、あの夏の彼にピッタリだと思います。私の史上最強ピッチャーは彼以外いません」(54歳・女性)
「人を惹きつけて離さないストレートは唯一無二だと思う。三振を奪うたびに爽快な気分になって野球で感じたことのない高揚感を感じた」(40歳・女性)
「試合後半にギアをあげるところがかっこよかった」(40歳・女性)
「吉田投手の姿を見た息子が野球を始めました。今は中学生になり、学校の部活を頑張っています。吉田投手の活躍が無ければ息子は今、野球をしていなかったです」(49歳・男性)
3位 江川卓 89票
ここからいよいよトップ3の発表。
89票を集めた江川卓(作新学院/栃木)が3位に。
江川が投げる球を相手打者がバットに当てただけで甲子園がざわめいた――そんな逸話が残るように、江川の最たる武器はその速すぎる直球。「もし現代のスピードガン性能で測れば……」の話題は野球ファンの間で“定番の肴”といえます。
3年時、1973年夏は栃木大会で5試合に登板、うち3試合でノーヒットノーランを達成。乗り込んだ甲子園では初戦で柳川商を相手に23奪三振(15回参考)で勝利、2回戦で銚子商に0-1のサヨナラ負けを喫するも、噂に違わぬ投球ぶりに日本中が心を震わせました。単純明快なストレートで相手打者を切り裂いていく様は、まさに「怪物」。
「速かった。無敵だった。それに尽きる」(62歳・男性)
「TV観戦でも球が浮いている(ホップしている)ように見えた」(62歳・男性)
「バットに当たっただけでスタンドがどよめくなんて、後にも先にもない」(62歳・男性)
「当時、江川投手が登場する日は電力不足になるというニュースがあったくらいです。それだけみんな見たかったということ」(60歳・男性)
「とにかく頭脳的なピッチングが印象的。江川投手に勝つために相手高校が知恵を絞り、特に(センバツで対戦した)広島商がヒット待ちではなく、足を絡めて1点取ったのがすごかった。広島商が普段から打倒江川で練習して備えていた。それほど相手が恐れていたということ。今の時代、そこまで備える対戦相手は存在するのだろうか」(64歳・女性)
2位 桑田真澄 106票
かの伝説的強豪・PL学園(大阪)の黄金期を築いた桑田真澄が2位に。
「1年夏に甲子園デビュー」「5季連続で甲子園出場(すべてベスト4以上)」「夏の甲子園14勝」「最後の夏を含む優勝2回」。そんな甲子園にまつわる“パワーワード”を多くもつレジェンドが、ほかならぬ桑田でした。
名門で1年夏から実質的なエースとして活躍。野球選手としては小柄な174cm、球種はストレートとカーブのみ……。それでもほぼ完璧ともいえるコントロールと、大きく曲がるカーブのコンビネーションで相手を翻弄。清原和博とともに最後の夏を優勝というドラマも、「甲子園のエース」らしい締めくくりでした。
「甲子園通算20勝の実績に加えて、並いる強豪校に対する小気味良いピッチングと躍動感、高校生らしい爽やかさが印象的だった。低めに糸を引く真っ直ぐと大きなカーブは一級品」(60歳・男性)
「PL学園の黄金期を築いた小さな大投手。内角低めにズバッと決まったストレートに鳥肌が立ちました」(50歳・男性)
「1年生で、当時夏春連覇中でどこにも負ける気がしなかった池田高校を破っての優勝というのは、強烈なインパクトがあった。夏の甲子園14勝は凄いの一言」(54歳・男性)
「池田高校戦の勝利は、大番狂わせの試合でした。PLが勝つなんて。それも投手は1年生。彼の名前は桑田真澄。この名前を忘れられなくなる試合でした」(74歳・男性)
「4/1生まれで、早生まれの高校1年生(同じ年の4/2以降に生まれた人はまだ中学3年生)で甲子園に行き、甲子園通算20勝もの成績を収めた人だから」(48歳・女性)
「恵まれているとはいえない体格でありながら投手としてスピード、変化球の精度(投げられる球種があるのに高校生レベルではカーブしか使わず)、制球力、スタミナと高いレベルで全てに優れた力をもち、かつ打撃、守備にも秀でていたまさに史上最強投手だと思います。また、『史上最強』という言葉が似合わないような顔つき、体格であるのも逆にいいと思っています」(50歳・男性)
1位 松坂大輔 292票
アンケート「あなたが選ぶ夏の甲子園“史上最強ピッチャー”」で栄えある1位に輝いたのは松坂大輔(横浜/神奈川)でした。
25年前の夏、延長17回250球を投げ抜いた準々決勝・PL学園との激闘、翌日は8回6点ビハインドから(テーピングを外して)リリーフ登板して逆転劇を呼び込んだ準決勝、そして59年ぶり史上2人目の「決勝でノーヒットノーラン」で決めた春夏連覇。松坂を主人公としたこれら“3部作”に日本列島が揺れました。
当時珍しかった150キロ台のストレートや鋭くエグるスライダーはもちろん、卒業後プロ1年目で最多勝を獲得したことからも高校レベルを超越していたといえる完成度、そしてマウンドに立てば流れが変わる圧倒的スター性――それらすべてを有す完全無欠のピッチャーこそ、松坂大輔でした。
「高校生と言うより歴史上の偉人のレベル。松坂がいたからこそ高校野球のステータスが一層高まったと思う。出場した試合それぞれにドラマがあった」(63歳・男性)
「高校時での完成度はダントツだと思います」(54歳・女性)
「準々決勝・PL学園との延長17回を一人で投げ抜き、準決勝の明徳義塾との試合では終盤まで完全に劣勢状態だったのを、自身がマウンドに上がり無得点に抑え、直後にサヨナラ勝ち。決勝の京都成章との試合ではノーヒットノーランを達成と、これから先、様々な記録を打ち立てるピッチャーが出現するとは思われるが、松坂大輔のような記録にも記憶にも残る史上最強ピッチャーは出現しないと断言できる」(44歳・男性)
「テーピングを外して、マウンドに立った姿を見て鳥肌が立ちました。私の子供もその後、幼稚園の時松坂みたいにジャイロボールを投げたいと言って、野球を始めました。私の心の中のヒーローです」(51歳・女性)
「文句無しのNo.1。『松坂世代』なる言葉をも生み出し、歴史に君臨するほどの活躍だった」(56歳・男性)
「仲間を大切にしていて、誰かが失策しても笑顔で返しているのを何回も見ました。頭が下がります」(61歳・女性)
「準々決勝の延長戦を投げ切る姿に感動して、初めて甲子園の試合を最初から最後まで席を立たずにテレビにくぎ付けになった試合でした。その翌日はデートの約束がありましたが、横浜高校の試合が見たくてドタキャン。少しケンカになりましたが、あの逆転劇を観られたので大満足でした。そのあとずっと松坂選手のことが頭から離れなくて大変でした(笑)」(47歳・女性)
ほかにも、板東英二(徳島商)、藤浪晋太郎(大阪桐蔭)も10票以上を集めました。100年を超える甲子園の歴史に燦然と輝く名投手たち。今後、どんな“最強ピッチャー”が甲子園に現れるのでしょうか。
〈徹底検証「『甲子園の優勝投手はプロで大成しない』は本当か?」編につづく〉
文=NumberWeb編集部
photograph by Katsuro Okazawa/AFLO